新任マネジャーが直面する問題、対処行動、学びとは何か?
マネジャーってやることもたくさんあって、責任も重大ですよね。新しくマネジャーになった友人から、「また現場とは違う難しさがあって葛藤だらけだよ….」と相談を受けることもあります。
今回は、新任マネジャーが直面する問題、対処行動、学びを分析した論文があったのでそちらをまとめようと思います。
論文名:マネジャーへのトランジションの実態 ~新任マネジャーが直面する問題、対処行動、学び~/古野庸一さん
研究の目的
経営者の成長経験の研究とマネジャーへのトランジション研究の両者を結ぶ 研究として、マネジャーのトランジションの実態を「直面する問題」と「対処行動」と「学び」という観点で明らかにして、仮説モデルをつくることを目的とする。
先行研究
キャリア発達論の研究の中で、マネジャーになるということは、心理的葛藤もあるが、 人としての成長・発達が促されるトランジションである(Hall & Nougaim 1968, Schein 1978, Nicholson & West 1988)。
また、 最初の管理職経験の陥りやすい問題点として、「権限委譲が進まない」「部門全体の状況が読めない」「強いチームが構築できない」「自分に近い部下を重用する」などが明らかになってきた(Charan ら(2010)、小方ら 2010)。
マネジャーへの移行に特化した研究として、 Hill(1992)の研究が先駆的である。Hill は、担当者から管理者へ移行時には能力や人間関係の構築にとどまらず、「新しいアイデンティティの形成」が伴うことを明らかにした。
対象と方法
2014年4月に営業マネジャーに初めて就任した 8 名(教育研修 X 社 3 名、情報流通 Y 社 5 名)に面接調査を行った。本研究の対象として、営業職種を選んだ理由は、マネジメントの力量が如実に試される職種であると判断したからである。
結果
図表 2 は、8 名の 2 回(2014年5 月、7月) 行ったインタビューから分析した結果である。
結果図をまとめると、以下となる。
新任マネジャーが直面する問題
役割の変化:個人の成果を追求するプレイヤーから、部下を育成し組織の成果を追求するリーダーへの転換。
業務負担の増加:管理業務や調整業務が増加することで、時間やリソースに余裕がなくなる。
部下との関係構築:信頼関係の構築や部下育成に苦労する。
スキルの不足:管理職に求められるリーダーシップスキルやマネジメントスキルの不足。
新任マネジャーの対処行動
自己学習:書籍やセミナーを通じたスキルアップ。
上司や同僚からの支援:自ら相談やアドバイスを求める行動。
トライアンドエラー:試行錯誤を繰り返しながら問題を解決。
学びの内容
リーダーシップの重要性:部下のモチベーションを高め、組織として成果を上げる方法。
柔軟なコミュニケーション:部下との信頼関係構築に必要な適応的なコミュニケーションの習得。
優先順位付け:多忙な業務を効率的に進めるためのスキル。
考察
研究目的に照らし合わせた考察
研究目的は、「直面する問題」と「対処行動」と「学び」の関係を明らかにすることとマネジャーへのトランジションと経営者育成の関係性を紡ぎだすことであった。前者に関しては、インタビューを通して、トランジションの仮説モデルを形成し、「問題」「行動」 「学び」の3つの関係性が見えたことで所期の目的は果たしたと言える。
後者について、 経営者共通に見られた「高い基準」「日々の仕事の鍛錬化」「内省」(古野ら 2013)を持つマネジャーとそうでないマネジャーの存在の 萌芽は見られたものの、直面する問題に対して克服し、成長を遂げた者と不適応を起こしている者の違いまでは言及できる段階ではない。より長期間の観察、広範囲のインタビ ューが望まれるところである。
先行研究との相違点からの考察
Hill(1992)が指摘したマネジャーになってからの気負いや「新しいアイデンティティの形成」 はほとんど見られなかった。理由として、日米におけるマネジャーの役割の違いにあると考えられる。マネジャーに関して米国の研究を参照する場合に、注意を要す問題であることがあらためて明らかになった と言える。 部下との相性等、着任時の部下の状態が心理的にも職務的にも影響を与えているという元山(2006)の指摘は、本研究でも支持され た。
一方で、元山の研究では「年上の部下」 は特に影響を及ぼさなかったが、本研究では、 年上の部下を持つマネジャーは、全員、障害を感じている。違いは、企業風土や構成員の価値観にあると考えられる。元山の調査は、 ある企業一社の調査であり、その企業では年 上の部下の扱いに慣れており、本研究での企業では、年上の部下の扱いに不慣れな文化を持っていると考えられる。
本研究は、マネジャーに着任して 3 ヶ月の間でのインタビューを分析したものである。ゆえに、 新任マネジャーは、まだトランジション中で 、直面する問題に対処している最中である。過去の経験だけでは対処できず、書籍や 研修から学び、上司や先輩マネジャーの指示を仰ぎながら対処をしている。しかし、 ほとんどのマネジャーは、問題に直面しているものの、対処方法がわからずに悩んでいる。 先行研究では、対処方法がわからず、なすすべがないが状態に陥っているマネジャーの苦悩は捉えられていない。
つまり、回顧的面談による研究では、対処中の問題の苦悩を拾うことは難しい。また、 最終結果に至るまでのプロセスをわかりやすい物語にしてしまう傾向がある。一方で、本研究ではリアルタイムの面談法を用いた。そ のことでより現実のトランジションを捉える ことができ、「直面する問題」の重要性や構造性への示唆を促し、モデル仮説を作成することへとつながっている。
感想
新任マネジャーのトランジションは、組織全体のパフォーマンスや部下の働きやすさに大きく影響するプロセスであることがわかります。
特に、文化的背景や企業風土がマネジャーの適応に与える影響についての考察は、日本の組織特有の課題に焦点を当てていて、現場での実践に活用できそうです。
新任マネジャーが経験する課題を明らかにすることで、課題解決に必要なスキルや知識を体系的に学べる仕組みを作ることにも繋がりますね。