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晩秋 【シロクマ文芸部】

みなさん、こんにちは。
シロクマ文芸部。
「秋と本」から始まる創作パート2 です。
小牧部長、こちらもよろしくお願い致します❗️

『晩秋』


「秋」と本姓が変わったからには、私は自分にできる責務を全うしたい。

夫は実りの時期にはとても魅力的なのだった。
ドングリを拾い集めるリス達に
「今年もたくさん収穫できるね」
と笑いかけ、熟れた実をついばむヒヨドリに、
「どうだい、美味しいだろ」
そう優しく頭を撫でる。
黄金色の稲穂は誇らしく次々と彼に頭を垂れた。
彼の髪は魅惑的に赤く色づき、神々しくて、その姿に私は一発ノックアウトされたのであった。

「あなたがうちの家門に入るというのね?息子があなたがいい、と言うのだから認めるしかありません」
義母になる女性は薄紅の髪と柔らかい雰囲気の優しげな方だった。
「今までに例のないことですから・・・」
姑なりに私を心底あんじてくれている。
春の母君は秋の帝に嫁いでこられた。
春と秋は並び敬われ、どちらも遜色ないと愛でられた美しい季節。
家門の交流も頻繁で、何よりかつてから婚姻関係を結んできた倣いがある。
しかして「夏」と「冬」の家門はあまりにも対極で、属性も違い過ぎるために、一族内での婚姻が世を乱さぬ定めと落ち着いていた。
そんな春秋の均衡に私という異物が混入したのだ。

「母上、これは私が望んだことなのです」
秋の皇子は毅然と私を守ってくれた。
「彼女と会った時に、冬の穏やかな地の眠りが秋の実りをもたらすのだと気づいたのです。私には彼女が必要です」
春の母君は、さもあらん、と花がこぼれるように微笑まれた。
「冬の女帝さま、私の息子ほど御身に足りぬ者ではないか、と心配でございます」
「秋の父帝さま、母君さま。私が殿下を癒せるならば、生き物たちにも息つく『晩秋』という季節が生まれましょう」
秋の帝と春の母君が微笑まれ、息子に信頼のまなざしが注がれる。
「私たちなりに新しい形を模索してゆきましょう」
彼は私の手をとり、愛を誓った。
そして世界は紡がれる。

〈了〉



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