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「初めての人生の歩き方――毎晩彼女にラブレターを」(有原ときみとぼくの日記) 第228話:ぼくはこの部屋で愛を知ったんだ。

「結婚するときはこう自問せよ。『年をとってもこの相手と会話ができるだろうか』そのほかは年月がたてばいずれ変化することだ」ニーチェ


 なにもない部屋で雷の音を聞いている。
 朝一から引っ越しが始まって、お昼前には新しい住居に荷物が届いて、それから荷解きをしつつ、彼女とランチに出かけてその足で今後の必需品を買いに行った。

 そして今、ぼくは一人で住んでいた部屋の鍵を返すために、またここに戻ってきた。

 鍵をさした瞬間、まだ「ただいま」と心の中で思ってしまった。扉を開けるともう何もなかった。目の前にあった冷蔵庫も洗濯機も買いそろえたサプリも本棚も大きなスピーカーも。
 部屋にはなにもなく、ただ自分の足音と声だけがいやに響く。

「そうか、荷物がないと音が反響するのか」

 冷蔵庫と洗濯機のあった場所の掃除をしてから、丁寧に床を掃除していく。思えばここに来た当初は、元カノに洗脳された状態で半ば夜逃げのように越してきたのだった。
 それから鬱が悪化して、会社も辞めて、今の彼女と出会ったのはいいものの傷つけて、泣いて、怒りで自分を傷つけて、それでもなんとか生きようと前を見つめて。

 床の傷。壁のシミ。穴。お風呂のこすっても落ちない汚れ。ベランダから見える狭い空に、隣の洗濯物。車の騒音に古いクーラーの生ぬるい風。ぼくの思い出はここにあり、そしてぼくの命は確かにここにあった。

 そしてぼくはもう二度とここには帰ってこない。

 感謝しかないとき、人は自然と涙が出るっていうことをこの部屋で知ったんだ。この部屋で生きる楽しみを見出して、この部屋でたくさん涙を流して、この部屋で数えきれないほどの夢を見て。

 そしてこの部屋で愛を知った。


 もう行くよ。
 今まで本当にありがとう。
 感謝してもしきれないけど、もう行かなくちゃ。
 世話になったのに、たくさん傷つけてごめんね。

 今度の住民もきっときみを大切にしてくれる。
 大丈夫。
 この部屋は最高だ。
 宇宙より大きくて、母親より優しくて、父よりも力強い。

 たくさんぼくを守ってくれたね。
 またいつかこのアパートの前を通るときは、きっと見上げるよ。
 ぼくはきみに、最高の未来を見せたいんだ。

 長い間、本当にありがとう。
 ばいばい。

きみとたくさん語り明かしたこの部屋ともとうとうさよならだ。

そしてこらからはきみと同じ家になる。

夢のようだけど、現実なんだ。

また今度一緒にアパートの前を通ったとき、どんな思い出話が飛び出すのか、いまからすでに楽しみだよ。

ありがとう。

きみに出会えて幸せだよ。

明日からよろしくね。

愛してるよ。

またね。

初めての人生だ。

感謝して前に進もう。

大丈夫。

どんなに辛いことがあっても、

どんなに苦しいことがあっても、

人は生きていたら絶対になんとかなる。

またには休んだっていいし、

寝ころんでもいい。

大丈夫。

きみの人生はきみのペースで歩けばそれでいいんだ。

生きよう。

人生は夢よりも夢のように素晴らしいから。

今日もありがとう。

今年も、残り122日。

またね。

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