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従業員の組織内自尊感情を高めるには、上司の直接的な働きかけよりも、組織が発信するポジティブなメッセージが重要!?
「この会社で、自分の存在は価値がある」
「この組織において自分は有能である」
この組織で自分は重要な存在である、と認識できるということは、従業員にとってどのように良い影響があるのか、そしてその認識はどうやって高まるのか、そんなことを研究した論文があったので、今回はそちらをまとめようと思います。
この研究は、従業員の組織内自尊感情(OSE: Organizational-Based Self-Esteem)とそのWell-Being(心理的健康や幸福感)との関係性を明らかにすることを目的としています。特に、組織内自尊感情が従業員のWell-Beingにどのような影響を与えるのかを検討し、そのメカニズムを分析しています。
ここでいうWell-being とは、「従業員の健康に関る身体的、精神的、情動的側面であり、それらは相乗的に作用し個人に影響をもたらす」ことを指します。
組織内自尊感情は「個人が組織の成員として自己を有能で価値ある重要な存在と捉える度合い」と定義されます。
論文名:組織内自尊感情と従業員 Well-Being との関連/松田与理子さん、石川利江さん
研究目的と分析モデル
従業員のポジティブな心理特性である組織内自尊感情が従業員の Well-being に与える影響について検討を行った。
その際に、従業員―組織の社会的交換関係という文脈に着目した。その背景には、役割葛藤、 量的・質的労働負荷、対人問題等、これまで職業性ストレス研究の中心であった個人の職務関連ストレッ サーだけでなく、経営慣行、従業員―組織の関係、組織風土といったよりマクロな概念と従業員の Wellbeing との関連を調べる研究が求められていることがある。
これを受けて本研究では、近年研究が進んでいる従業員―組織の社会的交換関係の代表的概念である組織サポートを、組織内自尊感情の規定要因として仮定した。組織サポートは、組織が従業員の貢献をどのぐらい評価してくれるか,彼らの Well-being をどのぐらい配慮しているかに対する従業員の知覚である。
加えて、従業員が知覚する上司のサポートは組織サポートを規定する主要な要因であること、上司の組織内自尊感情への影響が確認されていることから、組織内自尊感情に対する上司サポートの直接効果および組織サポートを介在した間接効果も含めて検討を行うこととした。
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調査方法
約 100 万人のモニター会員で構成されるリサーチ・ パネルを保有するインターネット調査専門会社に調査を依頼した。本研究の調査対象を年齢20~60 歳の企業に勤務する男女約 1,000 名とし、これらの条件を満たす該当者が抽出された。
分析方法
分析モデルの検証には最尤法による構造方程式モデリングを用いた。
測定項目:
・組織内自尊感情(組織内での自己価値感の評価)
・Well-Being(心理的健康、ポジティブ感情、ネガティブ感情の少なさ)
・媒介要因(自己効力感、職務満足感)
・調整要因(上司のサポート、組織文化)
考察
従業員―組織の社会的交換関係というマクロな文脈において、従業員のポジティブな心理特性である組織内自尊感情が従業員の Well-being に与える影響について検討を行った。
・組織内自尊感情は、仕事に対する熱意、没頭、活力を表すワーク・エンゲイジメントに正の影響を示した。
・組織内自尊感情は、抑うつ傾向と身体愁訴のいずれにも負の影響を与えることが本研究の結果で明らかになった。
・従業員が知覚する組織のサポートが、組織内自尊感情に正の影響をもたらすことが示された。社会的交換の観点では、 組織が従業員との社会的交換で提供する資源は、従業員の社会的、自尊的欲求に応える社会情緒的資源である。社会情緒的資源は、従業員が組織に評価されている、威厳を込めて扱われているといったメッセージを発する。
・組織サポートが、ワーク・ エンゲイジメントに直接的な正の効果を持つことが示された。
・上司が部下に提供する対人的なサポートには、組織内自尊感情を高める直接効果が見られなかった。
・一方、上司サポートは組織サポートを高める強力な要因であること、また、組織サポートは上司サポートと組織内自尊感情の関係を完全に媒介していたことから、上司サポートの間接効果が確認された。
以上のことから、組織内自尊感情は、従業員の心理的健康やワーク・エンゲイジメントを向上させる重要な要因であり、組織における従業員支援の基盤となることがわかりました。
一方で、従業員が組織との関係というマクロな文脈において、自己を重要で価値ある存在と捉えるためには、上司の直接的な働きかけではなく、組織が発信するポジティブなメッセージが重要であることを示しているということもわかりました。
組織内自尊感情を高めるためには、組織が従業員の貢献を評価し彼らの Wellbeing を気遣ってくれると捉えた場合に、従業員の組織における自己の重要性や価値が高まることが考えられます。
従業員の貢献に対して、ちゃんと評価をすること、そして従業員の幸せを組織として考えているメッセージが重要です。