『その悩み、哲学者がすでに答えを出しています』小林昌平
あなたが今一番悩んでいることは何ですか?
「忙しい。時間がない。」
「会社を辞めたいのに辞められない」
「自分と他人と比べて落ち込んでしまう」
「ダイエットが続かない」
「嫌いな上司がいる」
「家族が憎い」
「不倫がやめられない」
「毎日が楽しくない」
「重い病気にかかっている」
もし、これらの悩みに対し「あ、答えは、もうあるんです」って言われたら、読んでみたくありませんか?これはそういう本です。
しかも、テキトーな人が答えているのではなく、錚々(そうそう)たる哲学者たちが出した答え、さらに、彼らも同じ悩みを抱えて出した答えだとしたらどうでしょう。
そ、そ、ソクラテスかプラトンか~♪ に、に、ニーチェかサルトルか~♪
み~んな悩んで大きくなった~♪
私が小学生の頃流行っていたCMです。野坂昭如さんだったんですね!
もうこの段階で気になって仕方がない人は、私のコラムなんて読まずにさっさと本を買って読み始めてください(笑)
この本には、そんな悩みを解決する思考術、少なくともその糸口が載っています。
「仕事」「自意識・劣等感」「人間関係」「恋愛・結婚」「人生」「死・病気」……。
これら6つのカテゴリで、25の悩みが選ばれています。
それぞれに対し、すでに哲学者が出した答えと解説があります。
「忙しい。時間がない。」にはアンリ・ベルクリンが
「会社を辞めたいのに辞められない」にはジル・ドゥルーズが
「自分と他人と比べて落ち込んでしまう」にはミハイ・チクセントミハイが
「ダイエットが続かない」にはジョン・スチュアート・ミルが
「嫌いな上司がいる」にはバールーフ・デ・スピノザが
「家族が憎い」にはハンナ・アーレントが
「不倫がやめられない」にはイマヌエル・カントと親鸞が
「毎日が楽しくない」には道元が
「重い病気にかかっている」にはルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインが
答えてくれます。
親しい友人に相談して気分を軽くするのも素敵ですが、時にはこのような歴史上の、思考そのものを生業(なりわい)にしている人たちに人生相談するのもいいかもしれません。
会社を辞めたいと10年言い続けている友人
例えば、私の友人に、自分の会社が嫌いだとずーっと文句を言っている人がいます。辞めたいのだそうです。最初は私も相談にのっていたのですが、さすがにもう10年です。最近では「まだ言ってる」「また言ってる」と笑えるようになってきました。相談相手は私だけではないようです。友人の間でも有名です。
さて、どうやって彼女が解決の糸口を見つけることができるのか、その章を見てみると、
動かなくても、動くことはできる
こう、ジル・ドゥルーズは答えを出しています。ノマドという言葉も彼が作ったのだそう。これにはびっくり。
会社を辞めてフリーやノマドになるというような物理的な逃走の前に「精神的な逃走」をしてみなさいと。穴はいくらでもあいている。
居場所はどこだっていい。
会社を辞められないのなら、辞めなくたっていい。在籍してればいい。
要するに、会社のストレスに飲み込まれずに、自分のしたいことを気持ちを転換してやれるか。それほどしたいことが会社外にあるのか?だったらやれよ。ということだと私は捉えました。
そんなこともせず、そうする努力もせず、辞めたい辞めたいと10年間も会社を辞めない彼女は、結局は、逃げられるのに自分の努力不足で逃げないのを、会社の悪口を言うことで、弁護している状態なのかもしれません。彼女が発想を変えない限り、誰かがなんとかしてくれるのを、きっと定年まで待っているのでしょうね。
その時になって、友人たちがもう何年も前から呆れていたことに気づくのかも。
もちろん、ジル・ドゥルーズの言葉は哲学的で抽象的です。なので、タロットカードのように、読み手の印象で少し捉え方が違ってくると思います。
みなさんは、彼の「動かなくても、動くことはできる」「居場所はどこだっていい」をどのように捉えますか?
他に私がとても印象的だったのは、「不倫がやめられない」という悩みに対し、冷酷極まりない答え
「あなたの意志の根本方針が、つねに同時に、普遍的立法の原理となるように行為することだ」
に対し、小林氏がすかさず親鸞の答えを用意しているところ。
これ以上書くとネタバレになるし、小林氏の説明後に、どう解釈するかはまた人それぞれなのだけど、ぜひ、自分はどう感じるか、読んでみてほしいです。
承認欲求についても、ビビッドな答えがすでにありました。
圧倒的に驚かされるのは、小林氏が選んだ参考文献の量。
年齢を重ねるにつれ、哲学を勉強しておけばよかった!と後悔してきたし、本を読み直そうと思っても、誰から手を付けたらいいのか分からなかったのですが、
小林氏が、25の悩みと答えのあと、25人の哲学者のことを分かりやすく説いてくれています。
この本は、うってつけの哲学入門書でもあります。
読み進むにつれ「これは私に関係ない悩みだな」と思うことに対しても、哲学者による生きるヒントが隠されている。人間の不条理も書かれている。
そういう素敵な本です!