認知症になっても忘れない歌
実家に帰省したある日の朝、父が私が買ってきたサクランボを見て
命、短し~、恋せよ乙女~♪
と歌った。
「認知症の男性が、サクランボを見てそんな歌を歌ったりしない、有香ちゃんのお父さんは、ロマンチストだね」と友人から言われて驚いた。そうか、昔から、詩人っぽいところのある父だったから、それほど意外に感じなかったけれど、これは素敵なことなんだ。
何の歌だったか思い出そうとしたが思い出せず、忙しさに検索をするのも忘れていた。その日も介護のことでいろいろ駆けずり回ってあっという間に夕方。実家の時計は、毎時、音楽が流れる。その時も懐かしいメロディーが聞こえてきた。
「これ、なんていう曲だったっけ?」
母に聞いたが分からない。時計の取説を引っ張り出し、やっと曲名が分かった。「ゴンドラの唄」というらしい。大正時代の歌だった。
スマホでYouTubeを出し、この歌みたいだよ~と母に見せ、二人で聞いてみた。そして、驚いたことに……
そう。この曲の歌詞だったのだ!
いのち短し、恋せよ、おとめ
朱き唇、あせぬ間に
熱き血しおの冷えぬ間に
明日の月日のないものを
いのち短し、恋せよ、おとめ
いざ手を取りて彼の舟に、
いざ燃ゆる頬を君が頬に
こゝには誰れも来ぬものを
いのち短し、恋せよ、おとめ
波にただよい波のよに
君がやわてを我が肩に
ここには人目ないものを
いのち短し、恋せよ、おとめ
黒髪の色、あせぬ間に
心のほのお消えぬ間に
今日はふたたび来ぬものを
作詞:吉井勇
作曲:中山晋平
そして、作詞家が私の息子と同じ名前なことに、2度目のびっくり。