所有楽器紹介:Alexander203DGBL
ベースの楽器
Alexander 203GBL、B/低Fフルダブル 3番上昇システム(フレンチシステム)、B/F共通gestキー付き
製造番号:3806
ベル:オリジナル 直彫り
回路システム:以下
システム改造
回路図
3番上昇を下降化
・3番バルブを動作反転:ロータリー内部を90度回転し、レバーを押したらバルブスライドへ迂回するように変更(レバーとロータリーの接続部や回転台は手を入れず)
・全音上昇(B→C/F→G)の長さのバルブスライドを外し、通常のダブルと同じ全音半(半音x3)下降するスライドへ換装。F管側は通常の胃袋形状だと本体と干渉するので 折りたたみ形状のものを用意(たまたま持ってた)
・F管3番には、半音下降のスライドも用意。運指F123でDes管長となる(F12によるD長さからさらに半音下げるイメージ)。B管側のC上昇により最低音C・Hは第1時倍音で出せるため、通常のF管13(長C管長)・F管123(長H管長)の運指は不要となる。軽量化にもなる。滅多に使わないし。
写真準備中:改造後 B管3番=半音x3下降、 F管3番=半音x1下降
gestを上昇化
・旧gestバルブを動作反転:ロータリー回転台の回転軸の反対側にネジ穴を開けてバーと接続し、レバー押さないとスライド経由 /レバー押すとスライド経由しないように変更
・旧gestスライドはC→B♭分の長いものに交換
・B管側で上昇操作(レバーを押す)C管長になる。
しかし、元のgestは B管・F管の両方に作用する。そのため、上昇動作もB管・F管の両方で作動してしまう。従って、F管側(親指レバーを押す)で上昇操作をすると、G管長にはならず GとFisの間の中途半端な管長になる。
残念ながら、やむを得ない。
F管全長を伸ばす
オリジナルではバルブスライド寄り道ゼロだとG管になる。そこへ B→C上昇を追加しても長さが足らずFまで下がりきらないので、下駄管を追加。
親指レバー作り直し
2段ある親指レバー、もともとは上段:B/F切替、下段:gest。
上昇レバーは多用するので、押しやすい上段に、ほとんど使わないB/F切替を下段にしました。
指板は、施工をお願いしたHMG金管楽器技術の特性の可動式。管体に干渉する分をカットし最適化。固定締めレンチは2.5。
親指レバーストッパー(追加構想中)
追加構想中
・(C)上昇でロック
・F管に入らないようにロック
・中途半端な管長である「F+上昇」を抑止
・ぶっちゃけC上昇があれば、F管はほとんど使わない
完全C管化(追加構想中)
B♭用より短い1番スライド・3番スライドを注文製作し入れ替え、上記C上昇レバーをロックすれば、完全なC管となる。
さらに、上昇バルブの論理を反転し(ネジの移動)、バルブスライドを詰めてC用1番スライドより若干短い長さとし、経由したら「高めB管状態」の長さとし、実音Dをぶら下がらない用。ペーター・ダムシステムの全音高い版逆に、B管にとっての1番スライド長より長くすれば、12:A状態 → 12+:G状態、23:As状態 → 23+:Fis状態、とできる。音程が低すぎる場合(特に、第5倍音)の補正、運指のシンプル化、そして「いざ頭がこんがらがったときに近似的にB管にする」効果がある。
システム調性:チューニング
ひとつチャプターを割いて欠く。それは、チューニング:設計上の基本管長が想定と全然違っていたためである。
復習:全音上昇のスライド長さとは
改めて改造前の回路図で、B管状態(上昇システムの無い楽器でのB管開放)で通るスライドを確認する。「メインチューニングスライド」「3番バルブスライド」の2箇所である。
そして、フランス式上昇システムでは、「上昇用3番バルブスライド」によって、楽器の長さが B管状態 → C管状態 へ短くなる。ということは、3番バルブスライドの長さは「全体の管長を C管状態 → B管状態へ 全音分下げる」とも言い換えられる。
「全音分下げる」バルブスライドはもう一つある。1番バルブスライドである。「全体の管長を B管状態 → As管状態へ 全音分下げる」である。
ということは、(B管から全音上昇用)バルブスライドの長さは、(B管から全音下降用)1番バルブスライドよりも約12%短くなければならない。
しかし、今回素材としたAlexander203の改造前の3番バルブスライドは、どう見ても1番バルブスライドとほぼ同じ長さである。つまり、長すぎるのである。
これによって何が起きるか。
いかに上昇システムがあっても、それが故に楽器全体の最短長が 通常の楽器より短いC管状態 であっても、楽器のシステムとしても、メインはB管である。1・2バルブスライドの長さはC管長ではなくB管長を基準にして設計されている。
つまり、上昇システムでの3番スライドを経由した状態でB管となるような全体管長:チューニングされてしまっている。
ということは、「長すぎる全音上昇スライド」を経由しないと、楽器全体の長さは、C管状態よりも結構短くなってしまう。つまり、めちゃめちゃ高いC管状態となる。
なお、現在のAlexanderのホームページに載っていつ203の写真では、全音上昇用の3番バルブスライドは、もう少し短くなっている。
そもそもC上昇で何が有利なのか
まず、Alexander103を筆頭に、これだけ優秀なB管(を内包する)楽器が存在しながら、C上昇とかをわざわざ使おうとする理由は、以下3つに集約される。
①B管ときより打率を上げる=低い倍音次数を使う=管長を短くする
②高F管より「質感のある音色」を出す=高Fよりは管長を長くする=倍音字通は高くなる
③大きい音程のズレの補正
例えば、第7倍音は約32セント低いので、通常のバルブ楽器では「そのままでは」使えない。しかし、トロンボーン奏者は 第7倍音を使う際にポジションを近くして全体管長を短くして正しい音程を得ている。基音の音程が約32セント高くなっているので、そのままのポジション位置で第6や第8倍音を吹奏すると 約32セント高い音程にツボが存在する。この「ちょいとポジションを近くする」のをバルブ操作で実現する。なお、約68セント低くするという操作でも 第7倍音で正しい音程が得られる、ただし半音一つ下の。
出したい音(高音域)に対しての、 管長x倍音次数の組み合わせは以下表になる。第7・11倍音は一般的でないので記載していない。
水色部が C上昇によって新たに形成可能になる管長「H」「C」である。
・B管で 実音Fis・Gを出そうとすると 第8倍音が必要となるが、C上昇による管長「H」「C」によって より低い第6倍音で出せる。つまり、打率が上がる。メリット①である。
・B管で 実音高Cis・Dを出そうとすると、運指「2」「0」では第10倍音のため音程が低い。楽器によっては右手・唇で補正(上げ)しきれない。一方で、音程がぶら下がらない運指「23」「0」では第12倍音と、非常に高次である。C上昇による管長「H」「C」によって より低い第9倍音で出せる、メリット①及び③のミックスである。
C上昇のチューニング手順
ホルンに限らずバルブ式金管楽器のチューニングは、経由するスライドの数が少ない状態から順番にチューニングし 経由するスライドを足していくのが鉄則である。123バルブスライドでも 0→2→1→12→23、 という順番である。
改めて回路図を示す。
ということは、バルブスライドを一切経由しない状態で ジャストC管状態となるようチューニングすればよい。と、大抵はそう思ってしまう。
しかし、思い出してほしい。12(3番下降であれば3も)バルブスライドの長さはC管状態を基準にしていない、B管状態を基準にしている。つまり約12%長い。つまり、「C上昇+B2 」の音程がけっこう低くなってしまう。とはいえ、「C上昇+B2 」はH管状態であり、普通のB管楽器では得られない倍音列は実音Fisをはじめ便利である。これを使い物にするには、C上昇のみ:バルブスライドを一切経由しない状態の音程を少々高めにしておき、右手や唇で補正するようにする。「C上昇+B2 」も十分実用できる。
なお、この管長構造のため、「C上昇+B2 」x「第10倍音」の実音ハイEsは相当低くなる(正味25セント)。
本楽器固有のめちゃめちゃ高いC管状態をどう扱うか
いよいよ、「C上昇のメリット」「C上昇のチューニング」「この楽器、約30セント高い」を組み合わせていく。
その前に、基本的な復習をする。
メインチューニングスライド、バルブスライド、ともに、「通常位置」は 目一杯突っ込んだところから1cm弱引き出した箇所である。これは、全体管長を短くする:音程を高くする側の補正幅・余地はけっこう小さいことを意味する。
逆に、スライドを引き出す:全体管長を長くする:音程を低くする側の補正幅・余地はけっこう大きいことを意味する。
しかし、今回の203、メインチューニングスライドを1cm引き出した状態で30セント以上高いという異常事態。 通常なら「目一杯引き出す」「長めのチューニングスライドに交換する」が定石だろう。トロンボーン奏者と違ってバルブ式金管楽器奏者の思考回路では管長を伸ばすことしか今まで考えてこなかったはずだ。しかも、数十セント単位で。
では次に、「出したい音に対しての 管長x倍音次数の組み合わせ」を復習する。
倍音次数7、11を載せていないことにお気づきだろうか。教則本には載っていないし、ナチュラルホルンや 倍音次数を指定した楽曲でない限り 実際の楽曲で狙って使っている人はまずいないだろう。
(もっとも、「ハズしてしまって 結果的に吹き鳴らしてしまった」は、ほぼ全てのホルン奏者で経験があるはず。)
以上を鑑みて、第6,8,9,10,12倍音と「同列に」第7,11倍音を 上記表に追加してみる。音程が低い倍音次数なら、その分全体管長を短くすればよい。
第7倍音の実用化による効用:倍音次数を下げる メリット①
・C上昇非使用で 実音Fis・G、さらにはトロンボーンで不可能なAsを出せる
・C上昇も加えれば、実音A・Bも 第7倍音で出せる
第10倍音の実用化による効用:倍音次数を下げる①、音程改善③
・C上昇非使用で 実音高Cis・高D の音程ぶら下がりをなくせる ← ただし、通常のC上昇によるメリットがあるので、絶対欲しい訳では無い
・C上昇も加えれば、実音高Es・高Eを 第10倍音で出せる ★
残念ながら、約45セントずれている(もはや 高いのか低いのかどっちやら?)第11倍音の実用は難しそうで、他の手段によってカバーされているようである。
強いて余地を挙げるなら、高Fだろうか。B管長:B管0 x 第12倍音、よりも低い倍音次数。10で出すためには 高Des管長 つまり デスカント楽器が必要なので今回は選択肢から外す。
となると、第11倍音を検討せねばならない。音程ピッタリのC管 運指0での第11倍音は、ほぼ 高Fと高Fisの中間(約55セント高い 高F / 約45セント低い 高Fis) のため、楽器全体が30セント高いなら 約25セント低いながら高Fisが出せるはず。よって、30セント高いH管状態なら約25セント低いながら高Fが出せるはず。
しかし問題がある。2番スライドは、C管長ではなく B管長を基準にしているため、 「30セント高いH管状態」を作ることができない。10数セント高い程度では、40セント以上のズレを補正することはできない。
残念ながら、実音高Fは ケアできなさそうだ。
さあ、以上の研究を踏まえて、どうするだゆうじ
2箇所のスライドの関係の見える化
市販されカタログにも載っているC上昇の楽器として、真っ先に思いつくのは ヤマハのYHR-832 。スライド配置とシステムについての図を引用する。
自分の 「ホルン回路図」 でも、以下分解説明している。一旦レバー操作を切り離し上側の表を作り、その後で下の表に書き換えると見えやすくなる。
ただし、今回の203では 約30セント分スライドの長さを変える手段として、ブツの入れ替えではなく(もちろんクラッチバルブは使わない)、スライドの抜き加減で調整する。そのため、「連続値であるため、同じ2次元でも 表ではなくプロットグラフで表す」「正解の場所は自分で探す」が必要となる。
本楽器スペシャルチューニング
Coming Soon
システム外改造
リードパイプ角度調整
103に近づけるべく、ベル-リードパイプ角度を狭めるべく、マウスパイプ角度をきつくする側へ調整
マウスピースーマウスパイプアダプタ
当初は、
・マウスマイプが103より短く、構えると楽器がすごく近く感じる
・マウスピースの刺さりがかなり深く、自分のマウスピースに付けているバランサーが干渉してしまうほど
・マウスピースとマウスパイプの嵌合が合わず、ガタつく
単に嵌合を合わせるだけなら削ればすみましたが、せっかくなら一挙両得ならず一挙三得するために、延伸長が長すぎない(それだけ薄くて加工に注意が必要)アダプターで解決しました。音程の問題もありません。
細かいところ
ロータリーキャップ
123,B/F切替ツインロータリー、合計5箇所を軽量アルミ製に交換(楽器全体が重たくて・・・)
ウォーターキィ
B管3番にはあまりたまりません。103と逆で 1→2→3 の順の管路であり、C上昇のお陰でB管23の運指をすることが少ないからです:実音Fis。とはいえつけました。
プロテクター
Alexander純正を微調整
小指かけ
純正の固定型を若干移動(可動式は気づかないうちに動いてしまうので嫌い)
バズイングチェッカー
BERP常備。ふつーのB/Fダブルと音程の癖が若干変わるので、頻繁にチェック。