<旅行記>コンスタンツァとママイア,急行列車の旅
黒海を見てみたい,そしてルーマニアの列車に乗ってみたい,ということで,ブカレストから急行列車に乗って,コンスタンツァに向かった。
ノルド駅風景
ブカレストの列車は全てノルド(ルーマニア語で「北」)駅から始まる。朝家を出て,9:30分頃発のコンスタンツァ行きに乗った。ただし,ノルド始発ではなく,北西のブラショフから来た列車に乗って出発した。様々な機関車や客車があり,電車タイプは少ないが,それでも鉄道ファンには楽しいものがある。
機関車の風景
ヨーロッパの東端とは言え,それなりに重みのある駅で,ざっと見たところ10番線くらいまでホームが続いていた。日本と違って改札はなく,またホームも低く,列車に乗る際には小さい人だとちょっと大変だと思う。指定席は一等車のみだったので(往復160レイ=約4,000円),空いている一等車に乗ったが,自由席の二等車は夏休みの家族連れで満員だった。昔の日本のお盆時期を思い出す。
頑丈そうな電気機関車に牽引されて,列車は一路東に向かう。ルーマニアのひまわりやトウモロコシを植えた広大な平野をひたすら過ぎていく。コンスタンツァが近づいてきた頃,二つに分かれたドナウの支流にある鉄橋を渡り,2時間強でコンスタンツァに着いた。列車から降りた風景は,街灯がぽつんとあるだけの,想像していたとはいえ,いかにも共産主義時代に作られた殺風景な暖かみのまるでない駅舎だった。
コンスタンツァ駅の風景
旅行前に知人から依頼していた運転手が迎えに来ていた。にこやかに出迎えてもらい,チェコ製のスコダに乗って,一路ママイアビーチのホテルに向かう。市内に宿泊しないのは,さすがに夏休みなので,「シュノーケリングがしたい」という奥様のリクエストに応えて,コンスタンツァの北にあるママイアビーチのホテルに泊まることにしたのだった。
ママイアビーチは,コンスタンツァから来たに車で20分ほど行ったところにある,黒海に突き出た細長い南北の砂浜で,西側は湖,東側が黒海になっている。奥様は,シュノーケリング希望だったが,ホテルのフロントに聞くと,以前いたコタキナバルやアカバのような熱帯の海と違って,シュノーケリングに適した場所はなく,魚も見えないようだ。なんといっても古代から黒海と呼ばれたくらいだから,透明度は低い。
運転手には,チェックインする時間を待ってもらって,ランチを食べにコンスタンツァ方面へ戻る。運転手がいろいろと観光場所を教えてくれながら,目指す埠頭沿いのレストランに行った。日差しは強いが,心地よい海風があって涼しい。レストランも行楽客で賑わっている。
埠頭のレストラン
その後,スマホを参考に,ローマ考古学博物館に向かった。外観は立派だったが,ローマやヨルダンで潤沢なローマ遺跡を見てきたので,残念ながら感動は低かった。暑いので,近くの広場沿いにあるカフェでビールを飲む。日陰にいるだけで,涼しい。
午後のビール,湿度が低いので,日陰だけで快適だ。
考古学博物館にある著名な像。顔は羊だろうだが,私にはライオンに見えた。そして,赤坂の豊川稲荷にある白蛇の像を思い出した。ローマ帝国時代は,トミスという名前の,コロッセウム(剣闘士のアリーナ)もない,小さな街だったようだ。
羊頭蛇身の像
ナショナルジオグラフィックの地図から
ここから,来た道を戻り水族館に行った。向かう途中に結婚式に遭遇した。結婚式はどこでも花嫁(とその友人)が主役だ。夏休みなので,大勢の家族連れが来ていた。
結婚式の風景
水族館も日本,マイアミ,キーウェスト,シンガポールなどで立派なものを見ているので,比較してしまうと,あっけない印象になってしまうが,それでも熱帯魚は綺麗だ。個人的には,水族館近くの荒々しい海岸が面白かった。
熱帯魚の水槽
夕方になったので,ディナーを食べに,旧市街の入り口にあるニコ(ス)というギリシアレストランに向かう。道の両側に楽しそうなレストランが並んでいるの見ながら歩いていたら,ローマ建国のロムルスとレムルス(最近の表現では,ロームルスとレムス)の像に出会った。やはりルーマニアはローマ人の国なのだろう。
ロムルスとレムルス(ロームルスとレムス)の像
そのレストランの近くの席に,父,長男(中学生),次男(小学高学年)という客が後から来て座った。次男が,日本のアニメキャラクターの絵に漢字で「希望と信頼」を書かれたTシャツを着ているので,奥様と「面白いね」と話していたら,突然長男(長髪をなびかせて,いかにもチャラそうな印象だった)が私たちの席に着て,「ルーマニアに来てくれて,ありがとうございます」とたどたどしい日本語で話してきた。たぶん,アニメなどで日本語を覚え,使ってみたかったのだと思う。我々老夫婦は,まるで孫から言われたような感じになって,「ありがとう」と返した。
そして,彼らが先に席を離れたので,たまたま奥様が持っていた日本の100円ショップで売っている扇子を記念にあげたら,とても喜んでくれた。そして,席を去った後にすぐに戻ってきて(ここは英語で)「父が写真を撮りたいそうです」というので,3人並んで写真を撮ってもらった。何か有名人にでもなったような気分だったが,どうやらコンスタンツァに来るような日本人はあまりいないらしい(実際,「地球の歩き方」の情報も少ないし,日本人で住んでいるのは一桁止まりだ)。
ニコスの料理,けっこう美味かった。
ホテルに帰る。ビーチに近い外は夜中までダンス音楽が鳴っている。我々老夫婦は,旅行疲れで早々に寝る。そのうち睡魔が外の騒音に勝って寝落ちする。「東京物語」で,熱海を旅した笠智衆と東山千栄子みたいだと思った。
コンスタンツァの2日目。ホテルで朝食を食べてから,目の前にビーチに行く。既にけっこう人が出ていて,空いているデッキチェアに座ろうとしたら,海の家のにーちゃんがきて,一人35レイ(約900円)でデッキチェアとマットというので,2人分支払った。そして,日焼けする気はないので,パラソルを開いてもらった。
ビーチの風景
黒海の風景
ここで,4時間近くぼーっとして,ときどき海に足だけ浸かり,後は周囲の海水浴客の姿を眺めながら,世間話をして過ごした。退屈な時間だが,人生で大事な時間だと思う。
ランチになったので,ホテルでシャワーを浴びてから,近くのBBQが売りの店に行った。炭火のチキンが美味かった。
店の炭火焼き
そして,ちっぽけなものだが,ケーブルカーに乗ってみた。一人20レイ=約500円だから,結構高い。でも,ママイアの街を上空から見られるのは,なかなか楽しかった。
ケーブルカーからの眺め
ケーブルカー
しばし夜は騒々しくなるであろう,カジノがある通りを散策し,レモンミントティーを飲んでからホテルに戻った。そして夕飯は,コンスタンツァにある「東京力屋(とうきょうりきや)」という和食の店に行った。
東京力屋店内
日本人の板前さんがいるので挨拶したら,日本人客は滅多に来ないと喜んでくれた。キリンビールを飲み,みそラーメン,牛肉たたき,巻き寿司,にぎり寿司を食べた。肉料理が続いたので,胃腸がほっとしている。
ホテルに戻った。ビーチではダンス音楽が昨晩よりかなりうるさい。サマータイムで日没は20時過ぎだが,店の灯りも煌々としている。たぶん朝まで騒ぐのだろう。
ビーチ夜景
二泊三日の旅も終わりだ。駅から来た道を戻る。コンスタンツァの駅前広場に昔の漁船がカラフルに色付けされて展示してあるのが,面白かった。
駅前広場の漁船
帰りは,往きに撮れなかったドナウ河(といっても,ここは二つの下流に別れて河幅は狭くなり,さらに黒海に流れるところは無数の支流に別れたデルタ地帯となっている)の鉄橋を撮影した。列車からだから,上手く撮れなかったが,ここにもローマ帝国時代を意識して作っているのが興味深い。
ドナウ河鉄橋
夕方には,ブカレストに着いた。急行とは言っても,帰りは停車駅が多かったので,30分余計にかかった。そうそう,途中の小さな通過駅で,女性駅員が列車の通過を見送る姿が新鮮だった。こういう一見なんということもない風景に感動できるのが,旅の面白さだろうか。
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