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夜の深さを知る人に、幸福な明日が訪れればいい
一瞬で消えた秋に冬が顔を出す。寒さに震える朝と夜、陽が出ない雨の日は部屋と外の気温差に驚いてしまう。夏は湿度が高く、虫が何とか言ってたくせに、今だけは感謝していたりする。
一瞬で過ぎ去った季節の中、別れや新たな出逢いを通し、世界はまた、少しずつ色を変えていく。
そんな中、私は何をしていたかと言うと、季節の変わり目に気づかず部屋でカタカタ仕事を続けていた。昼時に少しだけ外に出た瞬間、あれ、寒いんですが?と気づいたのである。
毎日同じことを続け、同じ部屋で、少し違う物語を書き綴る。今出せる最高を叩き出す。毎日毎日、そればかりを考えている。決して報われるとは言えぬ日々の中、それでもとまた書く。
時折聞こえるノイズに文句を言って、けれどそんなものに時間を奪われるには人生は短かったりする。時間の使い方というものをよく考えるようになったのも大きいだろう。
子供の頃はあんなに毎日が過ぎるのが遅かったのに今は一瞬だ。起きて仕事をしていたらいつの間にか陽が落ちている。人はいつから仕事のために生きるようになったのだろう。
人生の楽しみとは何か考える度に人は仕事のために生きているわけじゃないのにと思う。生きるためにはお金が必要で、お金を得るには働かなくちゃいけないのに、くそったれな世の中の影響により心も体も貧しくなっていく。
そんな世の中で、小さな幸福が落ちているのに気づけるような余裕があればいいと願っている。季節の移り変わりや風の速度、咲いている花、香り、雨の冷たさまで。きっと、昨日と今日で異なっているはずだから。
日々を精一杯生きてやっていたら、いつの間にか自分のための物語を書いていない事に気づいた。
それでもいいやと思っていたけれど、ある日名もない誰かが名のある誰かになった瞬間を見た時、私は何をしているんだろうと立ち止まった。
やるべきことをやっていた。これを待ち望む誰かのためにと思っていた。でもふとした瞬間に与えられたノイズに対して、私はそこまでの想いを与えなくても良いんじゃないかと思ってしまう。
まあプロ意識に欠けるので、そんなことは絶対にやらないわけですが。
ただ少し、作家としての自分を忘れていたような気がしてならなかった。何しとんねん私。書けや満足してんじゃねえ。ツッコミを入れ書き始めた。そしたら新しい物を書けた。笑う。
結局どこまで行っても私は私のために書いた物が世に出ない限り、いつまで経ってもスッキリしないのだと思う。
貪欲なのか馬鹿なのか、はたまた無謀であるのかと、考えてみても答えは出ない。きっと、その全てに該当しているのだと思う。抜け出すには結果を残すしかなくて、馬鹿と天才はいつだって紙一重だ。
何にせよ、棚から牡丹餅は落ちて来ないのである。宝くじが当たらないのと同じで、私にとっては自分の求めているものは一等が当たるよりも確率の低いものだと感じる。一時的な脚光もスポットライトなんていらなくなったのだ。
ただ、私だけの世界が欲しい。誰にも邪魔されない惑星が、多くの人にとって月に手を伸ばすような感覚の美しさを放てばいいと思う。足並みは相も変わらず揃えられず、足跡はいつだってガタガタで、風が吹けば一瞬にして消え去るような灯火。
けれどその灯火は、消えても見えなくなっても心臓にいる。燃えていなくても目の前が暗くても、心臓の灯火が消えるその日まで、人は歩みを止められないのだろう。
とっとと平和な惑星で悠々自適に生きたいなと思いながらも、人生がもし百年続いてしまうとしたら、まだ早いのかもなんてくだらないことを考えては、やっぱりさっさと惑星に隠居させてくれと思っている。
苦労も不自由も理不尽も不条理も、痛みも悲しみも嘆きも苦しみも。少なければ少ないいほど人生なんぞはいいものである。ただ何となく、それらを味わった人間とそうでない人間とでは、人としての深みが違うように思えて、まあそれなりに辛酸舐めとくかの気分だ。
いや、やっぱり嘘。もう舐めたくないわ辛酸。
沢山沢山舐めてきたからこそ、ここから先はイージーモードであれと願い続けている。でも少しずつ、これまでとは違い動きやすさを感じているのは、舐めてきた辛酸の数々の末に、今の私が立っているからだろう。
深夜三時半、ひとしきり書き終えてベッドに潜る。冷え切った手足をさすりながら目を閉じた。脳内ではいつものように物語が進行している。私を救うための、私だけの物語だ。
それが乗り始めてしまうと眠るタイミングを逃したりする。でも大体知らぬ間に物語は途切れ夢を見る。夢の中で私が幸せになっていることは少なく、大抵何かと戦っては追われ、人を助けては飛んでまた戦っていたりする。今日に至っては殺人犯に追われる夢を見た。外出ないのにね。
起きてから少し冷静になった頭で私はあの時どうすれば良かったのかを考える。とりあえずこの部屋に来たらベランダから飛び降りるか隣の部屋に乗り移るかの二択だろう。部屋着のまま逃げてスマホだけは大事に持っておく。やり返すのを念頭に置いてはならない。だって現実世界の私は特殊なスキルも何もない、ただの一般人なのだから。
そこまで考えてから、いや、家に来るなら最早狙ってきてるから終わりかと冷静になりまた目を閉じる。どうせなら幸せな夢を見せろとお決まりの台詞を口にして。
いつか、私が望んだ惑星に移り住んだら。その時にようやく、この悔しさは消えるだろうか。苛立ちも情けなさも全て消えてくれるだろうか。書くのはお休みしますなんて、優しい言葉を自分にかける日が来るだろうか。
絶対無理だな。惑星優衣羽に住んだとしても、私は同じことを思っているのだろう。そしてまたペンを取り、口に出すのだ。
夜の深さを知る人に、幸福な明日が訪れますようにという願いを。
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![優衣羽(Yuiha)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/72562197/profile_e54491ccb68ce05a148717f2e8a06c56.jpg?width=600&crop=1:1,smart)