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『令和源氏物語 宇治の恋華』解説/第18章<山風>

みなさん、こんにちは。
次回『令和源氏物語 宇治の恋華 第二百三十四話 夢浮橋(一)』は9月26日(木)に掲載させていただきます。
本日は第18章〈山風〉について解説させていただきます。


 中宮と僧都

女一の宮が物の怪に悩まされ、山からその調伏に参内した僧都は明石の中宮の御前に召され、労いを受けます。
その徒然に物の怪の哀れさを語るとともに、物の怪に憑かれた姫君を助けたことを話し始めました。
宇治という場所という不思議な符号に中宮はもしやその姫が薫の想い人ではあるまいか、と思い当るのです。
側にいたのは薫に好意を寄せる小宰相の君のみ。
中宮は彼女を通じてこのことを薫に知らせようと考えるのでした。

 尼君の嘆き

美しい浮舟が尼姿に形を変えるのを誰より惜しんだのは彼女を娘の生まれ変わりと信じて疑わなかった尼君でした。
兄の僧都が浮舟を出家させたことを尼君は詰りましたが、僧都はそのあさましい心根をぴしゃりと叱ります。それは姫と中将を結婚させてかつての栄華を取り戻したいという願望を知ったからです。
「そのような心持であるから観音様はあなたから再び娘を奪ったのでしょう」と、取りつく島もないのでした。
しかし、出家したことを除いては姫の生来の心優しい性格や穏やかにつつましく過ぎてゆく時間が当たり前となり、次第に庵に馴染んでくる姿をやはりかわいい娘と愛しく感じるのでした。

 山風

年も改まり、すっかり尼としての生活に慣れた浮舟の草庵に思わぬ人が訪れました。
それは尼君の甥にあたる人でしたが、なんと薫君の側近くに仕え、庵を訪れたのは亡き浮舟君のための御礼の装束の仕立てを依頼することでした。
なんとも皮肉なことでしょう。
浮舟は自分の法会の為の装束を縫うのも不吉と考えその場を退出してしまいます。
それにしても下々の者にまで慕われる薫君のお人柄が懐かしく、庭先の梅の香りはその人を思い出さずにはいられません。自分の親族たちが君によって引き立てられているという心遣いもありがたく、浮舟の心は思わぬ都から吹いてきた風に揺れ動くのです。
そして山から思わぬ吹いてきた風は薫に浮舟生存を知らせるものでした。
浮舟を姉と慕った小君を側近くに弟のように可愛がり、もしも生きているならば母も喜ぶであろうと心を落ち着かせようとするものを、誰あろう薫こそ浮舟に再び会いたいと気持ちが急くのです。
しかし薫の心境は複雑であったでしょう。
もしも匂宮に浮舟生存が知られれば、ふたたびあの愛憎の日々がおとずれるということ。
宮がご存知ならばこのまま譲ってしまうのがよかろうか、とも。
しかして賢い中宮は愚かな息子には伝えない意思を示したのです。



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