最高の焼き鳥を求め「鳥よし」西麻布店に向かった話
※この記事はグルメ気取りの作家優衣羽によるお店レポートです。
唐突だが、焼き鳥とは何か。
焼いた鶏肉と言えばそれまでであるが、他の国では見かけない食べ物。
そう、それが焼き鳥。
海外で串焼きを見た事があるが、牛串などBBQの銀串に刺さったようなドデカい物ばかりである。それらは串ごと食すのではなく、串を外し皆で食べる事が多い。
しかし、焼き鳥は竹串に刺さった片手で食べられる気軽なサイズ感であり、串から外さなくても問題ない、不思議な食べ物。日本人はその不思議で手軽な食べ物をこよなく愛している。
美味い焼き鳥が食べたい!
思いついたのは12月始め、仕事をしている時だった。一人暮らしを始めてからというもの焼き鳥を食べる事が無くなった。自炊生活のためお惣菜などを買う機会が無くなったからだ。スーパーで焼き鳥を見かける度、視線を持っていかれてはいたものの手を出す事はなかった。
しかし、その日は違った。たまたま焼き鳥店の情報を目にし、私の焼き鳥に対するスイッチがONされた。
焼き鳥食べたい!焼き鳥食べたい!
思いついた矢先、Googleで焼き鳥店を調べまくった。どうせ食べるなら美味い店がいい。チェーン店の焼き鳥ではない、今は値段が高くても美味い物が食べたい!
そして見つけたお店に学生時代からありとあらゆるグルメを食している友人に連絡した。
広尾駅徒歩10分。
12月末、広尾駅B3出口から大通りを抜け小道に入った先、住宅街の中にその店はあった。地下1階、木の門をくぐり敷石を抜け、階段を下った先に見えるお店……のはずが。
既に列が出来ていた。
時刻は16時半、土曜日だった。開店は17時からだというのに、自分たちの前に7、8人ほどが並んでいる状況は驚いた。
そして17時暖簾をくぐり「鳥よし 西麻布店」に足を踏み入れたのである。
鳥よし西麻布店はカウンター席しかない焼き鳥の有名店だ。長方形のカウンターの中、各スペースに職人がいて何人かの客を担当している。職人の前には網。焼き場である。
メニューは手元に置かれず、ほとんどの客はおまかせを頼む。木札に書かれた料理名や酒の種類などを見ながら想像するひと時は、一瞬困惑したものの楽しみでいっぱいになった。
福島県産の「伊達鶏」の焼き鳥
鳥よしでは創業以来、福島県産の「伊達鶏」を使った焼き鳥を提供している。「伊達鶏」とは福島県の銘柄鶏であり、鶏を熟知したプロの料理人が好んで使用する鶏肉と言われている。
席に着いた所でおまかせとレモンサワーを頼んだ。するとお通しが出てくる。目の前で生の鶏肉が焼かれる。炭が弾け鶏肉の焼かれる音が話し声に溶けていく。会話も程々に、職人の見事な手捌きをレモンサワーに口をつけながら眺めた。
程なくして焼き鳥が目の前の皿に置かれた。
一口食べればまだ熱く口から息を吐き出す。その度炭と醤油だれの香ばしさが口から零れていく。柔らかな鶏肉に歯を立てれば今まで食べた事のない鶏肉がそこにいた。
ただ柔らかいわけじゃない。けれど肉汁を感じるようなジューシーさでもない。鶏肉の旨みが最大限に活かされていた。肉質はふっくら、引き締まっていて香ばしさとたれの味が肉をより一層際立たせている。
つくねは食感が楽しく、モモとはまた違う優しい味がした。
美味しすぎでは?
驚きの美味しさに手が止まらない。あっという間に食べ終わり、また新しい焼き鳥が出てくる。会話も程々に、良いタイミングで出てくる焼き鳥と季節の野菜たちに舌鼓を打った。
銀杏は得意でなかったものの、この銀杏串は苦みが少なくちょうどいい塩味とホクホク感が堪らなかった。
カリカリの厚揚げに柔らかな豆腐部分、大根おろしがさっぱりとしており気分が変わる一品。
わずかについた肉の味、柔らかだが食感のよい軟骨は奥歯で音を鳴らす。
太いアスパラをじっくり焼き上げた一品。野菜本来の甘みが口の中に広がる。
甘い脂が舌に残る事無く溶けていく。塩コショウがふられているためレモンをかけるとより爽やかに。
シャリシャリとした食感が楽しい。レモンを絞るとまた違った風味に。
香ばしいうずらの卵という初めての味。黄身の柔らかさが堪らない。
甘さとしゃきっとした食感をわずかに残した食べやすいサイズ。
少しの辛みが癖になる味。さっぱりめ。
脂の強い皮をカリカリに焼いているが食感は柔らかく甘みがとても強い。
シンプルなのに何故かとても美味しい。肉厚なので満足感が凄い。
臭みが全くなく濃厚でとろける舌触りがやみつきになりそう。
感謝。
素晴らしい品々と日本酒を呑みながら良い時間を過ごした。画像にはないが感動するものが沢山あった。
鳥よしではそぼろ丼が有名である。しかし焼き鳥を楽しみ過ぎた結果、そぼろ丼は食べられなかった。
鳥よしは素晴らしい職人が最高の焼き鳥、そして会話が途切れても心地よい温かな空間、カウンター席から見る職人の仕事は老若男女問わず楽しめる。良い店というのは味も勿論だがそこに来たという非日常体験、しかしながら食事を楽しめる温かな空間が重要であると考える時があるが、この店は正にそれに該当するだろう。
時刻は午後八時過ぎ。素晴らしい食事と空間を提供してくれたことに感謝しながらほろ酔い気分で帰った12月の夜、白い息が星のない夜に溶けていく。
電車に乗り席に座ってマスクの中、こっそりと唇の端を舐めた。たれが口の中に広がって誰にもバレぬよう下を向き微かに笑う。人生が、鮮やかになる体験をさせてもらった事に喜びを感じながら目を閉じた。
私はきっと、またどこかでここに来て、その度に今日の事を思い出すのだろう。