初めてのクリスマスイブのディナーは、蒙古タンメンだった。
大学4年生の頃。夫と付き合って、2ヶ月くらいの頃。当時、私は京都で、夫は東京か宮城という遠距離恋愛で、1ヶ月に1回会えるかどうか、というくらいだった。
ある時に電話で、
「初めてのクリスマスイブ、ご飯どこ行きたい?」
と聞かれた。
遠距離だったこともあり、次は私が東京へ行く予定だった。
日頃、京都で過ごしている大学生の私からすると、東京は立派な旅行。なかなか行ける機会ではないから、東京でしかありつけないものを食べたい。
うーん。うーん。うーん。
「あ!!!!!!」
私の頭の中で何かが閃いた。東京にしかないものといえば。
蒙古タンメン中本ではないか。
蒙古タンメン中本は、東京都板橋区に本店を構えるラーメンチェーン店。
私は辛いものが大好きで、辛いもの好きな友達と一緒に、辛くて美味しいものを食べることが趣味だった。
大学の中にあるコンビニはセブンイレブンだったこともあり、蒙古タンメン中本のカップ麺を食べたことがあった。
せっかく東京に行くのなら。カップ麺ではない蒙古タンメン中本を一度でいいから味わいたい。
「蒙古タンメン中本に行きたい!!!」
と希望と未来に溢れる声でリクエスト。
夫は明らかに面食らった声を出しつつ、ケタケタ笑っていた。
いざ、クリスマスイブ当日。蒙古タンメン中本に行く前に、ダイアログ・イン・ザ・ダークという完全に光を閉ざした“純度100%の暗闇”の中で過ごす体験アクティビティに参加していた。
普段から目を使わない視覚障害の方が特別なトレーニングを積み重ね、ダイアログのアテンドとなり案内してくれる。
参加者はクリスマスイブというともあって満席。私たちを含む、10名くらいの参加者が参加していた記憶がある。
本当に全く何にも見えないので、他の参加者の顔も見えない。ふたりでキャーキャー「見えない見えない!」などと言いながらわいきゃい楽しんでいた。本当に見えないため歩くのが怖く、夫の服を掴んで歩いていると思っていたら、他の人の服だった。気まずかった。
さまざまな体験をし、最後にチェックアウト、という形で今日参加した感想などを全員で対話する。
アテンドの方が、「今日はクリスマスイブですね。みなさん、夜はどこかへ行かれるのですか?よかったら今日の感想と共にシェアしてください」
と尋ねてくれた。時計回りに、それぞれが答えていく。
「明らかに違う回答の者がいる」きっとその場にいた全員の参加者はそう思っただろう。だがしかし、ここは純度100%の暗闇だ。誰が蒙古タンメン中本に行くかはわからない。
無事にダイアログ・イン・ザ・ダークも終え、念願の蒙古タンメン中本へ。旦那さんが池袋に縁があったことから、池袋の蒙古タンメン中本へ連れて行ってくれた。
ああ、これでほんものの蒙古タンメン中本にありつくことができる。なぜか緊張で汗が出てきた。
もちろん注文は「蒙古タンメン」。味噌タンメンの上に麻婆豆腐がのっている、蒙古タンメン中本の看板メニューだ。
席まで運ばれてきた時は、滅多に写真を撮らない私でも、写真を撮った。これが、人生で初めて食べた蒙古タンメンだ。
しばらくラーメンを眺める。本当に食べて良いのか、自問自答。
目の前にほんものの蒙古タンメンがある。食べたら夢が叶うが、なぜか叶っていいのかともったいぶる自分がいる。まずはスープから、恐る恐る口に運んだが、辛い。そして美味しい。麻婆豆腐のスープはとろみがあり、熱々だ。その後に麺。麻婆豆腐のとろみのあるスープに太麺が絡んで、食べ応えがある。これは、ご飯が欲しくなる。
もちろんカップ麺も美味しいけど、ほんものはもっと美味しかった。こんな美味しいものがいつでも食べられる東京が羨ましい。
もちろん辛いが、辛くてもお箸が止まらない。ただ辛いだけじゃなくて旨みがあるのが蒙古タンメンの美味しさだ。
大大大大満足のクリスマスイブだった。
たまにお互いに「2人の思い出の中で印象に残ったエピソードは何か」を言い合うのだが、旦那さんは「クリスマスイブの蒙古タンメン」をあげる。たった890円で、7年経っても色褪せない思い出を作ってくれる蒙古タンメン、すごくないか?
これからもファンです。蒙古タンメン中本。