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「初めての人生の歩き方――毎晩彼女にラブレターを」(有原ときみとぼくの日記) 第240話:教室から見える空の下で。

「家は生活の宝石箱でなくてはならない」ル・コルビュジエ


 一人暮らしのときと同じように家の中をゆっくりと掃除する。
 まずは洗濯物を干してそのまま座布団などもベランダに。午後から雨という予報なのに太陽は今日も元気だ。トイレ掃除と全室の床を磨いて玄関、玄関のドア、エレベーターに乗り一階へ郵便受けの中を拭いてから最後に玄関前をホウキで履く。

 掃除とはきれいになったかどうかではなく、心がさっぱりしたかどうかだと私は思う。

 お昼過ぎに彼女と娘がスイミングから帰ってきた。そのまま三人でベランダで昼食をとることに。彼女の買ってきたおにぎりと唐揚げととり天と、私が用意した野菜とコンソメスープを持って。

 洗濯物が揺れている。空が青い。雲は白い。風が心地よく、三人の会話は自然と弾む。

「以前は外でご飯を食べようと思ったらまずぼくのところまで電車で来てもらってからみんなで公園にでも行かないとできなかったのに、今では自宅でできる。これを幸せと呼ばずになんと呼べばいいんだろう」

「……幸せ」

昼食が終わりそのままコーヒータイム。買ってきてくれたコーヒーを飲みながら、私たちは引き続きベランダでくつろいだ。彼女は今日あったことを話してくれて、娘はあつ森を楽しそうにプレイしている。
 近くにツバメが飛んだ。みんなの視線が空に向く。ここは雲が近い。空が近い。三人の距離も近い。

 だから私はハンモックを買ったのだ。

 揺れる。体が揺れるとまるで浮かんでいるような気分になる。私が揺れる。娘が揺れる。彼女が揺れる。みんばが揺れる。揺れ続ける。ふと私は思い出した。それはなんだかずっとこの状況を予感したいたような気がしていたのだ。
 いつだったか、おそらく高校生ぐらいのときだろうか。教室の一番後ろの一番窓側の席からずっと空を眺めていたあの頃が懐かしい。

 私は大人になんてなりたくなかった。

 それでも人は大人になる。なにもしていなくても、なにかを成し遂げたとしても、人は必ず大人になる。
 私は前者だ。いわゆるモラトリアムだった。なにもやる気が起きず、それでいて大人にはなりたくなかった。

 大人になれば終わると思っていた。

 今思えば終わるものなんてなにもなかったのだ。
 始まってもいないような人生に私は自己陶酔していたのだ。

「ねえ、なに考えてるの?」

「きみのことだよ」

 教室から見えた空はきれいだった。
 あの頃は毎日外に飛び出したくて仕方なった。
 家の中になんて死んでもいたくなかった。
 それを拙い言葉で自由と叫んでいたのだ。

 今日、私は一歩も外に出なかった。
 それでも心の中では家族でハイキングにでも言ったかのような満足感と達成感で満ち満ちている。
 もう私は自由なのだ。もう私は外に出る必要がなくなったのだ。

 大人ほど面白いものはない。

 なんでもできる。
 どこにでも行ける。
 誰とでも暮らせる。

 青春を自由の象徴だとしたら、きっと大人も自由の象徴になり得るはずだ。

 私は自由だ。
 今すぐこの空へと飛び出せそうなそんな気さえする。

「ねえ、好きだよ」

「幸せだね」

こんなにも素晴らしい日々が訪れるなんて、

高校生のぼくに教えてあげたいよ。

きみに会えて、

かわいい娘に出会えて、

居心地のいい家に住めて。

今日は小さないわし雲が出ていたね。

明日はどんな空が広がるんだろうか。

もう今までのように、

「またね」

と言わなくていいのが

少し寂しいけどすごくうれしくて。

今日もありがとう。

愛してるよ。

初めての人生で見続けてきた空。

見る度に、

見るときの心境に合わせて空の色は移ろいゆく。

空が好きだ。

それはずっと変わらない。

青春はずっと変わらない。

大人になっても、

老人になっても。 

今日もありがとう。

今年も、残り111日。

またね。

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