なぜあなたは登るのか?【アラフィフ女のソロ活ガイド・金刀比羅神社編】
わたしは階段が嫌いだ。
今年48歳。うっかりアラフォーと書いて、もうアラウンド40なんて嘘になる、そんなこと言えねぇと正直に「アラフィフ」と書き直すお年頃。
頼まなくても筋肉は衰え、代謝がぐいぐい落ちる。ランニングだのウォーキングだの健康的なことが必要だと分かりつつも、知らんふりをしている。最近はバランス感覚も鈍くなり、足腰膝が痛み、足元もおぼつかないので駅の階段は使わない。エスカレーターがなければエレベーターを使っている。40代にして老人に片足を突っ込んでいるような体力のなさだ、
特に階段は嫌いだ。太ももの筋肉が落ちまくっているので垂直方向の体重移動がかなりきつい。仕事場の店舗もエレベーターなしの2階があるのだが、できるだけ移動を避けるため、仕事で2階にいたときには、たとえ喉が渇いても、多少トイレに行きたくてもついつい我慢してしまう。降りたら登らなければならないからだ。
そんなわたしが、まさか1368段もある、
香川県のこんぴらさん(金刀比羅宮)の階段を上るとは想像もしていなかった。
ここで、金刀比羅宮の説明を公式HPより引用しておく。
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金刀比羅宮は、香川県の象頭山に鎮座する神社です。
御本宮の御祭神は、大物主神と崇徳天皇です。古来から農業・殖産・医薬・海上守護の神として信仰されています。
石段1,368段目の山中には、金刀比羅本教の教祖である厳魂彦命をお祭りする厳魂神社(奥社)が鎮座します
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40過ぎたあたりから神話や神社に興味を持つようになり、神社巡りは好きなのだが、なにしろ金比羅さんと言えば「絶望的な階段」のイメージがあったため、友人に一緒に参拝しないかと誘われても、
「いや階段が無理」
といって断り続けていた。
最近フラメンコレッスンの後には、膝への衝撃で駅の階段が降りられないくらいワナワナしている。そんなわたしが1368段もある階段を上ったら、どうなることか。
そして上るだけならよいが、登ったら自分の足で降りなければならない。実は階段は上る方が大変に思いがちだが、降りる方もなかなかに怖い。特にこのような古い石造りの階段は急なため、さらにしんどそうだ。
参拝のあこがれよりも、階段の重荷が勝っていた。
しかし、旅先のゲストハウスで出会った女性の一言で気持ちが変わった。
わたしと同じく一人旅の女性が、同じ宿に連泊しているという。四国にも何度も来ているというので、翌日は雨だから観光をどうしようか迷っていると話したら、
「まぁ、こんぴらさんは、神社まで登らなくても、参道のお土産屋さんは昔ながらの雰囲気が味わえるので一度は観る価値アリよ。行ってみたらいいんじゃない?」と言ってくれた。
こんぴらさんに行くなら是が非でも階段を上らなくてはならないと思い込んでいたわたしには救いの一言だった。そうか。実際に行ってみて、階段を見て、嫌なら登らなければ良いのだ。
こういうときに金比羅のすばらしさとかに熱弁を振るわれたり、押し付けられると余計嫌になるもんだが、こういう「どっちでもええやん」な言葉をもらうと、すっと行ってみようという気になるのが不思議なものだ。あまのじゃくか。
ということで、翌日は予定通りの雨だったが、お土産屋を覗くという名目のもと、そして階段がいかほどのものかを見てみよう、と思い、こんぴらさんへ向かった。
参道のお土産屋さんも階段途中だって話は聞いてなかったが。
こんな感じでスタートだ。
確かに急な階段だし、雨だし、登り始めたら途中でやめるのも悔しいし、どうしたもんかと思ったが、これを目の前にしたら「上るしかないっしょ」と思った。あれだけ抵抗していたのに、こんぴらさんを前にして階段嫌いのわたしが瞬殺された。
そういえばわたしは、
目の前に短期目標を差し出されると、
猪突猛進でがむしゃらに頑張ってしまう性質があった。
登山家がなぜ山に登るのかという問いに対して
「そこに山があるから」
と答えるのも意味不明だったが、
こんぴらさんを前にして気持ちがわかった。
目の前に階段を出されたら「やったるで」と燃えてしまった。
なぜ階段を上るのか。それは、
「そこに階段があるから」
だった。
始めたら最後、達成するまでは帰れないとド根性を出してしまうのもわたしの癖だ。
だってせっかく上ったのに、階段を上るだけで何もご褒美なしに帰るなんて許せない。わたしは損得勘定が激しいのだ。
左手にはファミマで買った70センチのビニール傘、右手にはお土産屋さんのおっちゃんに借りた、参拝用の竹の杖をもっていざ進む。
大きな神社なので、参道にいくつも鳥居がある。
その鳥居ごとに励ましの言葉が書かれていて、「たどり着いたらいいことあるよ」的な匂わせを発する。
雨の石階段はすべりやすい。しかも急で古い作りの階段は、なんだかナナメってて、上を見ると後ろに転倒しそうになるので、前傾姿勢になり、ひたすら足元を見て黙々と上ることにした。なんだか修行っぽい。
雨もあり涼しい日だったが、急な階段を上っていると、だんだん汗ばんでくる。100段目くらいですでに暑かった。最初の狛犬にたどり着いた時にはもう汗だく。雨で階段に座るわけにもいかないし、休む場所もないので、鳥居に到着するごとに、屋根で雨宿りしながらペットボトルのお茶を飲み、少し休んでまた昇る。
一歩一歩上り、やっと着いた本宮。
本宮までは785段。
すでに疲れすぎてトランス状態に入っているので、この社殿がめちゃくちゃすごいかどうかはどうでもよく、「登ったったで」という勝ち感で天下を取った気になった。
悪天候のため、見晴らしは最悪。
特に何も見えないのでなおさら、自分が頑張ったんだぞという気分しかない。
おそらく晴天時には素晴らしい景色が見えるだろう。なんてったって山の中腹だ。
ほとんどの人はこの本宮で引き返すらしいが、ムキになったら一直線、ここまで来て帰れるかと奥宮の1368段を目指すわたし。完全にこんぴらさんの戦略に乗せられている。
というか、もう二度と登りたくないので、せっかくなら奥宮まで全部見て一回で済ませてしまおうというコスパ感もあった。48歳でこのしんどさだ、数年後にはさらにきつくなっているだろう。
人間だれしも、今日が一番若いのだ。
だから今やれることはやっておく。
乳がんで死ぬかも。と思ったせいもあると思うが
最近のわたしは以前にも増して「今やれることはやっておく」方針だ。
ということで、誰にも頼まれてないのに奥宮に向かう。
気合いを入れて奥宮の鳥居に立ったが、若干拍子抜け。あと600段くらい階段があるはずなのに、こんな感じなら、もしや余裕じゃね?
と思って登り始めたら、この後右斜め後ろ方向に、延々と続く急階段が続いていた。そんなのずるい。フェイクだ。チートだ。
でも進み始めたら行くしかない。こんぴらさんは、意地っ張りなわたしの性格を見抜いていたのか。
標高が上がってきたのか、進むほどに霧が濃くなり、パワースポット感が出る。これは雨ならではの光景かもしれない。ちなみに汗だくで意識が飛びかけているので、この写真以上に神世界に見えた。
もうラストは膝が上がらないくらいに疲れていたが、ここで帰るわけにはいかないと、最後の力を振り絞って登り切った。
そのご褒美がこれである。
さきほどの本宮を見守る厳魂神社。意識が飛んでいて見逃していたが、天狗の彫り物が岩にあったらしい。確かに天狗が住んでいそうな霊験あらたかな地だ。これも雨で霧が濃かったので雰囲気が最高潮に盛り上がっていたせいかもしれない。
もうその降りしきる雨とか左手に傘で右に杖とか、勢いで登ってしまったけれどこの状況、すべてが私にとって最高だと思わないとやっていられないくらい、雨でびちゃ濡れだったというのもある。
ちなみに本宮には金のお守り、奥宮では天狗のお守りが買える。
御朱印も本宮と奥宮で違うものがもらえる。
挫折する人が多いのか、鳥居さんに「登れたらこのお守りゲットできるで」と看板が掲げられている。
階段で疲れて思考力が低下し、煽りにあっさりと乗ってしまい、途中からもはや「天狗のお守りをゲットするために上る」という感じになっていたので、当然登り切ったら天狗のお守りは迷わずゲットである。
本宮はさておき、奥宮の天狗お守りは、奥宮にたどり着いた人の購入率がかなり高いのではないか。完全なる参拝者マーケティングに完敗だ。
すべてコンプリートして満足のわたしだったが、行きが1368段なら、帰りも1368段である。下りは登りのようなしんどさはないが、雨ですべりやすい上に急な階段を降りるのはかなり恐怖だ。
1か月前に雨の中、自転車で大転倒をして以来、ただでさえ低い身体能力がさらに下がったことを認識し、雨の日は特に注意をしている。お土産屋さんで借りた杖をたよりに、一歩一歩、おそるおそる下山し、お土産屋が見えたときには「やっと終わった」以外の感想がなかった。お土産を買うと駐車料金がタダになるらしいが、残念ながらお土産を見る元気もなかった。
汗だくで足がパンパンになったので、ゲストハウスの女性に教わった、空港近くにあるという仏生山温泉に汗を流しに行くことにした。
ここは平地にある小さな温泉ながら、とろみがあるお湯で、しかも近代的なオシャレ温泉である。ゆったり疲れをいやすことができ、ハードなことから逃げていたわたしは、久々に身体を酷使して、それを湯で癒すという昔ながらの体験をすることができた。
どの瞬間でも、自分が興味を持ったことや、自分の直感で動くと、それを次の何かにつなぐ不思議な縁をいただく気がする。
今回も、こんぴらさんなんて、と頑なに拒否していたのに、たまたまゲストハウスで出会った女性の軽い一言でこんなハード参拝をし、ここに行かなければできない体験をした。
そしてこのハードすぎる階段を上っている途中に思ったのは、「この階段は人生そのものだ」ということだ。
階段を上っている最中には見えないが、登り切った瞬間に見える景色がある。
本宮まで登れば、本宮の景色が、
奥宮まで登れば、本宮の景色に加えて、奥宮の景色、そしてそこに至るまでの景色も見ることができる。
人生でも、急な階段をたくさん上っている人と、浅い階段をちょっと上った人、階段を上らない人、それぞれに見える景色が違うのだろう。
あれだけ階段を拒否っていたわたしが言うのもなんだが、迷ったら、多少大変そうでもやってみるって大事だなと思う。やってみて初めてわかることがあるし、想像していたより意外とできることだったりする。
そして、こんぴらさんには若いカップルが結構いて、楽しそうに軽々と登っていたけど、わたしはこの年齢だからよかったのかなと思う。
この記事を書いている最中も、まだ太ももとふくらはぎがパンパンで疲労が取れない、さすがアラフィフだが、足がワナワナしていても、この年だからこそいろいろな知識や経験が増えて、奥宮の空気感を味わうことができた気がするし、参拝自体も味わい深いものになったような気がする。
ただし、中身が経験豊富になっても身体はどんどん弱っていく。まだギリギリ身体が動く中年のこのときが、こんぴらさん参りのベストタイミングだったのかなと思う。
結婚して子どもを持ってから夫婦関係に育児に精いっぱいで一人旅なんぞしていなかったが、今回思い切って旅をして、自分の行きたい場所に行くというシンプルなことをなかなかできていなかったのだなと痛感した。
息子も中2になり、やっと自分のことに目が向けられる余裕がでてきたということもある。
それぞれに事情やタイミングがあるが、思い切って出てみてよかったし、次にやりたいこともどんどん出てくる気がする。
中年おばさんよ、大志を抱け。
ソロ活バンザイ!である。
金刀比羅神社を訪れるときの注意
最後に、アラフィフ女性が金比羅神社を訪れる時の注意をいくつか示しておく。
・動きやすい軽装とスニーカーがマスト
まずは服装は動きやすい軽装と滑りにくいスニーカーをお勧めする。
若いカップルの女性は流行りのフェミニンなブラウスとヒラヒラのロングスカートで彼氏と談笑しながら軽々と登っているが、わたしのような体力低下が激しいアラフィフ女性は、しゃべる余裕もなくなる。スカートを踏んで階段から落ちるなど怪我が懸念されるので洒落た服装は避けたほうが良い。ヒールはいわずもがな。もってのほかだ。命がけの旅になる。
・杖は必ず借りよう
参道の土産屋で借りられる杖もぜひ借りて欲しい。階段が急だし、100段目くらいからすでに杖をつきながら上った。本宮で引き返していたかも。杖は上りだけでなく、下りでも活躍する。急階段の下りは危険だ。足を滑らせたら最後、果てしなく落ちる。手すりがわりに杖をついて慎重に行って怪我なく楽しい思い出にして欲しい。無事帰還しても、翌日以降の筋肉痛がおまけでついてくるのだ。
これから行かれる方は、ぜひ楽しんできていただきたい。