今回のプログラムについて⑤

「メシアンとの出会い」

大学入学前の僕は、作品、作曲家、演奏家についての知識が本当に少なかったので、大学生活の中で初めて知ることだらけでした。
様々な学科の授業、実技のレッスン、公開の実技試験、先生や友人との会話、図書館やオーディオ室の資料などなど、あらゆる事から知識をつけていきました。

メシアンももちろん大学に入学してから知ったのですが、初めてまともに聴いたのはおそらく、試験で誰かが弾いていた「喜びの聖霊のまなざし」です。
弾き映えするし、評価があまり分かれないからなのか、割と毎年1人は実技試験で弾いていたように記憶しています。
当時の僕としては、特に魅力を感じていなかったし、正直どこが良いのか分かりませんでした。
ただ一応、すごく大雑把にメシアンについて調べて、どんな人物なのかということは何となく知りました。

その後しばらくは大きなきっかけがなかったのですが、自然とメシアンについての知識は増えていきました。
これはメシアンに限ったことではなく、全般的に勉強していく中で、他の作曲家と同じように知識が蓄えられていったのです。
大学時代は、有名無名にこだわらず、良いと思える作品を探していろいろ調べたり聴いたりしていたので。
そう考えると、音大に行って一番活用すべきは、楽譜やオーディオ資料かもしれませんね。
こんなに音楽の知識が集結していて、簡単に手に取れる環境は、他にはありません。
なんという贅沢!

さて、メシアンに惹かれる大きなきっかけとなる出来事が大学院時代にありました。
ある授業で、指定された作品の解説をして演奏するという課題が出されて、その中にメシアンの「音価と強度のモード」がありました。
1人1作品選び、1人ずつ発表をしていくのですが、指定の作品の中で「音価と強度のモード」しか興味をひかれなかったのです。
解説するとなると、それ相応の内容がある作品が良いなと思っていたのですが、他の作品があまりにも軽い曲ばかりで、この課題には物足りないと思いました。
他の友人はみなメシアンを選ばなかったので、最終的に僕1人だけがメシアンの発表をしました。
というか、解説だけでなく演奏しなければならないので、演奏が難しいメシアンは敬遠されたのでしょうね…

そして、この課題をこなすために、メシアンについて本当にいろいろ調べました。
たった4〜5分の曲の解説文を作るために、メシアンの作曲法に関するあらゆる情報を集めていきました。
1つの作品についてだけ調べても分からないですから、メシアンのこと、同時代の他の作曲家のこと、当時の歴史、当時の作曲法に至るまでの経緯などなど、関係ありそうな周辺情報も手当たり次第目を通しました。
結局、「音価と強度のモード」がメシアンの作品の中でイレギュラーな作品だということが分かったので、なぜこの曲を作るに至ったのかということを含めて、楽曲の分析をした上で発表しました。
もちろん、演奏の準備も並行して進めて、何とか形になったかなという手ごたえでした。
今思えば、初めて弾くメシアンが「音価と強度のモード」というのは、かなり尖ってます…

このようにメシアンについて調べていく中で、メシアンの凄さに気付いてしまったのです。
音楽史上でも、たくさんある前衛的な作曲法の一つの方向性を示したという点で、必ず触れる作曲家だと思います。
何より、メシアン自身が自分の作曲法についての本を遺しているというのが、非常にありがたいです。
独自の理論や音構造のもとで曲を作っていながら、美しい音楽として享受できる作品が多いのは、メシアンの特徴です。

ただ、演奏する側としては、「気軽に取りかかれない」というのが正直なところで、「そもそも演奏できるのか?」という不安が僕にはありました。
しかし、実際に音を出していくうちに、求められる響きが分かってきて、いつの間にか耳がその響きを求めるようになります。
なので、個人的な意見ですが、メシアンは特に耳を使って弾いています。

とはいえ、今回初めてメシアンをステージで演奏するので、自分の解釈や演奏がどう受け入れられるのか、とても気になるところではあります。
会場では細かいことを気にせずに、メシアンが描いた音の響きにどっぷり浸かってもらえたら幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?