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『罪』 【シロクマ文芸部】

みなさん、こんばんは。
今週もやってまいりましたシロクマ文芸部。
お題は「星が降る」から始まる創作です。
小牧部長、今週もよろしくお願い致します。

『罪』

星が降る。
私に向かって無数の星が降ってくる。

ここに送られてからの生活は、それは「壮絶」という簡単な言葉で片づけられるものではない。
一日の終わりにあたりが暮色に包まれて、夜がやってくる。
・・・恐怖の夜が。

星が降ってきた。
星は私だけを目がけて降ってくる。
最初のひとつが左の肩に当たり、次の欠片が右足のふくらはぎをつぶした。
足をやられると動きが鈍くなり、逃げることができなくなる。
またひとつ大きな欠片が右耳を掠め、背中に大きな痛みが走った。
小さく体を丸めてうずくまっても容赦なく星は降ってくる。
一晩中痛めつけられて、死ぬこともできない。
それが「罰」なのだと冥府の王は告げた。

かつて私は王であった。
人を支配する権力のもっとも上に君臨した者だ。
戦場で英雄として崇められ、国を大きく拡大して民を豊かにしたのだ。
しかし、戦争が終わると民は平和に飽きて堕落し、王に多くの物を求めて不穏な動きを見せる者まで現れた。
彼等に娯楽を提供してはどうか。
そんな進言に耳を傾けて奴隷を戦わせて民の歓心を煽ったのだ。
なかでも人気があったのは、奴隷を野に放して投石で追い詰めるゲームだった。
もちろん逃げ切れる奴隷がいたならば解放してやるという約束のうえだが、犬が放たれ、逃げることなど不可能。
このゲームでは奴隷は一人残らず命を落とした。
王としてしたことだった。
それでもそれは「罪」なのだと冥府の王は冷たい笑みを浮かべ、「罰によって罪が濯がれたなら、また次の世に生まれることができるだろう」とまるでかつて自分が奴隷たちに約束した甘言を口にしたのだ。

どれほどこの罰を受け続けているのだろう。
ここはタルタロス。
冥府の一番底に幽閉される者は、もっとも罪の重い者たちだという。
ある者は大石を山の頂きまで運ばなければならないが、その大石が山頂に積まれることはない。
ゴロゴロと転がり落ちて、また振り出しに戻るのだ。
ある者は自由を奪われ、どこからともなく飛んでくる大鷲に肝臓を貪り喰われる。次の朝には肝臓は元に戻り、また同じ苦しみを味わうのだ。
延々と続く地獄での罰はいつか終わりがくるのだろうか。
気が狂っても、正気に戻されて
私はいつしか痛みに声を上げることもなく、心を閉ざしてただ耐えた。
 100年?
 500年?
 1000年は経っただろうか?
時間の感覚も無くして、茫洋とした目の前に冥府の王が再び訪れた。
「お前の罪は濯がれた。西の野に行き魂を清めるといい」
私は耳を疑った。
この罪が赦されるなんて、絶望から解き放たれる時が来るなんて・・・。
解放された足取りは軽く、西の野には同じように次に世に送り出される魂たちが思うままに憩いを求める。
金の野原は心地よく、まるであの悪夢が無かったかのように穏やかだった。

番人がやってきて、私に告げた。
「お前の生まれ変わる時が来た。あの扉に向かいなさい」
そう示された扉を開けると、緑に囲まれた小さな山の中だった。
私は再びこの世に生まれ変わることができたのだ。

ああ、神様。
ありがとうございます。
今世では人を殺しません。

そう誓った次の瞬間、何かが飛来してきた。
鳥だ、と思ったら
・・・世界はブラックアウトした。

<了>

何に生まれ変わったんでしょうねぇ。
いやはや、ブラックなお話になってしまいました。

#シロクマ文芸部
#星が降る
#創作
#罪

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