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銀のひとひら 【シロクマ文芸部】

みなさん、こんばんは。
年末年始、風邪をひいてしまい、ちょっと大変でした。
私の文芸部活動、本日から、本年もどうぞよろしくお願い致します。

「雪が降る」から始まる創作です。
小牧部長、本年もどうぞよろしくお願い致します。

『銀のひとひら』

雪が降る。。。
その年最初に降る初雪の最初のひとひらを手にすることができたなら、銀色の魔法使いがなんでも願いを叶えてくれる。

 そんなのはただの言い伝えだと私は知っている。

父と母を事故で亡くした幼い私が、かつて願い、その言い伝えを信じて必死に願っても、銀色の魔法使いは命を生き返らせることはできないと憐れみの色を滲ませた。
それどころか自分を召喚した対価を求められたのだ。
私には何も無かった。
だから唯一の友達がその身を捧げると笑んで消えた。
たしかに銀のひとひらを手にしたのは彼だった。
理なのか、存在も無くなり、今となっては顔も、名前さえ思い出せない。
名前も思い出せなくなった彼を今再び思い出したのは、この灰色の空があの銀のひとひらが舞い降りた空色と一緒だったから。
朝から涙が流れ続けた異変はこのためだった。

あの時、なぜ私は自分を捧げると言わなかったのだろう。
幼かったゆえか。
否、やはり恐怖に目を塞がれていたのだろう。
あれから20年が過ぎ、大人になった。
何より叔母と同じ肺の病で「死」の気配がすぐそこにあるからか。

もしも銀のひとひらを今手にすることができるなら、名前も忘れた彼に詫びたい。

どうか、どうか。
銀のひとひらよ、私の手に舞い降りて・・・。
私の命を捧げるから。

ふわり、ふわり。
銀のひとひらが私の手のひらに舞い降りた。

「やぁ、私を呼んだのは君だね」
銀の魔法使いがふわりと私の前に舞い降りた。

「ダニエル、あなたなの?」
私はついに彼の名前を思い出した。
「エルヴィラ、僕はあの時君の幸せを願ったのに、そうではなかったのかい?」
彼の柔らかい声音に記憶がよみがえる。

 『どうか、エルヴィラが幸せでありますように』

ダニエルはそう願って消えたのだ。
大好きな叔母さんに引き取られ、裕福ではなくとも充分な愛を受けた。
叔母さんの死も私の病気も魔法使いの範疇ではない。
「私、幸せだったわ。あなたのおかげよ」
自然とこぼれ落ちた言葉に偽りはなかった。
「私はただあなたに会いたかったの」
「僕のことなんか覚えていなかっただろうに」
そんなことはない。
魂は繋がるかぎり、その痕跡は消えないのだ。

「私を捧げるわ、あなたのために」

刹那、あの銀の魔法使いが現れた。
「その願いは私が聞き受けた」
その時、苦しかった息は整い、体は軽くなった。
見上げるとダニエルの優しい瞳が私に注ぎ、彼はそっと私の手を取った。
ふいに銀の魔法使いはすねたようにそっぽを向いた。

「弟子のくせに師匠より先に嫁を娶るなんて・・・」

〈了〉

初雪の伝説をアレンジしたハッピーエンドです。
みなさまにもよいことがありますように。

#シロクマ文芸部
#雪がふる

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