見出し画像

ソーシャル・サポートとパフォーマンスの関係一職務満足・組織コミットメントのメディエーター効果とは?

ナレッジワーカー(企業に対し、自身の知識によって付加価値を生み出す労働者)が働く職場において、ソーシャル・サポートが肯定的な感情を介して組織や個人のパフォーマンスに対してどのようなメカニズムで影響するかについて明らかにすることを目的とした論文をまとめます。

具体的には、ナレッジワーカーに対して行った質問票調査において収集されたデータの統計分析を行い、ソーシャル・ サポートとパフォーマンスとの関係における肯定的感情のメディエーター効果を測定しています。

※メディエーターとは、媒介者、仲介者、橋渡し役、まとめ役、仲裁人、調停者、調停役などを意味する。二つの変数の「間に入り込む」という意味。

ソーシャル・サポートの定義はこの論文においては、「ある人を取り巻く重要な他者(家族、友人、同僚、専門家など)から得られるさまざまな形の援助 (support)」(久田、1987,170頁)として捉えている。

論文名:ソーシャル・サポートとパフォーマンスの関係一職務満足・組織コミットメントのメディエーター効果とは?/井川浩輔さん

分析モデル

この論文で注目する変数と、それを用いた分析モデルについて、以下のようにまとめられている。

独立変数として取り上げられる概念は、「ソーシャル・サポート」

メディエーター変数として取り上げられる肯定的感情に関連する概念は、「職務満足(jobsatisfaction)」

職務満足とは「個人の仕事と仕事の経験の評価によりもたらされる喜ばしいもしくは肯定的な感情」(Locke,1976,p1300)であり、人間の短期的な心的エネルギーを意味する概念のことである。

メディエーター変数として取り上げられる肯定的感情に関連するもう1つの概念は、「組織コミットメント(organizationalcommitment)」。

組織コミットメントとは「組織と従業員の関係を特徴づけ、組織におけるメンバーシップを継続、もしくは中止する決定に関するインプリケーションを持つ心理状態」(Meyer&Allen,1991,p67)のことである。

従属変数として取り上げられるパフォーマンスに関連する概念の1つは、「組織市民行動(organizationalcitizenshipbehavior)」。

組織市民行動とは、「公式な報酬体系で直接もしくは明示的に認められていないが、その集合は組織の効果的機能を促進する、自由裁量の個人的行動」(organ,1988,p4)のことである。

従属変数としてもう1つのパフォーマンス変数に離職が用いられているが、それは医療組織における最終成果の代理変数として離職が注目されていることによるもの。

以上のような尺度を設定したうえで、図表1、図表2で示すような分析モデルを構築したのが以下の図である。

「ソーシャル・サポートとパフォーマンスの関係一職務満足・組織コミットメントのメディエーター効果とは?」p46より抜粋

仮説


仮説1:ソーシャル・サポートと(a)組織市民行動や、(b)離職との関係は、職務満足によってメデイエーテイング(調整)される。

仮説2:ソーシャル・サポートと(a)組織市民行動や、(b)離職との関係は、組織コミットメントによってメディエーティング(調整)される。

結果

・ソーシャル・サポートと離職の関係は、職務満足によってメディエーティング (調整)されることである。すなわち、ソーシャル・サポート(感情的サポート)は、ナレッジワーカーの職務満足という肯定的感情を高めることを通じて、離職の低減に結びつくと解釈できる。ただし、組織市民行動に対しては、メディエーター効果は見出されなかった。これらの結果から、仮説1は部分的に支持されたといえる。

・ソーシャル・サポートと組織市民行動、および離職との関係は、組織コミットメントによってメディエーティング(調整)されることである。すなわち、①ソーシャルサポート(感情的サポート)は、ナレッジワーカーの組織コミットメントという肯定的態度を高めることを通じて組織市民行動を促進する、②ソーシャル・サポート(成長的サポート) は、ナレッジワーカーの組織コミットメントという肯定的態度を高めることを通じて離職を低減する、というようにそれぞれ解釈できる。この結果から、仮説2は支持された。

まとめ

組織市民行動には感情的サポートが、離職には成長的サポートが効果的となることがわかりました。困っている同僚への支援を促すには、上司が部下に対して助けるということについて、部下に共感を与えるマネジメントが重要になるといえます。

一方で、その職場を離れるか否かの個人の意思決定には、感情面でのサポートよりも、部下が成長していると実感できるような機会を与えることが大きく影響することもわかりました。

ソーシャルサポートと言っても、なんでもサポートすれば良いということではなく、何の行動を促進したいかによって、何のサポートをするか(感情的なのか、成長的なのか)を考える必要性がある、ということが興味深かったです。

いいなと思ったら応援しよう!