<ラグビー漫画評>「ALL OUT!!」
<ラグビー>でもあり、<書評>でもあるけど、最適なのは<ラグビー漫画評>ということで、この標題になりました。
たしか、2011年頃だったと思う。ラグビー人気が沈静している中で、どうやったら人気を得られるかという議論が、ラグビーマガジンやネット上で活発になったことがあった。
その時の、誰もが考えたアイディアとして、サッカーの「キャプテン翼」、野球の「巨人の星」、「どかべん」、「あぶさん」、バスケットの「スラムダンク」、バレーボールの「アタックNO.1」、テニスの「エースを狙え!」のような、優れたラグビー漫画が出て欲しいというのものがあった。
その後、いくつかの優れたラグビー漫画は出てきたが、「これは!」と言えるものがなかった。そういう中で、「ALL OUT!!」が出てきたときは、非常に大きな期待があった。
その期待の背景には、恐らく早稲田OBと思われるブレーンがいて、早稲田ラグビー(つまり大西鐵之祐)理論をお手本にした、登場人物たちのセリフや、ラグビーに対する優れた説明が描かれていたことがあった。
実際、主人公がプレーする高校の監督となる老人は、今も日本中でラグビー行脚をしてくれている、元日本代表キャプテンで早稲田OBの横井章氏をモデルにしたと、皆が確信していた。
その期待に良く答えていたと思う。少なくとも途中までは。そして、10巻を過ぎたあたりから、ちょっとラグビーが中心の軸から逸れていって、なんだかよくある高校青春ドラマの要素が強くなっていた。それで、正直、私の興味は半減してしまった。
さらに、2019年秋の日本で開催されたRWCでラグビー人気が盛り上がったことで、まるで目的を遂げてしまったかのように、主人公のプレーする高校の試合は、全国大会予選の準々決勝で勝利するところで、突然終わってしまう。その後の展開は、まるで漫画ではなく、文字で結果のみを知るような味気ないものとなる。さらに、花園という大舞台が描かれずに終わっている。野球で言えば、甲子園を描かずに終わってしまったのだ。
つまりは、尻すぼみ感が半端ないのだ。もっと言えば、大衆娯楽としての大団円としてのカタルシスはないし、ギリシア悲劇から連綿と続く、物語の基本であるオチもない。
作者の説明によれば、主人公の成長物語に決着がついたことから、終わることにしたようだか、それにしても、最終話とその直前の話とのつながりが、全く感じられないのはなぜか?
敢えて邪推すれば、何か事情で急に話を終わらせる必要が出てしまい、無理矢理に最終話をとりあえず作ったということだ。これは、大昔フジTVで「男はつらいよ」を終わらせる必要があったため、無理矢理主人公の寅さんを沖縄で死なせてしまったのに似ている。
だから、最初の期待とは裏腹に、この作品はラグビー漫画の代表作になり損なってしまった。そして、「スクール☆ウォーズ」以来となる、優れたラグビーのTVドラマ「ノーサイド・ゲーム」が出てきたのは、偶然かも知れないが、私が「ALL OUT!!」の作者なら、「ノーサイド・ゲーム」の出来栄えと反響を見て、作品を描く意力を失ってしまったことだろう。
創作の世界は、とても繊細で複雑だと、改めて思う次第。
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