見出し画像

<書評>『プロメテウス ギリシア人の解した人間存在』

『プロメテウス ギリシア人の解した人間存在』 カール・ケレーニイ著 辻村誠三訳 叢書ウニベルタス 法政大学出版局 1972年

プロメテウス

 20世紀最大の神話学者カール・ケレーニイが、ギリシア神話の中でも、特殊な神であるプロメテウスについて研究した初期の頃のもの。

 プロメテウスは、人類に火を与えたことでゼウスから永劫の罰を受けた反逆者である。その観点からは、神よりも人に近い存在だが、永劫の罰を受けても決して死なないのは、神であるからで、そこのところは変わりようがない。

 プロメテウスもデュオニューソスも、神話上では、それぞれ身体をばらばらにされてしまうが、その後身体が再び元通りになる。もっと遡れば、この身体をばらばらにされるエピソードは、エジプト神話のオシリスにその起源を求められる。またプロメテウスは、ゼウスに逆らったため、大岩に縛られた上に、永遠に大鷲に肝臓を食べられる(そしてすぐに肝臓は修復する)という不思議な刑罰を科される。

 このエピソードから理解できるのは、いずれも不死身というだけでなく、身体が各パーツに分かれていて、分解と接合が可能ということだ。こうした身体構造を持つのは、人のような生身の肉体ではなく、人工的に作られた金属などを材料とするロボットとしか考えられない。そして、プロメテウスがロボットであるならば、彼を創造し、地上に送り込んだティターン神族は、いわゆる宇宙人ということになる。つまり、古代人は、ロボットであるプロメテウスに、火を使うことを教わった一方、そのプロメテウスがメンテナンスのために、分解・修復する様を見ていたのだと思う。それが、この(エジプト)ギリシア神話に表象されているのだ。

 一方、プロメテウスとヘルメースは似た神格であり、ともに宇宙(天界)と地上(人間界)との間を行きかうメッセンジャーであるという。メッセンジャーとは、いわゆるエンジェルの語源であり、エンジェルも「御使い」・「天使」と表現されているように、天界と人間界と行き来することがその役割だった。

 そして、このメッセンジャーという役割を勘案してみると、それは普通の生命体である必要性は低いことに気づく。たんにメッセージを伝えるだけなら、自ら思考したり行動したりという存在は不要だからだ。ここで再び、ヘルメース、プロメテウス、デュオニューソス、そしてエンジェルは、皆自ら思考することをしない、あるいは予めインプットされた行動だけをするロボットであったという結論に至る。もちろん、ここでいうところの天界は、宇宙人の棲む世界である。

 以上、私のプロメテウス=宇宙人の派遣したロボット説を開陳したが、書評らしく、本書のなかで、私の感性に触れた箇所が三つあったので、それを紹介したい。また、どういうことで感性に触れたのかも説明したい。ページ数とともに該当箇所を抜き書きする。

P.102―103

 かくして、ティターンたちのうち暗い月的存在者たるプロメテウスは、あまりにも男性的で単純な弟エピメテウスとともに――清澄な天上の神々に対してふたりとも男性にすぎないが、しかし人類の代表者でもある――カベイロスたちのひとりとして、ギリシア神話大系のなかでまさに彼らの在るべき場を見出すわけである。

注:カベイロスとは、ギリシア神話の中では、オリュンポス神族より古く、ティターン神族とも異なる、原始的な神族であり、また人類が誕生してくる源泉ともいうべき存在。

私の感性から:
 ギリシア神話における、オリュンポス、ティターン、カベイロスなどは、皆古代に来訪した宇宙人の別々の集団ではなかったかと私は見ている。そうした中で、プロメテウスは、ティターンに所属しながら、オリュンポス神族との抗争では、オリュンポスのリーダーであるゼウスに協力する一方、大切な火を盗んで人類に与える。その行為から、「最初の人類」ともみなされる存在である。

 そのプロメテウスが、弟とともに月に向かうということは、どういうことかと言えば、月がその極めて不自然かつ規則的な動きや、地球に対して裏側を絶対に見せない人工的としか考えられない構造から、宇宙人が作ったものだと思うが、その月に今もプロメテウスとエピメテウスがいるとすれば、彼らの役割は、月から地球の人類を監視することではないかと思う。実際、プロメテウスとは「先に話すもの=預言者」であり、エピメテウスとは「後から言う者=記録者」なのだから。

P.135-136

 すなわちプロメテウスは太陽まで出かけて行って、太陽の車によって松明に火を付けた、というのである。レムノス島には言うまでもなく一種の火山がある。それは島の北側、ヘーパイストスの領分にある天然ガスが燃える火山モシュクロス山である。ヘーパイストスはこの地に彼の神域と彼の都市ヘーパイスティアを持っていた。ここでプロメテウスは――と人々は考えざるを得なかったわけであるが――火をヘーパイストスの仕事場からちょっと失敬したに過ぎないのだ、という可能性もあったのであって、事実こうした説が立てられていたのである。

注:ヘーパイストスは、ゼウスの息子で火と鍛治の神。また、プロメテウスに対するゼウスの罰を伝える役割をするが、同時にどこか同情する部分も持ちあわせている。

私の感性から:
 プロメテウスの盗んだ火は、地上にあるものではなく、太陽における核反応の火であったと思う。そして、「太陽の車」とは、もちろんプロメテウスが乗り込んだ宇宙船であり、その火(核反応)を、(大きな)「松明」と見えたロケットの推進力にしたのだろう。

 だからこそ、プロメテウスが盗んだ火は、核反応によるものであるためにゼウスの怒りを買った。例えば生活のためだけの火であれば、ゼウスはプロメテウスに怒る必要はなかったし、むしろ人類の進化を促す意味で有効であったはずだ。ところが、これが単なる「火」ではなく「核反応」であれば、やがては現在の核爆弾製造につながる元凶となり、それは人類のみならず宇宙的規模で危険なものであったのだ。

 そして、そのゼウスの心配は、今や現実のものになっている。既に開放されている(月にいる)プロメテウスとその協力者たちが、「太陽の車」であるところのUFOに乗って、核爆弾の実験場所や原子力発電所の周辺を視察しているのは、当然のことだろう。

P.175-177

 (プロメテウスとイーオー⦅注:ゼウスに目を付けられた一方、ゼウスの妻ヘラからの嫉妬を逃れるために、ゼウスに牝牛にさせられた美女⦆とのギリシア悲劇中の会話で、「ゼウスが、自分の子によって王位を追われる」ときに、プロメテウスに対する罰も終わることを予言した後、「自分の息子」とはヘラクレスのことを指していると解説した後に)、ゼウスには創建作業の締めくくりに、なおある一つの結婚の儀が予期されているのであるが、この婚姻が行われるならば、創建されたものが瓦解してしまう。ここに突如未曾有の可能性がひらめく。それは囲繞者が人間に押し付ける耐え難さからの救済という可能性であり、成育するものを自己の内に含んでいるゼウス秩序の克服ということである。

注:ヘラクレスは、英語名ハーキュリーとしてアニメなどでも著名な人物だが、彼はゼウスとギリシアのミュケナイ王家の王妃アルクメーネーとの間に生まれた、半人半神=英雄(ヒーロー)であり、次々と怪物を倒したエピソードなどの十二功業(功績)が語り継がれている。また、壺絵や彫刻では、倒したライオンの頭と毛皮を身に着けた裸体で表現される場合が多い。

私の感性から:
 ゼウスが宇宙人の代表として、現在の世界を構築し支配した(引用文中の「創建作業」)のであれば、その支配が永遠でないことは自明だ。そして、火=核反応を盗んだプロメテウスに対するゼウスの罰則が終わる時期と、ゼウスの支配が人との混血である英雄ヘラクレスによって終わる時が重なるという予言は、別の宇宙人が地球を支配するのではなく、宇宙人と人類との混血者が、新たに地球を支配するように読み取れる。

 そしてその支配者とは、火=核反応を独占する者であることが前提になる。現在の核反応技術は世界各国に分散しているが、やがてこの中から、核反応技術を独占する国が出てくるのか。あるいは、核反応技術の支配者が出てくるのだろうか、まるでプロメテウスやヘラクレスのように。

 そしてまた、「ヘラクレス」に比する新たな王は、いったい誰なのか。どのような人間像なのか。それはわからない。しかし、それらを究明するための最高の資料となるであろう、アイスキュロスによって作られたギリシア悲劇三部作、『火を運ぶプロメテウス』、「縛られたプロメテウス」、『縛を解かれるプロメテウス』の内、最初と最後の悲劇の内容は、その断片しか現在まで残されていない。そして、唯一残されている『縛られたプロメテウス』からは、未来のことまで読み取れない内容になっている。

 ギリシア悲劇研究の俊英でもあった(『悲劇の誕生』ほか)哲学者フリードリッヒ・ニーチェは、人類の次にくる者を「超人(スーパーマンあるいはオーバーマン)」と称したが、この言葉はそのままヘラクレスに当てはまるだろう。しかし、その「超人」が誰なのかは、ニーチェも解き明かせなかった。そして、「超人とは誰か、超人とは何か」を探し求め続けたニーチェは、問題の困難さ故かその後狂死した。しかし、「超人」をスーパーマンという偶像に翻訳した20世紀後半の世界では、ヘラクレスという概念や言葉は消え去り、スーパーマンという宇宙からの訪問者が強く印象付けられている。果たして、これがプロメテウスの預言した「神意」または「摂理」なのだろうか。つまり、「ヘラクレス」は地上にはいない。その時がやってきたら、宇宙の彼方から地球を訪問するということなのか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?