読書で夏支度
わたしは本を読み返すのがとても好き。好きな本を読み返す行為は、とても安心感がある。大好きな箇所を何度も読み返しては笑ったり感動したり、前に読んでいた時に気づかなかった新しい発見もあったりしてとても楽しい。
夏が近づいてくると読み返したくなる本がある。ここ数年の私にとっての夏支度と言えるかもしれない。
たんぽぽのお酒 レイ・ブラッドベリ
1957年に発表されたレイ・ブラッドベリの半自伝的ファンタジー小説。数年前古本屋さんで見つけて、確か有名なお話だけど初めて読むなあと思って買ったけど、少し読んだら昔図書館で借りて読んだことがあるのを思い出した。こどもの頃読んだ本は、大人になってスラスラ読めるようになっていることがほとんどだけど、この本は逆。読みにくい。むしろこどもの頃の方がすらすら読めていたような。
なぜかなあ、なんとなく、こどもが書いたような文章なのだ。伝えたいことがたくさんあり過ぎて、一瞬だって止まっていられない、多少つたなくてもいいから、日差しも風も、街も森も、匂いも人も、とにかくすべて急いで本に詰め込んだという感じ。まるで急がないと消えてしまうとでもいうように。
実際そうかもしれない。こどもの頃の、いつも何かにわくわくして、意味もなく楽しくて、それでいて退屈だった夏は、ソーダの炭酸が消えるみたいに二度と戻らない彼方へ行ってしまった。最近の夏ときたら昔とは似ても似つかぬ過酷さでやってくるし。
でもだからこそ、今この本をひらくことに意味があるのかも。あのこどものころの、楽しくて、退屈で、キラキラの夏を、沢山のたんぽぽに変えて、あますところなく閉じ込めて蓋をしたお酒。歳を重ねるほど思い出は熟成されて、瓶の中でより泡立ちキラキラと光る。永遠と信じていたあの夏の儚いひかりを、本を読み返すことでもう一度胸にしまって、また今年の夏へと向かう。
たんぽぽにタイムマシンの可能性
読んでくださりありがとうございました。