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上司による部下育成行動の構造と影響要因について。

上司による部下育成行動とはなんでしょうか。
メンタリング、コーチング、オンボーディング、1on1、励ますこと、…色々ありそうですよね。

今回は、上司による部下育成行動の構造と影響要因を明らかにすることを目的とした論文をまとめていきます。

専門用語や分析手法が難しいので、ちょっとわかりづらい…という方は結論だけ読むでも良いかもしれません。

論文名:企業における上司による部下育成行動とその影響要因/毛呂准子


目的

①上司による部下育成行動の構造と影響要因を明らかにすること。
②①の目的で明らかになった知見をもとに部下育成行動を促進する研修プログラムを開発し試行して、その効果を測定すること。

研究1

上司がとる部下育成行動を、探索的に検討するため、上司8名への面接調査 を行った。 調査の結果、上司がとる部下育成行動として、メンタリング行動と同一の行動と、メンタリング行動測定尺度(久村,1999)以外の行動が行われていた。数量化Ⅲ類による分析の結果、部下育成行動は、メンタリング行動に比し、部下との距離感が近く、部下個人を尊重する行動であった。

研究2

部下育成行動の構造や影響要因と、部下育成能力と部下育成行動との関連を検討するため、上司調査(有効回答250名)を行った。因子分析の結果、部下育成行動は、「共感的態度」「肯定的個別関与」「快適環境創出」「挑戦的成長促進」「展望・意味づけ」「役割モデル提示」「仕事の委任」の7下位側面で構成された。これらの7下位側面は、相関分析によりメンタリング行動との相関が高い側面もあったが、内容の解釈からメンタリング行動には含まれない側面が存在した。また、メンタリング行動と全く相関のない側面もあった。したがって、部下育成行動は一部メンタリング行動に包含されるもののメンタリング行動には含まれない側面が存在すると解釈された。
そこで、部下育成行動7下位側面に関し、クラスター分析および主成分分析を行ったところ、4側面に分類された。上司の行動・態度のあり方および内容から、「共感的態度」「肯定的個別関与」および「快適環境創出」は「協調的支援」の側面、「挑戦的成長促進」および「展望・意味づけ」は「積極的支援」の側面、「役割モデル提示」は「上司の率先性重視」の側面、「仕事の委任」は「部下の主体性尊重」の側面に、それぞれ分類されると解釈された。

「協調的支援」の側面と「積極的支援」の側面は、上司から部下へ直接的に働きかけて部下を育成する「動的側面」と解釈された。また、「上司の率先性重視」の側面および「部下の主体性尊重」の側面は、部下との関わりを控え、上司から部下への動きが少ない「静的側面」であると解釈された。

研究3

部下から認知された育成行動に関する研究。研究3-1では探索的に検討するため、部下12名に対する面接調査を行った。上司側で構成された部下育成行動7側面は部下側でも認知されていた。研究3-2では、部下から認知された育成行動への影響要因や、部下から認知された育成行動と能力向上との関連を検討するため、部下調査(Webパネル調査(有効回答305名))を実施した。「部下育成評価制度」と「キャリア面談制度」が部下から認知される育成行動を高めており「能力成果主義人事制度」も部下の能力向上自己評価を高めていた。なお、部下の「キャリアに対する関心」の及ぼす影響は限定的であった。パス解析では、職位に拘らず「挑戦的成長促進」が部下の能力向上自己評価を高めていた。課長以上層の部下では「展望・意味づけ」も能力向上自己評価を高めていた。

研究4と5

研究4および研究5では、研究1から研究3-2の知見を活用して、部下育成行動を促進する研修プログラムを開発し試行して,効果測定を行った。上司10名に対する予備的面接調査(研究4)の後、研究5では、ウェイティングリスト・コントロール・デザインを採用し、24名の調査協力者を実験群と統制群の2群に分け、1回3時間のプログラムを試行し、効果測定を行った。内容は心理学者および実務家の指摘を受け再構成した。2群は職位を除き、ほぼ等質性が確認された。

結論

・部下を育成し部下の能力を高めるためには、上司の部下育成行動のうち、動的側面が有効であった。動的側面は、上司から部下へ直接的に働きかけて、部下を育成する態度や行動の側面であった。特に本論文では、動的側面の「挑戦的成長促進」が主に部下の能力向上自己評価を高めていた。

・本論文で取り上げた人事制度である「キャリア面談制度」「部下育成評価制度」および「能力成果主義人事制度」は上司の部下育成行動を促進した。

・上司の個人的要因の中では「育成された経験」「仕事に対するコミットメント」および「キャリアに対する関心」が、部下育成行動を促進していた。「キャリアに対する関心」に関しては、上司部下両側で検討した結果、上司の「キャリアに対する関心」は上司がとる部下育成行動を促進していた。課長以上の部下の「キャリアに対する関心」も限定的ではあったが、部下から認知された育成行動に影響を及ぼしていた。また、上司の「部下に対する脅威感」は部下育成行動を抑制していた。

職位により、部下育成行動の影響要因や部下育成能力自己評価の規定因、部下の能力向上自己評価の規定因は異なっていた。

・部下育成行動4側面7下位側面や部下育成行動に対する促進要因や抑制要因に関する実証的研究から得られた知見を活用し、1回3時間という短時間の部下育成促進プログラムを開発した。「最も遠い存在に感じる部下」に対して動的側面である「挑戦的成長促進」行動および「部下育成意識」を促進する直後効果が検証された。「最も遠い存在に感じる部下」に対する「挑戦的成長促進」行動は、その効果が6週間後も持続したことが確認された。


まとめ

以上のことより、上司の部下育成行動は、上司の個人的要因(キャリアに対する関心)や人事制度によって促進されることが示され、さらに、部下育成行動が部下の能力向上や自己評価に影響を与えることが確認されました。特に部下の能力を高めるには、上司の部下育成行動のうち、動的側面が有効であることもわかりました。

動的側面:上司が部下に直接働きかける行動で、部下との関わりが強い。例えば、「挑戦的成長促進」や「積極的支援」など、部下に対して積極的な指導や支援を行う行動。
静的側面:上司が部下に対して控えめに働きかける行動で、上司の指導が少なく、部下の自立を促すような行動。例えば、「部下の主体性尊重」や「上司の率先性重視」など。

また、職位や部下との関係が部下育成行動に与える影響についても重要な示唆が得られました。

1制度や1施策で組織全体の部下育成を促進することは困難であり、組織は、組織全体の人材育成を強化したいのか、特定の層の育成に課題があるのかなど、育成の対象や課題を明確にし、施策を選択したり、複数の施策を並行して実行したりするアプローチを提案することが重要です。

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