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恋と場所と密度

みなとみらいは初めてお付き合いした人と何度かデートで行った場所で、それ以外であまり訪れた事がないからもう5、6年は経つというのになぜだか今でも胸がきゅっとなるのに驚いた。恋と場所と密度80。ヨコハマ。


最近、森見登美彦の『ペンギンハイウェイ』を読んだ。森見登美彦を一番最初に勧めてくれたのはたしか、高校のクラスメイトだったと思う。そして初めての恋人も森見登美彦が好きだった。出会って間もない頃に【鴨川等間隔の法則】という単語で盛り上がったような記憶がある。でもどちらの記憶が先なのか、あるいは歪んでいるのか、もはや私には知る由もない。彼が森見登美彦に憧れを抱き京大を志望していたこと(あくまで数多ある動機のひとつだったろうけれど)も一緒に思い出す。そして、京大へ入ったら鴨川等間隔の法則に私たちも則られるのかやってみようなどとむじゃきに話していたことも、こうして書いているうちに思い出してきた。

結末はシンプルで、私たちは鴨川等間隔の法則の実験を行うことは出来なかった。

なぜなら彼は東京の大学に進学したから。私たちは別れなかったけれど、京都へ旅行に行くことも、他の場所へ旅行に行くこともなく、次の夏、新宿御苑で別れ話と最後のデートをした。

新宿御苑はその後も何度か足を運んだから(むろん、友達とも他の人とのデートでも)、デパ地下で買ったサラダパスタを食べながら御苑のどのベンチで別れ話をしたかなんてもう覚えていない。あ、そういえば付き合って間もない頃にピクニックデートをしに行ったのも新宿御苑だった。本当に書いているうちにどんどん記憶が掘り起こされていくみたい。不思議だ。たしか3月末にしてはとても暖かい日で、私は朝早く起きて下手くそな卵焼きを作って保冷剤を忘れたことにヒヤヒヤしていたんだ。好きな人に作る初めてのお弁当の出来は、まあ不可ではないけどC -くらいの成績で、あまり褒めてもらえなかったような気がする。ここは曖昧だな。うん。日差しはとても眩しくて、レジャーシートに寝転び、私の持ってきたブランケットをかけてお昼寝していたら暑くなって仕方がなかったな。あの春の匂いを今でもなんとなく思い出せそうな気がしてくる。でも、新宿御苑へ訪れた時に彼の顔や仕草を思い出すことはもうない。恋と場所と密度5。


特別な誰かと濃密な時間を過ごした場所は、それ以上の密度で思い出を積み重ねない限り、ずっとずっと街に記憶が色濃く残る。少なくとも私は。思い出はいつか美しく色褪せるかもしれないけれど、街は天災がない限りなかなか無くならないから。いつかヨコハマの密度が5になればいいと思う。ひとりで塗り替えていくのも悪くない。もちろん、誰かと一緒でも全然悪くない、というかそれはそれでアリ。恋と場所と密度。

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