【映画】「君の名前で僕を呼んで」映画館を出た瞬間、世界が違って見える。こういう体験があるから映画を観るのはやめられない。
観た後で気分がスカッとする映画、考えさせられる映画、
悲しい気分になる映画、いろんな映画がある。
その中で、ごく稀に「映画館を出た瞬間、世界が違って見える映画」がある。
目の前のフィルターが1枚取れたような、
世界がこれまでと違った輝き方を見せるような。
これからの人生、この気持ちをずっと真ん中に持っていたいと思わせる、
そんな映画がある。
「君の名前で僕を呼んで」は、何年かぶりに観るそんな映画だった。
1983年、北イタリアの避暑地。
森があって湖があって、庭には果実が実り、読書や音楽に飽きたら泳ぎに出かけて
疲れたら昼寝、長い夏休みは始まったばかり。
そんな中で出会った17歳の少年と24歳の青年が、恋に落ちる話。
でもこれは、いわゆるゲイの話とはちょっと違う。
魅かれ合う本人達も、それを見ている両親にも周りにも、
葛藤のようなものが全くない。
全員がごく自然に、その様子を受け入れている。
誰も何も言わない。
天国とはどんな所だろうとたまに考えるけど、
ここはそのイメージにとても近いと思う。
死んで天国に行って、そこでものすごく魅力的な相手と出会ったら、
その人の性別や周りの目なんて気にするだろうか。
そんなことより、少しでも触れてみたいと思うんじゃないだろうか。
君の名前で僕を呼ぶのがどれほどのことか。
あなたは私で、私はあなた。お互いがお互いの一部になる。
美しい言葉を選ぶことはできるけれど、何かを強く伝えたい時、人は黙る。
そして例えば、音楽で呼び止める。
映画の終盤で主人公の父が息子に語る内容が素晴らしい。
この語りが、この映画を忘れられないものにしてしまった。
きっと誰もがこれまで当たり前に苦しんできたことに、
こんなにもシンプルで美しい答えがあるなんて。
それさえ知っていれば、泣いても笑っても傷ついても、
例えば自己嫌悪で顔も上げられない夜があったとしても、
人生を愛することができる。
目の前を過ぎてゆく季節が、そして人生が最高のものに思える、そんな映画です。
©︎ Frenesy, La Cinefacture