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<芸術一般>赤い鳥(ハイファイセット)とシンガーズアンリミテッド、そして現代詩と山頭火

 クラッシック好きの私としては、かなり珍しくポピュラー音楽について書く。今はこういう美しい曲が少なくなってしまい、「踊れれば良い」という理屈で、騒音に近い情緒も詩もない音楽が幅を利かせる時代が続いている。

1.赤い鳥

「忘れていた朝」

 山本潤子の声は、日本のボニー・ハーマン(シンガーズアンリミテッド)です。

「紙風船」

 黒田三郎の元の現代詩(以下4.参照)が、もともと好きだった。

2.ハイファイセット

「フィーリング」

 シンガーズアンリミテッドを意識したのだろうけど、和製コピーになっている。

3.シンガーズアンリミテッド

「we’ve only just began」

 カーペンターズが歌うより、こっちのほうがより美しい。

「I left my heart in San Francisco」

 ボニー・ハーマンが、声とともに美しい。そして、実に楽しそうに歌っている。

「波」

 歌詞ではなく、音の一部になっている歌声。これが究極のシンガーズアンリミテッドなのだろう。

4.現代詩(『日本抒情詩集―現代―』から)について

 赤い鳥の「紙風船」は、詩人黒田三郎の詩「紙風船」に曲をつけたものだ。『日本抒情詩集―現代―』小川和佑編 潮文庫 1974年)から、引用させていただく。

日本抒情詩集-現代

「紙風船」黒田三郎

落ちて来たら
今度は
もっと高く
もっともっと高く

何度でも
打ち上げよう

美しい
願いごとのように

 小川和佑先生のゼミを、大学3年及び4年のときに受講した。しかし、私の卒論のテーマは詩ではなく、サミュエル・ベケットの戯曲だったが、それでも、それまであまり親しみのなかった現代詩の世界を教えてもらい、良い経験をさせていただいた。

 それで、『日本抒情詩集―現代―』の中から、詩全文だと長くなるので、「紙風船」以外の特に好きな作品の一部分(詩句)を抜き書きしてみた。

「朝 電話が鳴る」安西均から。

電気剃刀で顔を撫でながら同じことをいう
「アパートでひとりぐっすり寝たさ」
「きみのこさえたハム・エグスが食べたい」

「日曜日」川崎洋から。

朝起きたら
壁から猟銃をとって
食卓の上の珈琲を射ち
それからゆっくりとあくびをする

 (以下、私の解釈だが、細部で間違っているところもあると思うので、その辺りは乞御免)日本の詩歌は、もともと短歌(和歌)があり、その後俳句が生じた。その後、言(口)文一致体として、日常会話の言葉を詩歌に反映させるようになる。さらに、フランスの象徴主義の影響やシュールレアリスムの影響を受けた後、戦後にはマチネポエティックという、日本語の詩にフランス語詩のような音韻を加えようとする運動も起きる。

 つまり、明治以降の日本全体の文化や制度等と同様に、詩歌の世界も昔から続くものに反発・否定して、ヨーロッパ文化の影響を大きく受けた新しいものに変わろうとした。そうした試行錯誤は大半が失敗しながらも、現代までに多くの佳作を残している(シュールレアリスムの詩は、瀧口修造自身が身をもって(「詩的実験」他)、その不可能性を示したが)。その成果が、今私たちが鑑賞する現代詩につながっていると思うが、一方現代詩というのは、正直今の日本では(経済的のみならず、大衆化という面で)ポピュラーなものではない。少なくとも、詩人としてそれだけで生活できている人は、(歌謡曲の歌詞を作る)ポピュラー音楽関係者だけだろう。

 以上、日本の現代詩についてのかなり大雑把な現状を書いたつもりだが、こうした現代詩不遇の一方で、俳句もまた自由律俳句として、新鮮な別世界を築いたが、やはり同じ不遇の中にいる。その代表が種田山頭火だと思うのだが、山頭火自身は、(もとより経済面での句作は想定していないことから)作品を売って生活するのではなく、乞食坊主としての放浪の旅とわずかな支援者に頼る寄宿生活の中で句作を重ねた。また、一部の熱烈な崇拝者(私もその一人だ)はいるものの、山頭火の俳句を多くの日本人が愛好し、大ベストセラーになったことはないし、これからもそうだろう(実際に、日本人がみな山頭火みたいになったら、社会は崩壊するだろう)。

 私は、私だけの感覚・感触・直感だけで言うのだが、その山頭火の作品こそ、実は現代詩の究極の姿ではないかと思う。そして、その自由律俳句が描き出す世界は、例えばシンガーズアンリミテッドのアカペラの世界につながるのではないかと、ふと考えた次第。

山あれば山を観る
雨の日は雨を聴く
春夏秋冬
あしたもよろしく
ゆうべもうよろしく
「山行水行」から

ふりかへらない道がまっすぐな石ころ
         「其中庵便り」から

雨だれの音も年とった
         「鉢の子」から


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