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リーダー・メンバー交換関係(LMX)を向上させる要因を明らかにした論文

論文を読んでいると、「組織コミットメント向上」、「離職意思低下」などの結果があらわれるために、何の要因が影響しているかということを明らかにしているものが多いです。

この論文では、部下と上司との関係性に注目し "リーダー・メンバー交換関係(Leader-Member Exchange: 以下LMX)"を向上させる要因を明らかにすることを目的としています。

論文名:フィードバック探索行動と職場における情報共有機会、クラン型組織文化が、LMX に及ぼす影響について―口頭コミュニケーション頻度を媒介変数として―山田栄さん


LMXの規定要因(仮説)

LMX の規定要因として、"フィードバック探索行動(Feedback Seeking Behavior: 以下FSB)"、"職場における情報共有機会"、組織文化分類である"クラン型組織文化"に着目。

それらの規定要因と LMXの間の媒介要因として、"口頭コミュニケーション頻度"が関係すると考えています。仮設モデルは以下の図。

フィードバック探索行動と職場における情報共有機会、クラン型組織文化が、LMX に及ぼす影響についてp68より抜粋

ここで使われている、規定要因と媒介要因の用語を説明していきます。

規定要因
・FSB(フィードバック探索行動)

組織において従業員が自身に対する情報を収集する行動のこと。
部下の FSB は上司が部下自身をどのように思っ ているのかについて、部下が探る行動。上司の FSB は、部下からの評判を探る行動。

・職場における情報共有機会
情報技術ツール (以下IT ツール)の役割が大きくなってきた。
仕事外のレクリエーションやパーティの時間を職場の人と共にすることによる情報共有も活用されている。
上司と部下の関係性に影響を与える重要な要因であると考えられるが、その影響については明確には整理されていない。

・組織文化
クラン型組織文化
Cameron and Quinn(2006)が示したクラン型組織文化は組織内の人間関係を重視する組織文化であり、LMX に影響を与えると想定される。
※クランとは家族的文化(Clan)のことを指し、人材育成や組織の結束を重視しており、人間関係を濃密にする志向を持っている文化のことを言います。

媒介要因
・口頭コミュニケーション
人との関係性について考えるとき、口頭による会話の頻度は関係性に大きな影響を与える要因である。文章では伝わらない微妙なニュアンスも、 口頭では伝えやすくなる。これは、口頭コミュニケーションには言葉以外の情報(ノンバーバルな情報)が含まれており、感情や価値観も伝達されるからである。そのため、口頭コミュニケーション頻度が高いほど、話し相手とより親密な情報交換ができているといえる。

今回の研究で、FSB、情報共有機会、クラン型組織文化に着目した理由は、以下だと述べています。

これらの要因には従業員のつながりを強める効果があり、LMXを向上させると想定したためである。特にFSB については先行研究にて直接的に LMXを向上させることが示されている。しかしながら、口頭コミュニケーション頻度が媒介することは、今まで想定されてこなかった。

LMXの効果


Day and Gerstner(1997) は、メタ分析によって、LMXが高い場合、仕事パフォーマンス、上司への満足、全般的な満足、コミットメント、役割の明確化、メンバーのコンピテンスが向上し、役割コンフリクト、退職意思が低下するということを示しています。

こうやってみてみると、LMXが高まると組織に大きなメリットを及ぼすことがわかります。

仮説

規定要因、媒介要因の先行研究を述べた後に、この論文での仮説を示しています。

仮説1:口頭コミュニケーション頻度が多いほど、LMXに正の影響を与える。

仮説2:部下の FSB は、口頭コミュニケー ション頻度を媒介変数として LMXに正の影響を与える。

仮説3:上司の FSB は、口頭コミュニケー ション頻度を媒介変数として LMX に正の影響を与える。

仮説4:電子メールの利用頻度が多いと、口頭コミュニケーション頻度が媒介変数となり、LMX に正の影響を与える。

仮説5:仕事外のレクリエーションやパーティの時間を職場の人と共にすることの頻度が多いと、口頭コミュニケーション頻度が媒介変数となり、LMX に正の影響を与える。

仮説6:「クラン型組織文化」の傾向が高いと、口頭コミュニケーションを媒介として LMX に正の影響を与える。

ここまでの仮説 1 ~ 6 をモデル図にしたのが図 1 の仮設モデルです。

調査対象者

調査会社のマクロミル社を用い、会社員 515名を調査対象者としてWeb上での質問紙調査を実施。年齢は 20 ~ 59 歳を対象としており、性別は男女両方を対象とした。

測定尺度

※ここではさらっとの紹介にします。詳細の尺度、分析方法に興味がある方は論文をお読みください。

LMX
広く使われているLMX7の質問項目を用いる方針とした。

口頭コミュニケーション頻度
McAllister(1995)の研究を元に質問を作成した。

部下の FSB
Ashford(1986)の研究を元に質問項目を用意した。

電子メールの利用機会、仕事外のレクリエー ションやパーティの時間を職場の人と共にすること
本研究用にそれぞれ質問を用意した。

クラン型組織文化
Cameron and Quinn(2006)の測定指標を元に、クラン型組織文化についての質問を用意した。

尺度の信頼性分析と相関分析、重回帰分析を行い、結果を出した。

結果

仮説 1 と 3 は支持され、仮説 2と 6 については部分的な支持にとどまりました。一方で、仮説 4 と 5 は棄却されました。電子メールの利用機会と仕事外のレクリエーションは LMX に影響を与えていませんでした。

部下のFSB、上司のFSB、クラン型組織文化は部下のLMXに重要な影響を与えていました。そして、その影響については口頭コミュニケーションが媒介していました。ただし、部下のFSBとクラン型組織文化のLMXへの影響については、口頭コミュニケーションは部分的に媒介するにとどまりました。

【影響を与えた理由】
・部下のFSBは、部下自身が仕事の改善を行うための行動である。FSB を行う部下は仕事に対 して積極的であるという印象を上司に与え、上司の評価が高まり、LMX に直接的に正の影響を与えると考えられる。

・クラン型組織文化においては人材育成に価値が置かれており、 教育を受ける部下が、上司に大事に扱われていると感謝するようになる。この感謝の意識が、部下の LMXを直接向上させると考えられる。

【影響を与えなかった理由】
・一方で、電子メールの利用機会は、口頭コミュニケーション頻度にも LMX にも有意な影響を与えていなかった。理由は、電子メールが事務的 なやり取りに終始するためだと考えられる。電子メールは文字情報であり、微妙なニュアンスなど は交換されない。そのため、上司と部下の相互理解が深まらないと考えられる。

・仕事外のレクリエーションは、口頭コミュニケーション頻度を増加させてはいたが LMX を向上させてはいなかった。部下が上司との関係性をコミュニケーション内容に仕事場面に関することが含まれる場合には、部下が上司を評価できる。しかし、仕事に関係ないコミュニケーションだけしかない場合には、部下は上司を評価することができないと思われる。


以上の研究結果から、上司の立場にある人は、部下に、上司自身に対する評価を直接聞くことが効果的かもしれません。
私も昔、一緒に働いていたリーダーから「一緒に仕事やっていて、もっとこうしてもらえると嬉しかったってところある?」と聞いてもらったことがあったのですが、そのリーダーのことを信頼できる人だなと感じたのを覚えています。

気軽に聞いてもらうことで、会話がしやすくなって、いろいろなことを話せるようになるきっかけにもなるかもなと思いました。

率直に自分のことについて、身の回りの人(部下やスタッフ)に聴いてみるという行動は勇気はいりますが、上司と部下の関係性においては重要な行動であることがわかります。一方で電子メールなどはあまり大きな効果が見られなかったということも興味深いですね。


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