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運命の赤い毛糸 【シロクマ文芸部】

みなさん、こんにちは。
今週のシロクマ文芸部のお題は「マフラーに」から始まる創作です。
マフラーといいますと、襟巻かバイクのパーツという手もアリですね・・・。
小牧部長、今週もどうぞよろしくお願いいたします!

『運命の毛糸』

マフラーに愛をこめて好きな相手に贈るのがこの国の風習だ。
でも、私は編み物が苦手で、器用な妹が編んだマフラーを夫に贈った。
その罰なのか、呪いなのか、夫は妹と共に出奔してしまった。
苦労知らずのお坊ちゃまは家を捨てて愛を選んだのだ。
夫の両親は老いて田舎の邸に引き籠り、かつて名君主と呼ばれた精彩はすでになく、遅くにできた一人息子の不出来を嘆いていた。
皮肉なもので、才覚があったのか、私は夫の仕事を継いで領地を治め、名実ともに女伯爵となった。
帝国に従う私の領地は今年も豊作に恵まれて、隣接する国とも関係が良好であるから戦争も起きない。
優秀な執事は淡々とクリスマスの準備を進めていた。
「マーガレット様。今年は大変なお客様が中央から来られるようですよ。もてなしはどういたしましょう?」
「視察も兼ねてでしょうね?どなたがいらっしゃるの?」
面倒で仕方がない。
それでも私の立場ではそれを断ることは許されない。
「はぁ、それがグラストン侯爵だそうです」
「え?なぜこんな辺境にそんな方が?」
グラストン侯爵といえば、早世した先王、現王の兄の息子で現皇太子とは従兄弟にあたる人物。
世が世ならば次の王になってもおかしくない貴族だった。
美貌の持ち主で、派手な恋愛遍歴を隠しもしないという噂が気に食わない。
「今年は温かい土地でクリスマスを過ごしたいということですよ」
「そうなの、気が張るわね。女性を同伴しているでしょうから、どの邸を提供したらいいかしら。湖のほとりなんてピッタリかしらね」
「それがですね、レディ。こちらに滞在したいというご要望です」
「なんて厄介な・・・。」
そのまま言葉を飲み込んでしまった。

侯爵の為に中央の料理人を呼び、帝国風の飾りつけをしたクリスマスだからか。
いつもとは違うように感じるのは・・・。
「そろそろ侯爵が到着するお時間ですよ」
「わかったわ」
ちらりと覗いた姿見には簡素なドレスに事務的な表情。
見苦しくなければ失礼にはあたらないだろう。
どんな軽薄な男がでてくるか、と馬車から降りた侯爵は、銀髪をなびかせて優しげに菫色の瞳をほころばせていた。
さすが王族の血を引くだけあって、品格がある。
しかしこの地の領主として毅然と振る舞わなければ・・・。
「侯爵様、はじめてお目にかかります。マーガレットでございます」
「ふむ。それではメグとお呼びしよう」
やんわりと低く響く声は魅惑的で、困惑せずにはいられない。
何より私は動揺した。
その昔、私を『メグ』と呼んだ少年を思い出したのだ。
あの少年が大人になっていたら今の彼のような風貌に成長していることだろう。
「約束を覚えているかい?」
「約束?」
「編み物が苦手な君の為に僕がマフラーを編んで贈ると約束したじゃないか」
ほろほろとほぐれる記憶の糸。。。
「メリークリスマス、メグ」
そうして彼は赤い毛糸で編んだマフラーを私の首に巻いてくれた。

<了>

ロマファンみたいなものを書いてみたいと思ったので挑戦してみました☆

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