白衣の患者はチラチラ見られて気まずい 第64回 月刊中山祐次郎
皆様こんにちは、中山祐次郎です。いつもご購読ありがとうございます。
この月刊中山祐次郎は月5本くらいのペースで、中山が他に発表したエッセイや、ここでしか書かないものをまとめております。どうぞよろしくお願い致します。
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先日、歯医者に行った。僕の口の中は長年の不摂生のせいでなかなかボロボロで、これまで歯医者には200回は通っただろうというほどのベテランだ。
医者として病院に勤めていると便利なもので、「歯科」部門の外来に電話をしておくと、先生の手が空いたタイミングで呼んでもらえ、治療をしてもらえる。ま、どちらかというと「職員なんだから予約じゃなくて空き時間を埋めてもらっていいですか」というニュアンスでもあるのだが、まあ便利は便利である。お代はもちろん給料天引き、ディスカウント無しだ。
「中山先生、〇〇先生いま空いていますので来れますか?」
電話が来てすぐ仕事を中断。その日は手術もなく書類仕事が多かったので可能だった。急ぎで歯を磨き、小走りで歯科外来へ。
到着し、たくさんの患者さんが待合で座っているところを横切り受付のお姉さんに声をかける。
「あの、外科の中山と申します」
はい、それで?という顔をされるので、小声で「今日は自分の、私の歯の診察でさっき呼ばれまして」と告げる。
「ちょっとかけてお待ち下さい」
お姉さんはまるで自動音声のようにごく自然にそう言い、おそらくドクターに確認に行くのだろう、受付の席を立った。
そこで、だ。
僕は、20人以上の患者さんが座って待っている広いスペースで、白衣を着た状態で、「かけて」待たなければならない。
いやちょっと待てよ、これで僕が長椅子に座るのはどう考えても変だ。患者さんにまぎれて一人だけ医者が座っているとか、おかしい。おかしすぎる。
とはいえ「ちょっとかけてお待ち下さい」と言われたからには、これはつまり「まだ診察室のほうに入らないで待っててください」という意味でもある。入るわけにはいかない。
つまり、誰がどう見てもスタッフの服装の僕は、非スタッフの側で待たねばならないのだ。
あなたは、コンビニ店員が制服でイートインコーナーでカップラーメンを食べているのを見たことがあるだろうか。警備員の服を着て、ライブ会場の客席に座っている人を見たことがあるだろうか。
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