マガジンのカバー画像

シノノメナギの恋煩い

48
運営しているクリエイター

#小説

第十一話 シノノメナギの恋煩い

第十一話 シノノメナギの恋煩い

わたしはなんとか立ち上がり、家に向かう。常田にキスをされた頬、正確に言えば私のコンプレックスである少しでっぱった頬骨にキスをされたところに手を充てる。

もちろん今触ってもその時の感触は思い出せないけど……。酔っ払ってキスをしたのか、そうしよう。事故だったのよ、事故。

わたし心の中をかき回して……明日どんな顔で会えばいいの?

よく考えたら頬にキスなんてされたことがない。唇すらも。

にしても彼

もっとみる
第六話シノノメナギの恋煩い

第六話シノノメナギの恋煩い

数日後のこと。

今私は図書館前の落ち葉を掃除している。
図書館の入っている施設には図書館以外にもカルチャー教室や喫茶店が入っているし、施設全体を掃除する清掃会社の人もいるけどすぐ落ち葉でいっぱいになるから交代で清掃をするのだ。

今日はわたし。1人でこれだけ拾うのか、と思う人もいるだろうがわたしはそれでいい。
1人でただひたすら履いていればいい。その時間こそ妄想できる時間の一つ。

一つ落ち葉を

もっとみる
第五話 シノノメナギの恋煩い

第五話 シノノメナギの恋煩い

「あなたー」
「おう」
門男のところに小柄の女性が駆けてきた。近くに住んでいるのであろう。スリッパである。見た感じ50前後。そしてわたしよりも背が低い。

「あなた、老眼鏡忘れている」
「ああ、助かった」
「今日は希美が帰ってくるから。莉乃ちゃんつれて」
「おう、そうだったか」
門男が少し声のトーンが上がった。

希美、莉乃……。

娘と孫の名前?

そうか、彼はおじいちゃんか……。そして小柄な可

もっとみる
第一話:シノノメナギの恋煩い

第一話:シノノメナギの恋煩い

とある収録スタジオ。
初めて訪れるテレビ局にわたしはとても緊張して手汗が止まらない。
そんなわたしのてにポン、と大きな手がのる。

「大丈夫やて、練習通りすりゃええわ」
安定の関西弁の彼のその載せた手も震えてる。

「わかってる……」
その関西弁につられてわたしの東濃弁はもともと関西弁に近いテイストだけどさらに関西弁ぽくなるけど彼が言うにはまだ違うらしい。

「すいません、本番ですー!」
呼ばれる

もっとみる