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パリジャンは意外と英語を話す

「フランス人はプライドが高いので、英語が判っても英語を話さない」

「英語で話してもフランス語で返されて困った」

「挨拶だけでもフランス語で話しかけないと無視される」

 このようなことを耳にしたことがある方は多いのではないだろうか。

 私もなんとなくそういう話を聞いたことがあったし、パリに行く前には色々な人に言われた。ヨーロッパ系の友人達は特に外見が似ていたり、ヨーロッパ同士だからこそのプライドで冷たくされると言っていたが、日本人からも散々言われたものだった。
 どうにか『すみません、フランス語はわかりませんが、英語なら話せます』というフランス語のフレーズを覚え、戦々恐々とパリの地を踏んだ。

 モンマルトルに借りたアパルトマンのオーナーは親切で感じが良く、堪能な英語で色々と説明してくれた。
 近くのスーパーのレジの女性はフランス語で、こちらは数詞が判らないので焦ったものの、商品をかごに入れるときにだいたいの金額を計算していたので事なきを得た。ただしレジでの袋詰めに不慣れなので、もたついてしまい嫌な顔をされた。レジにはいつも人が並んでいるし、そこでもたもたしている人間がいればまあそうなるのだろう。

 翌日はひとりで街を歩き回った。
 アパルトマンのオーナーが教えてくれた最寄り駅は工事のため封鎖されており、歩いて次の駅に行ってメトロに乗った。19区から8区まで、途中の乗換駅は大きく、足下のサインをたどって次の路線を目指す。
 目当てのギメ東洋美術館を楽しんだ後は、数キロ離れたクリュニー美術館まで歩いていった。

 エッフェル塔の足下を通りすぎてセーヌ川へ。橋を渡って川沿い左岸をそぞろ歩き、また橋を渡って右岸に戻り、グラン・パレを眺め、コンコルド広場から続く庭園を歩き、ルーブルの白い砂の前庭に出たら美術館を迂回して川べりへ。
 このあたりは絵や古本、レコードを売っている屋台のような出店が並んでいた。ここで絵を買うシーンを何かの映画で見たな、と思いだした。

 セーヌ川沿いは通りを歩いても良いが、所々にある階段から岸辺に下りられる。ちょっとした庭園や遊歩道が続いており、観光客だけでなく地元の人が犬の散歩をしていたり自転車で走っていったりする。ゆったりと寄せるさざ波の感じも良い。

 ポン・ヌフを渡って大通りまで出て、パン屋でサンドイッチを食べた。フランス人達がカウンターの前で並ぶことも無く早口で注文していく。大人しい日本人の私は戸惑っていたのだが、店員が英語で話しかけてくれたので昼食にありつくことができた。

 美術館でも、お店でも、だいたい皆英語で話しかけてきた。
 パリは世界で一番観光客が来る都市らしい。シャルル・ド・ゴール空港は広くて混雑していたし、街を歩いても至る所に観光客がいる。ほかにもアフリカや中東からの移民も多いし、駅前などはシリア難民のホームレスもよく見かけた。中華や日本料理店もかなりの数だ。観光地でもある都会で暮らすパリジャンは、外国人に慣れているのだ。
 見るからに東アジア系の私にフランス語を話すことは誰も期待していない。どう見たって観光客なのだから、はなから英語で話しかける。覚えていった『フランス語は話せません』はちっとも使わなかった。BonjourであってもHelloであっても彼らはそれなりに相手をしてくれる。

 冒頭のような話を聞いて二の足を踏んでいる人がいたら、是非いちど訪れてみると良い。実際はもっとずっと気楽なのだから。

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