Jewelry Box Ep.9 ジュエリー姉妹
ジュエリーには記憶が刻まれます。
ジュエリー業界一筋の私が、これまで垣間見たエピソードを紹介させていただきます。
今回のエピソードは、ジュエリーをこよなく愛するご姉妹のお話しです。
登場する方々には了承を得ておりますが、携わったジュエリーは個人所有のものですので、デザイン画や画像を公開することは致しません。
Ep.9 ジュエリー姉妹
私がこれまで多くのお客様とふれあってきた中でもダントツにおしゃれで美しいご姉妹のお話しを致しましょう。おふたりはこよなくジュエリーを愛されるレディたちです。
お姉さまはいつでもお心遣いがゆきとどいた上品でしっとりとした美女。
テーマカラーはダークトーンでジュエリーもブルーサファイアなどの落ち着いた色味にプラチナやホワイトゴールドを基調にしたもの。
妹さんは華やかな雰囲気で周りを明るくするタイプの美女です。
テーマカラーはピンクやイエローなどの明るい色味です。
お二人はいわゆる百貨店の外商付きVIPのお客様でした。
私は普通の家庭で育ったので、富裕な方々の生活を知りませんが、このジュエリーを扱うお仕事でそのきらびやかな方々とご縁を結ぶことができました。
まず裕福な方々というのは、ゆとりがあるためかセカセカしておりません。
そして心も豊かなので、非常に思い遣りに満ちて優しい方々なのです。
さてさて、私も含めてジュエリー好き女子が3人寄れば・・・、
それはもうかしましく楽しいお話ばかり。
すっかり意気投合して、ご自慢のジュエリーを見せてもらうべく、お宅に招かれることになりました。
重厚な日本家屋は玄関も広々とした立派なお宅でした。
「由緒がありそうなお宅ですねぇ」
「でもね、障子ばかりだからカーテンかけられないのよ。かわいいカーテンに憧れてるのに」
と、どちらかというと洋風な妹さんが口をとがらせておっしゃいました。
「小さい頃から育ったおうちだからねぇ、やっぱり落ち着くんだけどね」
しっとり美女のお姉さまが穏やかに微笑まれるとほっこりします。
「ゆかりちゃん、こっち私の部屋だから、来て来て~」
ついていくと、トイプードルのイチゴちゃんがお出迎えしてくれました。
これがまた可愛くて・・・。
その日のお姉さまはプードルちゃんのシルエットのネックレスをなさっておられました。
「お姉さま、そのネックレスはイチゴちゃんですね」
「そうそう、これ作ってもらったの♡」
それはもう、かわいらしくてとてもよくお似合いでした。
そして妹さんは四段の洋風のチェストの引き出しを引くと中にはジュエリーがギッシリ。
とてもきれいにディスプレイされておりました。
「もしかしてこのチェスト四段全部にジュエリーはいってます?」
「そうなのよ」
これはもうジュエリーボックスどころではありません。
ジュエリー箪笥というか、スケールが壮大デス。
「みせたかったのは、これよ。この間買ったんだけど・・・」
妹さんが見せてくれたのはバタフライのリングでした。
それはもうカラーサファイアのグラデーションで美しいピンクのアゲハチョウ。
大きさは五センチくらいのきれいな羽根が開いて、指につけると、まるで本物の蝶が指に停まっているように見えます。
しかし何より驚いたのは着けた指を曲げるとこの羽がひらりと羽ばたくのでした。
可動型ジュエリーですね。
構造がこれまたよくできていて、とてもビックリしました。
「メカニック~」
と、私の変な感想にお二人とも大笑い。
お姉さまもご自慢のジュエリーを見せてくれるとお部屋にお招きいただきました。
お姉さまのジュエリー箪笥は桐製で毬と組み紐の木目込みが描かれた上質なものでした。
「お姉さまらしいですね。こちらは着物箪笥ですよね?」
「そうなの。でもやっぱりジュエリーってちゃんとしまってあげたいでしょう」
ジュエリーだけではなく物を大切にされる方々なのです。スバラシイ♡
お姉さまが見せてくれたのは深い京紫のような宝石が留められたリングでした。
アメシストでもサファイアでもありません。
「お姉さま、この宝石はなんでしょう?」
わからないときには素直に聞くのが一番!
「エルバイトトルマリン、っていうのですって。一目見た時にすごく色が気に入ったのよ」
なるほど~。
バイカラーのトルマリンには緑から紫になってゆく色相がよくあります。
その紫の部分だけを切り出したミステリアスな宝石ですね。
かなり大きい宝石でしたので、なんとも贅沢な、私も初めて見たものでした。
眼福、眼福。
とても至福な時間を過ごさせていただきました。