母とマドレーヌ
お菓子づくりは母に教わった。
わたしの母は料理がとても上手な人で、中でも洋菓子作りはレストランで出していた事もあり、プロ級の腕前である。今でも私や妹が実家に帰るごとにケーキを焼いてくれ、さらにこちらの食べたいお菓子のリクエストにも可能な限り応えてくれる。下の妹など、誕生日になると三段ケーキを毎年ねだって作ってもらっている。姉二人が決して持ち得ない末っ子特権である。ほぼ毎週誰か帰っているというのに、大変優しくまめな母である。
こどもの頃休みの日になるとお菓子を作ってくれる母にとても憧れていて、多分3、4才くらいの頃には、「私もお菓子を作りたい」と母にねだり一緒に台所へ立っていた。
当時の私に課せられたのは、ボールに入れたバターを柔らかくなるまで木べらで練るという作業。こどもだった私にとって、ものすごく大変な作業だった。冷蔵庫から出したバターは固く、こどもの小さな手でバターをクリーム状まで練るのは大変力がいり、かつ時間のかかる作業だったのである。母は上手であるが故に妥協を許さない人でもあり、しかも保育士という子育てのエキスパートでもあった。長女だった事もあり、向き合える時間もあったのだろう、母は実に辛抱強く、私にバターの練り方を教えてくれた。今でもバターを練る時には当時の悪戦苦闘を思いだし、少し切ない気持ちになってしまう。(今はレンジの弱機能を使えばバターはすぐに柔らかく、練りやすい状態になる。良い時代になった。)
今朝は久しぶりに休みをもらったので、マドレーヌを焼いた。バターを練る話をあんなにしたにもかかわらず、溶かしバターのお菓子である(笑)。前日の夜に生地を作って寝かせておいたのでよく膨らんでいる。焼き菓子の甘い匂いが部屋に満ちてくると、とても落ち着く。深呼吸して、お茶を淹れはじめる。
春の夢一夜寝かせるマドレーヌ
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