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言語が美術に与える影響、ボッティチェッリの作品を例に

先日ご紹介したボッティチェッリの「春」について書きながら思った事を。



イタリア語には女性名詞と男性名詞があり、それが美術にも影響しているかもしれないと思いました。



「春」に出てくる7つの教養はイタリア語ではすべて女性名詞です。だから女性の姿で表されるのかと思いました。



その他、カトリックの7つの徳や7つの大罪も全て女性名詞で、女性の姿で描かれます。



フィレンツェにある7つの徳を表した有名作品はコチ
ラ。


ボッティチェッリ、ピエロ・デル・ポッライオーロ 「7つの徳」 1469年 ウフィツィ美術館


ピエロ・デル・ポッライオーロとボッティチェッリの共作です。
ヴェッキオ宮殿の隣にあった商工会議所の裁判所(現グッチミュージアム)のために制作されました。



かつて、正しい政治を行うには神の判断が欠かせないと考えられていました。そのため、正しい政治を行うため、政府関連の建物には必ずキリスト教の7つの徳が表されました。



正確に言うと、3つの対神徳と4つの枢要徳から成ります。3つは神様への理想的な姿勢を示すもので、最も教義で重視されていました。

左から信仰、慈愛、希望

慈愛: 神様への絶対愛
信仰: 神様への絶対的な信頼
希望: 神様を信じる事で永遠の魂を得られる事への希望


これらを大学で3年かけて学んだ後に、人としての理想像を示す4つの枢要徳を体得していました。

左から力、節制、正義、貞節

貞節: (思慮、賢明)常に自身を振り返る賢さ
節制: 動くべきタイミングやいい塩梅を見計らう判断力
正義: 公平な判断力
力(勇気、剛毅): 意志の強さ



それぞれの徳にはアトリビュートという持ち物や特徴があり、それらによってどの人物が何を表すのかを知ることができます。



慈愛なら赤い服に子供や炎、信仰は白い服に十字架や聖杯、希望は緑の服を着て天を合掌しながら見上げている、などです。教会で見かけるこれら3色は、3つの対神徳を表しています。



残念ながらこの作品、あまり出来がよくありません。ポッライオーロは優秀な画家でしたが、当時多忙を極め全ての依頼に手が回りませんでした。そこで新人だったボッティチェッリに1枚手伝ってもらったのです。



依頼主はボッティチェッリの作品をいたく気に入り、残りも彼にお願いしたいと言い出しました。それを面白く思わなかったポッライオーロは断固拒否。ボッティチェッリを仲間外れにし、残りの6枚を無理やり仕上げました。



とてもプロとしての出来栄えとは思えず、しかも政府関連の建物に納品する品ではありません。ボッティチェッリが唯一仕上げた「力」が、他の作品の出来の帳尻を合わせているように思えます。


ボッティチェッリが仕上げた「力」。目力や細部の細やかさが格段に違う


参考になさってみてください。

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