2021年、対面の国際会議は復活できるか。IISSマナーマ対話を終えて#IISSMD20
新型コロナウィルスのワクチンの開発や承認、摂取が進む中、変異種の拡大により、2021年もその先も引き続き新型コロナウィルスとの闘いが長く続きそうだ。
世界で多くの仕事がリモート化可能となった現在においても、外交分野は対面が非常に重要であると考えられてきた。その象徴として、世界の首脳や閣僚もパンデミックの中においても、様子を見ながら対面外交が展開されてきた。日本の菅総理や茂木外務大臣も、夏以降、東南アジアや、中東、アフリカを直接訪問をした。
そのような中、シンクタンク業界においては、今年多数中止・延期となった国際会議が、果たして一部でも対面開催できるかどうか、注目が集まっている。
例えば、世界経済フォーラムが毎年1月にスイスで開催し、世界各国の首脳・閣僚・ビジネスリーダーたちが集う「ダボス会議」(1971年以降開催)は、5月に延期されシンガポールで開催されることが決まった。
毎年2月に開催され、欧米における安全保障会議の中で権威があり、首脳や閣僚、国際機関幹部が参加する「ミュンヘン安全保障会議」(1962年以降毎年開催)も、延期が発表された。
現在私が所属し、ロンドンに本拠地があるシンクタンク国際問題戦略研究所(IISS)が、毎年6月にシンガポールで開催し、アジア地域の首脳や閣僚等が出席する「シャングリラ・ダイアローグ」(アジア安全保障対話)は、2020年は残念なことに中止された。
一方で、12月4日から6日にかけて、バーレーン王国と共に開催している「マナーマ・ダイアローグ」(中東安全保障対話)の方は、ハイブリッド形式(対面とオンラインで組み合わせた形式)で無事なんとか開催することができた。
パンデミック後、世界のシンクタンクで初めて対面の外交・安全保障分野における国際会議(閣僚級)が無事開催することに成功したのだ。2021年は、6月にはシャングリラ・ダイアローグも開催予定だ。
世界各地でリモート・ワークやビデオ会議が浸透するようになった中においても、なぜ、対面での国際会議の復活が期待されているのか。
以下、筆者も入所後初めて参加した「マナーマ・ダイアローグ」の様子を振り返りながら、対面で開催される国際会議が実際の外交において果たしている役割に焦点を当てながら解説する。
IISS「マナーマ・ダイアローグ」とは
IISS「マナーマ・ダイアローグ」は、IISSが2002年以来、シンガポール政府と共に開催してきた「シャングリラ・ダイアローグ」をモデルに2年後に設立した、中東地域(主に湾岸諸国)の国際会議だ。
政府間が準備をした直接対話とは異なり、第三者のシンクタンクが組織をし、有識者等の政府関係者以外の参加者も出席する、非公式な議論の場であることが特徴だ。
そのような空間の中、各国の首脳・閣僚レベルの参加者が地域の外交・安全保障分野の政策課題について、ざっくばらんに議論をすることを目的としたフォーラムだ。
今年の「マナーマ・ダイアローグ」は、3日間に渡り、2つの基調講演と6つのプレナリーセッション(デリゲート全員が参加をするセッション)が開催され、全てのセッションがオンラインでライブ・ストリーミングされたため、メディアでも広く取り上げられた。
登壇者のラインナップはこちらから↓
従来は数千人が参加する会議だが、今年は新型コロナ対策として、22カ国から80人のデリゲート(内17名が大臣レベル)が対面で参加した。その他、40人余りの政府高官等も会場に集まり、オンライン配信は2000万人に届き、関連SNS投稿数は1億7000万件という結果も発表されている。
本年の会議は、新型コロナ後世界で初めて一部対面で開催した国際会議であり、何よりアラブ首長国連邦やバーレーン王国等がイスラエルとの国交正常化を行い、中東情勢が動いた年の開催であり、注目が高まっていた。
新型コロナ対策としては、参加者のマスク着用の動機づけのためにデザイン性が高く多機能高性能な日本製のマスクの配布も行った。
(写真はアフガニスタンのモヒブ大統領顧問(国家安全保障担当)がIISSが配布したマスクを使用していた様子)
ポイント1:ニュースのヘッドラインを生み出す議論
マナーマ・ダイア―ローグの様な国際会議が果たす一つ目の役割は、非公式な会議であるという性質を利用して、ざっくばらんに外交課題について議論する場を提供することだ。
その年に議論するテーマや登壇者を決めるのは主催しているIISSだ。この様な国際会議を開催するシンクタンクで働いていてやりがいを感じる点は、アジェンダ作成などに携わることができる点だ。
75分間行われる各プレナリーセッションでは、スピーカーが冒頭で事前に準備されたスピーチを行い、その後モデレーターとのディスカッションと会場のデリゲート参加者との質疑応答が続く流れになっている。
例年、世界中のメディアから高く注目されるため、「マナーマ・ダイアローグ」での基調講演者に選ばれたスピーカーや各セッションにおける大臣のスピーチは例年念入りに準備され、時には重要な外交政策発表の場として活用されることもある。
(写真説明:メイン会場では、間隔を空け、主に閣僚の席が準備された)
(写真説明:第二会場はバーチャル参加だが、マイクはメイン会場に繋がり、質問ができる環境が準備された)
さらに、質疑応答はダイアローグに参加した研究者や記者から事前調整の無い自由な質疑応答が行われるため、討論の中からニュースのヘッドラインが生まれることもある。
(写真説明:会場からの質問と、タブレットに寄せられるオンライン視聴者の質問の両方から選んでいくチップマン所長)
また、IISS所長のジョン・チップマン氏は、20代後半から30代の若手外交官や研究者、政治家の卵を集めた「ヤング・グローバル・リーダーズ・プログラム」を同時開催し、そのヤング・グローバル・リーダー達には全てのプレナリーに参加をし、他の参加者と同様に自由に各スピーカーに質問権を与える権利を与えている。
(質問を行うヤング・リーダー)
チップマン氏は、「大臣に一番突っ込んだ質問をするのは、肩書などを意識せず、自由に発言するヤング・グローバル・リーダー達だ」とまとめ動画でも嬉しそうに振り返っていた。
今年の「マナーマ・ダイアログ」でヘッドラインとなった一つのテーマは、イランの核問題だった。バイデン新政権下で包括的共同作業計画(JCPOA)のような多角的な合意が再交渉される場合に、湾岸諸国も交渉の席が加えられるべきか」とチップマン所長が聞くと、オマーンとバーレーンの外務大臣もイエスと答えた。
また、サウジアラビアがイスラエルとの国交正常化を行うかどうかという議論にも注目が集まった。
ポイント2:外交が動く場のセットアップ
濃密な三日間のプレナリーや基調講演はもちろんダイアローグの肝だが、参加をした大臣は自らが登壇するセッション以外の時間において、地域の他の国と会談を積極的に行い外交関係を進展させる場として活用している。
会場に、大臣同士が直接会談を行うための部屋やスペースを幾つも設け、対話の場を用意することで、外交関係を動かすきっかけ作りをする「コンビーニング・パワー」としての重要な役割をも提供している。
今回も会場のリッツカールトンの庭に椅子がセットアップされる等、会場内外で50あまりの二国間対話が行われた。
ポイント3:同じ空間を共有することで深まる理解、信頼、絆
しかし、これら二つの特徴は、会議が全てオンラインで行われた場合にも再現できるかもしれない。対面でなければならない最大の理由は、非公式な形で同じ空間・時間・思い出を共有することで、各国政府高官たちが対話を通じて親しみを持ち、互いへの理解を深め、信頼関係を高め、絆を強める場としての機能を有するためである。
例えば、①ホテルでの朝の朝食会、②ホテルから会場にバスの中、③セッション開始前後のコーヒーラウンジ、④ランチ、⑤午後の各プレナリーセッション前後のコーヒー、⑥ディナー、(⑦その後ホテルのバーで会話が続く場合も)等の場が挙げられる。
非公開・非公式な討論の場のため、具体的に触れることはできないが、今年もドイツの外務大臣とアフガニスタンの閣僚等が机を囲ってランチをしている等、なかなか普通だったら実現が難しそうな組み合わせが幾つも見受けられた。
私は「ヤング・リーダー・プログラム」で日本の外交政策について登壇したこともあったため、セッション以外の食事の時間等は、参加デリゲートと共に過ごすことが多かった。久しぶりに対面で多国籍の同世代の外交関係者とゆっくり話せることはとても刺激的であり、また国は違うものの同じ空間や時間を共にしていることからも、仲間意識のような感情も生まれていく感覚を味わうことができ、豊かな時間となった。
ディスカッション中には、対中認識の違いや日中韓のソフト・パワーや地域のプレゼンスについて、議論がヒートアップすることもあったが、長く一緒にいるとセッション以外の時間はよりフランクに互いの人生や職務上の 共通テーマを探し合いながら楽しく懇談できた。
多国籍でも同世代であることで、日本のジブリ作品を同じように好きだったり、今年爆発的に世界でヒットしたBTS等のK-POPの話で盛り上がったりするものだ。
1番の驚きは、湾岸諸国の参加デリゲートの中では、もうすでにワクチンを接種している人たちもいたことであった。(バーレーン等は中国製のワクチンの接種を開始している)。また担当スタッフの尽力によりヤング・リーダー・プログラムの参加者の半分以上が女性であったことも珍しいと感じた。
今後同じ分野で同じ様な道を歩んでいくであろう層と、対面でネットワーキングを行い、この様な深い繋がりや絆を感じられる価値は計り知れないものがある。
終わりに
12月半ばは、英国イングランドで爆発的に拡大している変異種により、各国は再び国境を閉じ始めるようになった。第三波が拡大する懸念が高まっている。
これまで厳格な水際対策を行ってきたアジア地域の他、EUでは、ブレグジットを前に、欧州は英国からの輸送機を受け入れ停止する国が続出した。
28日、日本の菅義偉総理も、全世界からの新規外国人受け入れを1月末まで停止することを発表し、2021年にオリンピックを東京開催するとはとても想像ができない状況だ。
外交の要である、信頼関係の構築や相互理解の増進は、どうしても対面でなければ進みにくい。同じ時間や空間の共有により、互いの理解が深まり、率直な議論を喚起してきた国際会議が果たして2021年に戻ってくるのか。
今回、人数を大幅に絞り、厳重なコロナ対策を行ってなんとか開催できたマナーマ・ダイアローグが一つのモデルケースとなり、安全な形で少しでも早く対面外交が復活することを願いたい。