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Jewelry Box Ep.2 ファーストダイヤモンドはSDGS


ジュエリーには記憶が刻まれます。
ジュエリー業界一筋の私が、これまで垣間見たエピソードを紹介させていただきます。
今回のお話は成人するお嬢様に記念の品を、と頭を悩ませていたお父さんのお話です。
登場する方々には了承を得ておりますが、携わったジュエリーは個人所有のものですので、デザイン画や画像を公開することは致しません。

Ep.2 ファーストダイヤモンドはSDGS

桜咲き誇る四月。
誕生石はダイヤモンド。
二十年前に誕生した娘は成人になった。
もちろん子供であるということは一生変わらないし、何が特別になることでもないが、やはり感慨深い。
いや、一緒に酒を飲めることは大きな喜びだ。
だからといって娘に酒を薦める父親というのもいただけない。

さて、何を贈ろうか。
妻は成人の祝いとしてレディの嗜み・冠婚葬祭に着けられる真珠のネックレスとイヤリングのセットを両親から贈られたということだ。
形として残り、美しく装うにはジュエリーが最適だ。
やはり誕生石のダイヤモンドが相応しいが、あいにく妻も私も宝石やジュエリーには疎い。
ふと大学時代の友人の顔が脳裏に浮かんだ。
彼はアメリカに留学して宝石鑑定士の資格を持っていた。
ダイヤモンドの4Cなどと素人の私には難解、ちょうど妻と結婚する時に再会して婚約指輪の相談に乗ってもらったのだ。

再会の美酒を酌み交わしながら、思い出を辿る。
「娘さん、もう二十歳か、早いなぁ」
「お互いに年とったよな・・・」
「そうそう、成人のお祝いだったね。天然のダイヤモンドは値段が上がっちゃってね。そこで天然にこだわらないのであればラボ・グロウンダイヤモンドはどうだろう?」
大学卒業と同時に急にアメリカに行きを決めた男らしく、とてもユニークな提案だと思った。
環境に優しく、SDGS。
そしてその成分・品質は天然のダイヤモンドと変わらない。
「欧米ではラボ・グロウンダイヤモンドを買うことはちょっとしたステイタスになっているんだよ。ハリウッド俳優やセレブたちが環境保護を訴えて支持したことからSNSでも話題になってさ」
「それは興味深いね」
予算内で選ぶと0.5カラットにDカラー、VS1クラスのエクセレントカットの高品質なダイヤモンドが購入可能とのこと。
「あ~、もっと早く相談すればよかったな。娘の誕生日は来週なんだよ」
「じゃあさ、まずはルースでプレゼントしたらどうだい?ダイヤモンドそのものを直に見ることができるしさ。お嬢さんの好みのデザインにしてあげたら喜ぶよ」
「へぇ、そんなことできるんだ」
「うん。セミオーダーみたいな感じで特別なギフトにはぴったりだろ」
そうして私たちは週末に再び会う約束をして別れた。

家に帰って妻に相談すると、大・大・大賛成だった。
「そうよね。自分好みのデザインじゃなきゃ、今の子は贈ってもつけてくれないわよ。あの人やっぱり気が利いてるわねぇ」

そうして彼は綺麗なルースケースにリボンをかけて、準備を整えてくれた。
私たちのサプライズはもちろん大成功。
娘はまさかの0.5カラットダイヤモンドの存在感に大満足だった。
何より驚いたのは娘がラボ・グロウンダイヤモンドを知っていたことだった。
「インスタでね、ハリウッドセレブがつけてたの。しかもデニムに1カラットよ。かっこよかったのよねぇ」
ルースケースを何度も何度も眺める姿がかわいらしい。
「スゴイ、友達にも自慢しちゃおう。ありがとう♡」
いやはや、最近の子は何でも情報が早い・・・。
とりあえず父の威厳は保たれたようだ。
「デザインはどうする?パパのお友達からたくさん画像が送られてきてるぞ」
「わぁ、カワイイ。やっぱり時計と合わせるとピンクゴールドよね」
「ピンクのゴールドなんてあるのか?」
「人気なのよ。カワイイでしょ」
そうして娘は最近人気のピンクゴールドにダイヤをふっくらと包み込んだ覆輪のプチネックレスを選んだ。
アドバイザーの彼は、最初のジュエリーを入れるために旅行にも持ち運べるサイズのジュエリーボックスもどうかと提案してくれた。
もちろん娘は大喜び。
このボックスに次に入れるジュエリーをねだられそうだという予感は一瞬よぎったが、何よりカワイイの連発で特別な贈り物となったのだ。
 私の株は上がったようで、鼻高々に胸を張った。


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