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虹色百貨店の空色の仲間たち-第2回
最悪の筆記試験内容だったのにもかかわらず、面接に進めることになった。一次面接も何とか通過して、ついに最終面接の日がやってきた。控室に入ると、どこかで見た顔が座っている。よく見ると、なんと同じ大学で顔見知りの大山だ!!
彼とは軽音楽部で一緒だった。バンド活動に挫折して一年で辞めた僕に対して、大山は最後まで活動して部長にまでなった。並んで面接したら彼のほうが充実した学生生活を送ったのが一目瞭然だ。
終わったな……
そう思った。なんでよりによって同じ場にいるんだろう。落ち込んでいるとドアが開き、2人が続けて入ってきた。やたらと体格がよく、いかにも体育会といった感じの奴、そして正反対に、大きな眼鏡をかけた小柄でうつむきがちな奴。どうやら僕を含めてその4人が最後に残ったメンバーらしかった。
「では準備ができましたので、一人ずつ中に入ってください」
係の女性に促され、全員で面接会場に入った。会社側は、司会進行をする人事部の係長、課長、部長、店長という4人で、4対4の面接だった。着席すると、
「まず最初にお名前と自己PRを簡単にお願いします」
と係長に言われ、一番左に座った体育会から始まった。
「コンドウヒサノリです!! 住所は……」
体同様に声もバカでかい。そして、自己PRは住所まで言うのかと思った。一次面接では言わなかったが、最終に進んだ彼が言うのだから、間違いないのだろう。
「……アズマ部屋です!!」
何⁉ アズマ部屋?? もしかして、この人相撲取り?? よく考えると、相撲部屋に所属しながら就職活動をやるわけないのだけど、もう彼のキャラクターから、相撲のイメージが頭から離れなくなった。
一通り自己PRが終わると、進行役の係長から、
「では一人ずつ趣味を言ってください」
と指示があった。今回も体育会からだ。彼は大きな上半身を少しかがめながら、それでもさっきと同じトーンで叫んだ。
「私の趣味は生け花です!!」
えっ⁉ 思わず体育会の顔を覗き込んでしまった。本来は椅子から転げ落ちたかったが、さすがにそこまではできなかった。でもいきなりすごい衝撃だ。そして、それはさらに続く。
大山の番になる。
「私の趣味は、百貨店めぐりです」
ええーっ⁉ 百貨店めぐり??? そんな趣味あるのか? それより一年間部活を共にしたけど、そんな話聞いたことないぞ!
またまた椅子から転げ落ちかけたが、
そうか。百貨店に内定もらうためには、それぐらいのことを言わなければいけないんだと思った。部長まで務めた彼のことだ。面接対策もきっと万全なのだろう。業種に見合った対策を何もしていないことを後悔した。でも今さらしょうがない。そして自分の番になる。
趣味を聞かれたら、楽器演奏と言うつもりだったが、一年だけで辞めてなに言ってるんだと大山に思われたくなくて、口ごもってしまう。なんてあいつがこの場にいるんだと再び思ったが、そんなことを考えてる場合じゃない。とっさに
「読書です。泉鏡花が好きです」
と言った。一応国文科だ。泉鏡花と言っておけば深くつっこまれることはないだろうと思った。少し前に読んだ作品について語って、なんとか終えた。そして、トリは大眼鏡だ。彼はやはりうつむいて小さな声でつぶやいた。
「中島みゆきです」
趣味が中島みゆき? これまた驚きだ。確かに彼のイメージにはぴったりなのだが、ここは就職面接の場だ。思わず吹き出しそうになる。確かに僕も中島みゆき好きだけと、さすがにここでは言えない。彼はだめだろうなと思っていたら、な、なんと、今まで表情一つ崩さず黙り込んでいた人事部長が微笑みながら口を開いた。
「中島みゆきいいよね。どの曲が好き?」
「私はやはり……時代が好きです」
「あっ、僕と同じじゃないか。いいよねぇー、あの曲は」
な、なにーっ⁉ 人事部長と大眼鏡が中島みゆきで盛り上がっている!!
それ以降の記憶はない。あまりにもみんなの受け答えが強烈すぎて、一体何が正しくて何が間違っているのか? わけがわからなくなり部屋を出たことだけは覚えている。
帰り道、「時代」のメロディが頭から離れなかった。