【論文】組織はどのようにアンラーニングするのか?-とある社会福祉法人X会による組織アンラーニングの軌跡-
アンラーニング、という言葉はご存知でしょうか?アンラーニングとは、「学習棄却」と呼ばれ、これまで学んできた知識を一旦横に置いて、新しく学び直すことを指します。
決して、これまで学んできたことを「捨てる」ということではありません。「自ら当たり前になってしまっている古い既存の価値観に気づき、アップデートしていくこと」に近いと思います。
その中でも「組織アンラーニング」という概念をこの論文では取り上げています。
論文名:組織はどのようにアンラーニングするのか?/安藤史江、
杉原浩志
なぜ組織アンラーニングは必要なのか?
現代経営学の父と呼ばれるピーター・ドラッカーは「あらゆる計画や活動を定期的に審査し、有用性が証明されないものを廃棄するようにするならば、創造性は驚くほど刺激されていく」といったことを述べています。(1964年に出版された『経営者の条件』)
新型コロナが蔓延し、世界が大きく変わり果てた時に、従来のやり方を手放せた組織と、そうでない組織とでは、大きな違いがあったのではないでしょうか。
社会の変化に応じて、有効性が失われた知識・スキルを棄却し、新たな知識・スキルに入れ替えるアンラーニングが、組織学習には欠かせなくなってきています。
組織アンラーニングの対象
この論文では、既存の知識やルーティン、組織価値の棄却のみを、組織アンラーニングと捉えることにしています。
組織アンラーニングの対象は大きく3つに整理できます。1つ目は、比較的慣性の弱い原理原則的である「表向きの組織価値およびルーティン」、2つ目は、組織に埋め込まれているため、慣性が強く、実際の組織行動にも多大な影響を与える「遂行的な組織価値およびルーティン」、そして3つ目は、組織メンバー個人に埋め込まれているため既存研究の多くが組織アンラーニングの対象から落としがちだが、実は組織アンラーニングの成否を握ると考えられる「組織メンバーのメンタルモデル」です。
研究対象者:ある地方都市で老人福祉施設を経営する社会福祉法人X会
X 会は組織アンラーニング対象すべての棄却を可能にし、大規模な組織アン
ラーニングを実現させた。
調査方法:X 会の関係者への聞き取りや直接観察、3 回にわたるX会実施によるアンケートの結果や、議事録を始めとした内部資料の活用を通じて事例分析を進めていった。
X会による組織アンラーニングの軌跡
大規模なアンラーニングを成し遂げたX会の軌跡を第三フェーズに分けています。詳細は割愛しますが、ざっくりとフェーズごとに説明するとこんな感じです。
分析および考察
以上の結果から下記の考察が記されています。
・X 会では、前述した3つの組織アンラーニング対象を段階的に棄却して、大規模な組織アンラーニングを成功させたことが確認できる。
・X会の組織アンラーニングは段階的に進んだ。事例から1つの共通点が浮かび上がる。それは、既存の組織価値およびルーティンの棄却レベルに組織内でギャップがあるときに生じ、それが解消され組織内で棄却レベルが揃うと、再び組織アンラーニングに向けて動き出す、というパターンである。
・理事長や理事が組織アンラーニングの牽引者となった第 1 フェーズでは、組織アンラーニングを実際に行った当事者は一般職員 および管理職であったが、以降は表3で示すように、各フェーズの棄却の当事者は徐々に組織のよ り上位層に移り変わっていった。
・組織内のいずれかの層で始まっ た組織アンラーニングを足踏みさせたり、逆戻りさせないためには、当該層内での棄却レベルのバラツキをなくしたうえで、その層に対して業務の進め方に関する指示命令や評価の権限を持つ直接の上位層の棄却が重要になる。
少し長くなりましたが、私がこの論文でハッとさせられたのは、理事長などのトップ層が「反対グループのメンバーを自律型組織の実現を阻む単なる問題児」と捉えていたけれど、そのラベルづけは物事の一面しかみない一方的なもので、実はそれだけ彼らの施設運営への関心や意識が高い証拠とも解釈できたことに気づいた(アンラーンした)という箇所でした。
まさに、個人のアンラーンが組織のアンラーンに繋がった事例なのではないかと思いました。まずは、気づくことから!
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