見出し画像

「期待」は、声かけが重要なのではなく、期待を抱く側の意識的、無意識な働きかけが影響を及ぼしている!?

上司から「期待」を伝えられたらどう感じますか?

よし、ますます頑張ろう!
いやー、プレッシャーだなー….
反応はさまざまかと思います。

管理者が部下に適切に期待を伝えることで、部下の動機づけ、職場の生産性を高めようとするピグマリオンリーダーシップ(Eden, 1992)というリーダーシップがあります。

実際に目上の立場からの期待の声掛けは、声をかけられた側にどのような心情の変化をもたらすのか。この論文では、期待の声掛けが動機づけや二者関係にどのような影響を及ぼすかについてまとめています。

論文名:期待の声掛けが内発的動機づけ及び印象形成に与える影響-場面想定法を用いた探索的検討-/井川純一さん


期待とピグマリオン効果

ピグマリオン効果とは、教員など相対的に高い社会的立場にある者からの期待を込めた対応が、個人の能力や意欲の向上にポジティブな影響を与えるという現象のことを言う。

ピグマリオン効果と対になる現象として、ゴーレム効果も知られている(Babad, Inbar, and Rosenthal, 1982)。ヘブライ語のスラングでダンベル(重し)の意味を持つゴーレム効果は、 ピグマリオン効果とは裏返しに教師が期待をかけないことが生徒の意欲や成績を低下させてしまう現象である。

インタビューと観察に基づき、上司が無意識のうちに部下に対する自信のなさを伝えている様子について検討した研究(Manzoni & Barsoux, 1998)においては、上司によって「成績が悪い」と認識されてしまった部下に起こるネガティブな自己実現、自己成就的な影響のプロセスが明らかとなっている。

ピグマリオン効果のメカニズムと他者からの期待の声掛けの影響

部下のパフォーマンスとリーダーの期待には相関があり、ピグマリオンマネジメントを行うことで、部下の自己効力感が上昇することも示されている(Raza, 2013)。

なぜ、目上の人物からの期待が他者にポジティブな影響を及ぼすのか。先行研究においては、期待を抱く側が相手に向けて作る雰囲気や、より多くのことを教えようとする傾向の影響が強いとされている。

教師が生徒に対して高い期待を抱いている場合、その期待を口頭と非言語の両方で伝える傾向があることも明らかとなっている(Babad, Bernieri, & Rosenthal, 1989)。つまり、他者が期待をかけただけで相手が「勝手に」成長するわけでなく、期待を抱く側の意識的、無意識な働きかけが影響を及ぼしていると考えられる。

期待の声掛けは常にポジティブか?

期待の声掛けは常にポジティブというわけではない。

期待の声掛けがネガティブに働きうる状況として、心理的リアクタンスが考えられる。 Kohn (1999 田中訳 2011)は、他者が欲しがったり必要としたりするものを提供し、それによって他者の行動をコントロールしようとする姿勢について、通俗行動主義と呼んで痛烈に批判している。この点から考えれば、もし、期待の声掛けがネガティブに認知されれば、言語的報酬によって自らをコントロールしようとする上司の意図を感じ、結果として内発的動 機づけが低下してしまう可能性がある。

例えば、そもそもコミットメントが持てず渋々行っている職務(いわゆるブルシットジョブ(酒井,2021))に対し、上司から期待の声掛けを受けた場合には,心理的リアクランスが増加し、内発的動機づけはさらに下がるかもしれない。

調査

この研究では、予備調査と本調査を実施している。

予備調査
本調査で使用する場面想定法シナリオや尺度を精査するために探索的に行っ た。参加者は広島県内の 2 つの大学の学生 105 名(男性 74 名,女性 31 名,平均年齢 18.72 歳) であり、2015 年 4 月に質問紙を用いて行った。参加者は、試験前に担当教員から声をかけられる内容のシナリオ(本調査参照)を読み、その際のモチベーションや対人認知に関する質問項目に回答した。

本調査
本調査では、予備調査において探索的に設定した質問項目やシナリオを修正した場面想定 法調査を行った。シナリオについては,、声掛け語句条件(期待・統制・反発)及び表明者の好ましさ条件(好き・嫌い)を操作した 6 種類とし、シナリオ場面において測定する心情は、モチベーション(内発的動機づけ・外発的動機づけ)及び表明者の印象(ポジティブ・ネガ ティブ)とし、以下の仮説を検討した。なお、外発的動機づけについては、仮説に含めず探索的に検討した。
※細かい分析方法はここでは割愛しています。

仮説

仮説 1 声掛け語句と表明者の好ましさが内発的動機づけに及ぼす影響  
仮説 1- 1 内発的動機づけは、期待の声掛けで高まり、反発の声掛けで低くなる
仮説 1- 2 表明者が好ましい人物の場合、内発的動機づけが高くなる
仮説 1- 3 好ましくない人物からの期待の声掛けは内発的動機づけを減少させる
仮説 2 声掛け語句と表明者の好ましさが表明者の印象形成に与える影響
仮説 2- 1 期待の声掛けはポジティブ、反発の声掛けはネガティブな印象を形成する
仮説 2- 2 表明者が好ましい人物の場合,ポジティブな印象が形成される
仮説 2- 3 好ましくない担当教員から期待の声掛けを受けた場合、好ましい教員のそれよりもポジティブな印象が形成される

方法

調査参加者は、地方国立大学の学生 116 名(男性 62 名,女性 54 名。平均年 齢 19.20 歳,SD=1.13 歳)であった。調査は質問紙を用いた場面想定法実験によって行われた。調査参加者は、性別、年齢及び個人特性に関連する質問項目に回答後、場面想定シナリオを読み、その場面でどのように感じるかについての質問項目に回答した。

p9より抜粋

結果

仮説 1- 1 内発的動機づけは、期待の声掛けで高まり、反発の声掛けで低くなる(不支持)。
仮説 1- 2 表明者が好ましい人物の場合,内発的動機づけが高くなる(不支持)。
仮説 1- 3 好ましくない人物からの期待の声掛けは内発的動機づけを減少させる(不支持)。
仮説 2- 1 期待の声掛けはポジティブ、反発の声掛けはネガティブな印象を形成する(支持)。
仮説 2- 2 表明者が好ましい人物の場合、ポジティブな印象が形成される(支持)。
仮説 2- 3 好ましくない担当教員から期待の声掛けを受けた場合、好ましい教員のそれよりもポジティブな印象が形成される(不支持)。

本研究のまとめ

期待の声掛けが表明者の印象形成にポジティブな影響を及ぼすことが明らかとなった。しかし、期待の声掛けは、自分に対する関心だけでなくひいきや被コントロール感も同時に惹起させてしまう可能性がある。

また、二者関係が良好になることが職場環境にポジティブな影響のみを起こすわけではない。例えば、教師の差別的行動に対する他の生徒の認識は、モラル低下や否定的反応と関連していることが示されている (Babad, 1995)。期待の声掛けを行うことで、声掛けを得られなかった他の人物の内発的動機づけを下げてしまう可能性があるのであれば、その伝え方には十分な注意が必要であろう。

また、仮説で想定した期待の声掛けによる内発的動機づけの上昇は認められなかった。ピグマリオン効果が認められるためには、期待を持つ側の無意識的な行動の変化が重要であり、単純な声掛けのみでは内発的動機づけは上昇しない可能性が高い。そもそもJussim & Harber (2005)のレビュー論文では、ピグマリオン効果の効果量が現場レベルで実感されている よりも小さい一方で、教師にはその誤った信念(期待が他者を成長させる)が共有されていることが述べられている。この誤った信念が示すように、ピグマリオンマネジメントという 発想そのものが、ある意味通俗行動主義に基づいた幻想といえるのかもしれない。

ーーーーーーーー

期待を伝えることが重要なのではなく、口頭、非言語などの期待を抱く側の意識的、無意識な働きかけが影響を及ぼしているということが新しい発見でした。

また、関係性が良好である人の声掛けとそうでない人の声掛けではポジティブな印象が変わるのも納得ですよね。

そう考えると、期待を伝えるという行動だけに着目するのではなく、日頃の部下との関係性をどうみているか、そして部下に期待を伝える際は、なぜ期待を伝えるのかと声をかける側が意識をして行動にうつすことが重要そうです。

いいなと思ったら応援しよう!