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源氏物語ミュージアム
みなさん、こんにちは。
先日仕事にかこつけて京都の宇治まで足を伸ばしました。
宇治といえばやはり『源氏物語』ですね。
薫が通った場所であり、愛する師と姫を失った場所であります。
1月中旬ですので、気温は低く、宇治の川風はとても凍みました。
私が訪れたのは昼間で明るく、空は青くて景色が遠くまで望めて、まさに風光明媚な観光地そのものでした。
源氏物語ミュージアムへ
宇治の物語は悲しいお話なので、若干違和感を感じつつ(観光客も多いですしね・・・)例の紫式部像をスルーして宇治橋を渡りました。
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川幅がかなりありますので、平安の方々にはこの川を勇壮に感じたことでしょう。京都府内には鴨川がありますが、あちらは人も多く、どことなく雅な雰囲気があります。
それを比べると宇治川は自然の力が強い里の源という感じがしますね。
源氏物語ミュージアムは、大きな案内看板もなく、住宅街にぽつりとありますので、道を間違えているかとヒヤヒヤします。
以前訪れたのは10年近く前なので、本気でヒヤヒヤしました。
再現される源氏物語の世界
入館料は600円。
さすが公営の施設、リーズナブルですね〜。
入るとこの平安絵巻を再現したような場面に目を奪われます。
この場面はまさに源氏が空蝉を垣間見ているところです。
手前の女性が空蝉で、こちらを向いている赤い袿の女性が軒端荻ということになります。
源氏は空蝉のことをとりたてて美人ではないが、振る舞いに品があり、慎ましい姿に好感を抱きます。
なるほどこのアングルではほんのりと横顔が伺える程度ですね。
私の印象では源氏はあまり女性を顔で判断する男性ではありません。
とはいっても末摘花の姫の鼻の赤いご面相には驚いたようですが、その顔を見ても通い続け、源氏を信じて待ち続けた彼女を迎えて面倒をみるのです。
源氏は情の深い男性だったのですね。
そうとはいっても人妻を手籠めにしたのはいけません。
空蝉は二度目の逢瀬を単衣を一枚の残してうまく逃げきったというわけです。
空蝉に逃げられた源氏はやむなく軒端荻と契りを交わしますが、結局こちらの娘には心惹かれず、そのまま捨て置くという非情な態度をとりました。
情があるのか?無いのか?
よくわかりません。
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源氏が空蝉を垣間見た場面を描いた『紫がたり 令和源氏物語』はこちらです。。。
ふと後ろを振り返ると桜の木の下にあでやかな御所車が展示してあります。牛がいないので、牛車よりもやはり御所車ですね。中には貴族の女性が一人で乗っております。御簾で顔はもちろん見えません。
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常日頃から思うのですが、平安女性は顔を隠すのが嗜みとされ、恋のはじまりは文通でその手蹟と用紙のセンス、焚き染められた香で相手を想う、という恋愛スタイル。
平安男性はよっぽど想像力、というか妄想力が高かったように思われます。
やはり平安時代って不思議です・・・。
六条院模型
やはり心躍るのはこの六条院の模型でしょう。
源氏の富と権勢の象徴である六条院。
1/100スケールで復元した模型は約3メートル、つまり実物が存在していたら一辺300メートルの広大な邸ということになります。
源氏物語を書いていて、六条院でのことを書くときにこの模型はとてもありがたい存在でした。
四つの区画に分けられた御殿は「春夏秋冬」を象徴する造りになっております。それぞれその季節を象徴する女君(秋好中宮は義理の娘ですが)を住まわせました。
「春」はもちろん紫の上。
「夏」は花散里。
「秋」は秋好中宮の宿下がりの棟として。
「冬」は明石の上です。
それぞれの庭はその季節を表した造りになっています。
「春」は桜や梅をはじめ、山吹などの春にもっともにぎわう造作です。
「夏」は竹などで涼を呼び込む緑豊かな庭。
「秋」は萩や菊、薄や竜胆などの秋にしんみりと咲く情趣のあるものであったでしょう。
「冬」は明石の海に防風林として植えられた生命力の強い松が多く植えられました。明石を離れた明石の上とその母君を慰めるために造作されました。
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私がこの模型を見て感嘆したのは、春と秋の御殿が池でつながれているところです。
源氏物語第二十四帖「胡蝶」での場面で、春の御殿で開かれた春の宴にて、秋好中宮はその身分の重さに参加はできませんでしたが、お付きの女房達を春の宴に送り出すのです。
その時に秋の庭から舟でお隣の春の御殿のお庭へ訪問するのです。
秋の庭の築山の様子から、回り込むとそこは「春」。
なんとも雅ではありませんか。
『紫がたり 令和源氏物語』で、この場面を描いたのがこちらです。
そして、私が次に感心したのは、「夏」の御殿の庭です。
そこには鞠壺が設けられておりました。
夕霧と柏木が蹴鞠を勤しんでいたというあの鞠壺です。
鞠壺は四隅に高さの決まった桜、柳、楓、松が植えられ、それよりも高く蹴ってはいけないのです。模型の夏の庭にはこの植物がしっかりと植えられていました。
源氏に春の御殿に呼ばれた若者たちはそこで蹴鞠をはじめ、「柏木・女三の宮垣間見事件」が起こるわけです。
その場面が描かれているのはこちら・・・。
放映される映像について・・・
ここからはネタバレになりますので、読みたくない方はスルーしてください。
前から放映されている映像は浮舟をテーマにした「橋姫」です。
映像の巻頭に老いた尼僧が登場し、自分は浮舟であると語ることから始まります。
あくまで私の感想ですが、美しいままに想像していた浮舟が老いた尼僧でビジュアルに登場するのはけっこうキツイです・・・。すいません。
その後は彼女の目を通して薫と匂宮が描かれ、その愛の物語が語られます。
こちらは人形で描かれているので、なんとか見られます。
しかし、宇治に隠棲した八の宮と薫との御仏を通じた師弟関係には触れられず、それどころか八の宮亡き後に姫君達と巡り会った、というような事実ではない描かれ方が気になりました。
ほかにも違和感や明らかに違うという部分があり、脚本家は源氏物語を読んだことがないのであろう、と結論しました。
篠田監督によるもので、「なるほど、最初の老女の声は岩下志麻さんであったか」と夫婦共作に納得しました。
もう一本の映像はX世代を取り込むべく、アニメーションです。
タイトルは「GENJI FANTASY ネコが光源氏に恋をした」という、女子高生が現代で光源氏に会い、平安時代にタイムトリップして猫になるというトンデモ展開・・・。
猫の目を通じて紫式部と平安時代を観察?満喫?するというお話でした。
まぁ、若い方々が関心をもってくださるならばいいですね。
さて、なんだかんだで源氏物語ファンには楽しんでしまう場所です。
次の予定があったので、二時間くらいで去らなければなりませんでしたが、最低でもあと二時間は必要です。
喫茶スペースもありますし、図書室なんて思わず長っ尻になるほど源氏関連本が満載。
次に行く機会があれば充分時間を取って訪れたいところです。
長々と読んでいただきましてありがとうございました。