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「海に眠るダイヤモンド」を観た話


※この記事にはネタバレが含まれます。
※出演されている俳優陣の敬称は省略させていただいております。
※この記事は個人的な観点から書かれております。あらかじめご了承ください。

始めに

人生において、涙を流した作品がいくつあるのだろう。
たった一行、一文、一節。ほんの数十秒にも満たないその一瞬に、心を動かされて目の奥が熱くなった経験はあるだろうか。

私は一度だけある。たった数十秒のメロディーを聞いて涙を流した経験が。曲の中では「僕」が悲しい経験を経ても涙を流せず、自分は駄目な人間だと歌っていたが、私はその反対で涙を流したのである。

それは薄水色をまとっていて、陽の光は差しているけれど暖かすぎず、雲一つない淡い空に差し込む白い太陽光が眩しいような曲だった。

ある日のこと、SNSで流れてきたショート動画に涙を流した。ぽろり、零れたそれは枕を濡らす。私の視線はドラマの一部を切り取ったショート動画に釘付けになった。

ここまで惹かれるのは何か意味がある。早速ドラマを観ようと思ったが我が家にはテレビがない。正確にはあるけれどテレビの役目を成していない。繋いでいるケーブルが駄目になったのか、つけても数分で画面が固まるのだ。葬送のフリーレンが金曜ロードショーで流れた時、楽しみでテレビをつけたらヒンメルの葬式で泣いたフリーレンの絵で固まり、再び動き始めた時にはアイゼンと別れ、一人で旅に出るシーンだった。それがきっかけで、テレビはゲームモニターに降格。我が家からテレビは消えた。

ならば配信サイトだ。しかし、契約している配信サイトにはなかった。他のサイトで配信されていることを知ってはいるものの、そこまでする必要はあるのかと思い結局先延ばしにしていた。けれど一週間ほど前、配信サイトで同脚本家のドラマが軒並み配信となり、その中に観たかったものが無かった私はついに新たな配信サイトと契約する。

そんな長い前置きから観ることが出来た「海に眠るダイヤモンド」。
単刀直入に言おう。信じられないレベルの名作だった。

個人的な話だが、私は子供の頃から様々な物語に触れる度に、その作品の流れを見てもっとこうすれば良くなったのにと思う子供だった。非常に捻くれたガキである。しかしこのガキが時を超え作家になったので、まあ子供の頃からその片鱗はあったのだ。そういうことにしておこう。

いい作品を観ると自分の介入の余地がないことを知る。もっとこうすればいいのに、もっとここを映せばいいのに、今だらけたな、締まりがないなど、脳内でツッコミを入れてしまうのだが、いい作品はそれがない。

私はそれをあえて語りすぎない所だと思っている。あえて想像の余地を残す、ファッションでいうところの抜け感に近いのだろうか。語りすぎずメリハリをつけて60分弱をあっという間に感じさせてしまう。

これは、そういう物語という名の芸術作品だ。

さて、ここからは「海に眠るダイヤモンド」のあらすじを語りつつ、感想を綴っていこうと思う。ネタバレを含むのでまだ観ていない、これから観ようとしている人は注意して欲しい。ちなみに私はネタバレを食らった後から観ると脚本や展開など製作者側の意図が見えて結構好きなので、そういう思考回路の人は見てくれ。


第一話

1965年。
「戻らないあの島、今はもういない人々、愛しい人の思い出は全て、あの島へ置いてきた」

謎の美女・リナ(池田エライザ)が小舟で子供を抱き逃げる所から始まる。

2018年東京。ホストの玲央(神木隆之介)が人気の少ない朝、ホストクラブの看板に載る自分の写真へ飲んでいたものを投げる。中に入っていた液体が綺麗に弾け飛び、苛立った様子で自転車に乗り帰ろうとしたその時、怪しげな婦人いづみ(宮本信子)から突然声をかけられプロポーズされる。

引かないいづみにとりあえずホストクラブに案内するとまさかの札束が出てきて大金を使ってくれる。太客に会えた玲央は、後日再会したいづみの誘いに乗って軽い気持ちで飛行機に乗り、まさかの朝食を取るために長崎へ。ちゃんぽんを食べ、観光気分でフェリーに乗るも、“端島”が近づいてくると、いづみの様子が変わり――。

そこから1955年の春に遡り、島の炭鉱夫の家に生まれた荒木鉄平(神木隆之介)と百合子(土屋太鳳)が大学卒業を機に端島に戻って来る。彼は端島の炭鉱業を取り仕切る鷹羽工業の職員として、勤労課の外勤として働くことに。けれど苦労して大学まで行かせたのに、戻ってきて端島で働くなど父親からすればやるせない。

親との喧嘩から始まる1955年、幼馴染で鷹羽工業職員の息子・賢将(清水尋也)、鉄平の兄で炭鉱夫・進平(斎藤工)、そして島にある銀座食堂の看板娘・朝子(杉咲花)。
そして、リナが島にやって来たことで物語は動き出す。

リナは職員クラブの職員として働き始めるも、鷹羽工業と契約を結びに来た三島社長に気に入られ、セクハラに遭う。けれど彼女は毅然とした態度で水をかけ、契約は台無しになりかけた。端島という小さな島は一瞬で噂が広まる。リナは居場所がなくなり端島から出ていこうとするが、鉄平が大学時代に端島出身のことを馬鹿にされ悔しい思いをしたことを思い出し、リナを引き止める。

「人生、変えたくないか」

この言葉は時を経て、いづみから玲央の元に届けられることに。


一話は、端島の説明をしつつ、人との繋がりと金を重視した物語に思える。玲央の置かれている状況、いづみの家族のこと、2018年は金で動くどろどろとした空気があり、反対に端島では、リナはまだ馴染めていないけど人との繋がりについて描かれている。

ここで注目したいのが、リナがいづみであるかのような演出をされていることだ。この第一話は全編を通して女性はリナに主軸が置かれている。
次に百合子。彼女は鷹羽工業の職員の娘でカトリック教徒。しかし過去の出来事から信心はあまり深くない。
最後に朝子。百合子に意地悪をされている食堂の娘でかなり素朴な印象、長崎弁が特徴だ。彼女は鉄平に淡い恋心を抱いているが、この話ではモブのような描かれ方だ。

そして端島という島の特殊性。小さな島は鷹羽工業のもので、鷹羽の人間と炭鉱夫の家族、社外者の人間で作られている。小さな島では噂が回るのも早く、片田舎の空気を思わせるような場所だ。しかし一島一家というように絆は強い。そのエピソードが随所に盛り込まれている。

いい意味でも悪い意味でも閉鎖的。しかしこの時代に置いては非常に経済が発展している島である。このエピソードは端島ではなく軍艦島という廃墟になった後の名称しか知らぬ人間にとって、非常に分かりやすく、島に生を与えているような感覚がした。

そして印象的なリナの台詞。

「一人でねっこがちぎれた海藻みたいに漂って流されて、転々と。そういう人生」

第一話だけで観るとKing Gnuが作った主題歌「ねっこ」にかかる伏線に思える。この後そうでないことが分かるのだが、作りとしてはリナ=いづみを思わせる強い伏線のように見えた。

第二話

1955年では百合子がメインの物語だ。スクエアダンスになぞられて複雑な恋模様が描かれる。そこで重要となるのが真水。生活に海水は使えない。真水は端島の人々にとって非常に重要なものとなる。海底水道計画の検討が3年の時を経てようやく実現可能に。しかしその頃、大型の台風が端島に接近。
百合子と母の確執、百合子と鉄平・賢将の関係性、そして賢将の想い。進平とリナの関係値も変わっていく。

2018年では玲央のどうしようもない人生が描かれる。店のキングであるミカエル(内藤秀一郎)の太客、アイリ(安斉星来)と友人関係でありながらようやくホストから脱却しようとしていた彼女を我が身可愛さでミカエルの元に戻してしまう。

二話の見どころのひとつは賢将の想いだろう。初恋の朝子は定休日のない食堂で働き詰め。自分とは立場が全く違う。でも好きだからこそ、毎回ガラス細工をお土産に渡している。
ここの恋結ばれろと思うが、悲しいことにそれは叶いそうにない。

またこの話で百合子の悪者感が削がれる。百合子は自分が端島だからこそ好き勝手出来るのを分かっているが、納得出来ないことばかり。熱心なカトリック教徒である母は神に祈る。けれど神は何も救ってはくれないことを百合子は知っている。姉も自分も母も、誰も救われない。だからこそ、やるせなさを朝子にぶつけてしまう。

賢将は自分が誰とも付き合えないと嘆いた百合子の気持ちを汲み取って付き合うことを決めた。本当に好きな人とは付き合えない賢将の気持ちもあるのだろう。

そして進平の過去。戦争から帰って来た彼の心をこじ開けた栄子という奥さんは2年前の台風に攫われ帰らぬ人に。進平はそれを分かっていながらも認められずに心を病ませている。

淡い恋心とどうしようもない現実、そして縛られ続けた過去。

いい意味で百合子にヘイトが集まらず、一人一人の悩みや思惑があってこうなっているのを見事に描いた第2話だと思った。

ところで賢将、手くらいは繋げた方がいいよ。好きな子の手はね、掴んでおかないと。いつさよならするか分からないんだから。


第三話

1957年、ここでようやく朝子にスポットライトが当たる。流行りの服を見て目を輝かせる朝子の元にコッペパンを買いに来る賢将。そこで鉄平が花札をしていることを聞く。水道が開通された端島は人口も出炭量も増え、住居問題が発生していた。そこで新たな制度を作り、問題を解決しようとするが、賢将の父・辰雄(沢村一樹)は彼と幼馴染たちは違うと言い続けていた。

豊かになる端島に映画プロデューサーの夏八木(渋川清彦)が映画を撮りにやって来る。オーディションを行い、演技力の高さを絶賛される。けれどそれは全て罠だった。ヤクザものに脅された夏八木が端島の金を奪い、そして炭鉱夫として潜入していた三人の男が窃盗を行い大惨事に。結果、炭鉱夫3人は捕まったものの、朝子の小さな夢は潰えた。

2018年で玲央はいづみの家族と初対面する。家族に玲央を婚約者と紹介し、家の財産を彼に継がせるかもしれないと言う。いづみは会社を経営していて社長である。けれど彼女は子供たちに継がせる気はなく、自分の欲しかった人生が間違えたのかもしれないと口にした。


第三話では朝子の家が社外者ということであまり金もなく、テレビが変えず、弟の竹男がテレビのある家をこっそり眺めていたことで盗人扱いされてしまう。子供を馬鹿にされたことで朝子の父はテレビを買い、家が回らなくなると嘆く母に謝る竹男。そこで朝子が映画に出れるから大丈夫だと必死に慰める姿は非常に悲しい場面だった。

その後テレビは荒木家に買い取られ、竹男は自由に見に来て良いことに。一瞬良い感じになるが、やはり島内での経済格差が浮き彫りになった。

そして賢将と百合子は、百合子が一方的に彼を振り、朝子と結ばれるかと思いきや朝子の口から立場の違いが語られたのを聞き、どうしようもなくなる。島内での経済格差、そして立場の違い。端島は小さな国のようだった。

また朝子が見つけたワンピース、値段を見て悩む姿があったが、そのすぐ後にオーディション会場で目を奪われたワンピースを百合子が着ているのを見てしまい惨めさを感じる。切ない。

2018年、玲央はいづみの孫・千景(片岡凛)がホストといるところを目撃。それを報告したら売り掛けが400万溜まっていた。けれどそれを母親である鹿乃子(美保純)一瞬で払い、この話は終わりと切り上げたところを見て、やるせなさと苛立ちを感じた。

いづみはそれに頭を抱えるが、まあそれはそうだろう。何でもお金で解決してしまう。それは果たしていいことなのだろうか。400万を軽々払ってしまうことが、本人のためになるのだろうか。

権力と金が世界を壊すと夏八木が話したが、それは現代でも同じだ。

映画に出られないことを知り落ち込む朝子。けれど彼女はほんの少しだけ、食堂の朝子じゃなくなりたかっただけ。鉄平は朝子と火葬場がある無人島、中の島に向かい桜を見る。夢が叶ったと笑う朝子は、小さな幸せを叶えたかっただけなのだと思う。幼馴染たちと立場が違っても、彼女は嫉妬してぶつかることはなく、ただ自分の思う小さな願いを叶えたいだけ。謙虚で素朴な彼女だからこそ賢将は好きなったのだろう。

そして最後に朝子の初恋の人が鉄平だと本人が知り、ようやく両片想いの状態になる。可愛いね。


第四話

1958年。朝子への想いを知った鉄平は浮足立ち、彼の気持ちを知った賢将は朝子の想いを知っているからこそ自分の気持ちに蓋をして、誰にもばれないように振舞いながらも葛藤は大きくなっていく。

また百合子は映画館を辞め、労働組合の新聞編集者として働くことに。しかし長らく体調を崩していた母の容態が悪化し、結果、亡くなってしまった。鉄平と賢将は、百合子が朝子に強く当たる理由を知っている。けれど誰も朝子に告げないのは、彼女を傷つけないためであった。

お盆になり端島では精霊船を流して死者を供養する。母が亡くなり、あの台風の日に捨てたメダイのネックレスが賢将の手から戻ってきたことで、様々な踏ん切りがついて朝子に謝罪する百合子。

進平とリナの関係は少しずつ近づいていくも、リナが隠し持っているお金とピストルが見つかってしまい、彼女は端島から出ていこうとしていた。
進平はピストルの件を誰にも話さず、精霊船から奪ったお供え物を彼女に与え、食べたら来年返すよう伝えて結果、リナは端島に残ることに。

2018年、いづみと一緒に会社を潰そうと提案された玲央は彼女の第二秘書となる。いづみがあまりに玲央へ入れ込んでいるので、家族たちの間では彼が隠し子ではないかと言われるように。
そんな中、荒木鉄平のノートをいづみの部屋で見つけた玲央。いづみからノートを借りた彼は鉄平を、端島を知っていくことに。


第四話では百合子が朝子に辛く当たる理由がようやく分かる。
1945年の8月9日。長崎に原爆が落ち、教会に向かっていた百合子と母が被爆した日、そして姉が死んだ日でもあった。あの日、百合子は朝子たちと遊んでいたかったが、朝子が百合子がここにいることをばらしてしまい、家族三人で教会へ向かう。

しかし、もし。朝子が百合子の居場所を教えなかったら、違う未来があったのかもしれない。やるせない思いは行き場を失くし、あの日の朝子にぶつけられることになってしまった。

百合子は分かっている。朝子に当たっても意味がないと。けれどやるせなくて、どうしようもなくて、当たることしか出来なかった。百合子の姉はあの日、一瞬で死ぬことが出来たが、残された母と自分は被爆者として生きていくことになった。

百合子の母は被爆して体調を崩すようになり、白血病を発症しこの世を去った。百合子はいつ自分がそのような症状に苛まれるか分からない。もし結婚して子供を産んでも、被爆者の子供がどうなっていくのかなど分からない。同じような思いをさせてしまうかもしれない。だから彼女は誰とも結ばれるつもりがなく、被爆したという事実から目を背けるように生きている。

被爆した人たちにとって戦争は終わっていない。本当にその通りだと思う。戦争の傷痕は残り続ける。特に、心と身体に残ったその傷は消えない。

被爆者のその後は悲惨だ。当時、どれだけ被爆した人々が元気に見えたとしても、産んだ子供がどうなるのかなど分からない。未来なんて、いつだって見えはしない。被爆者はきっと、辛い現実を背負い続けていた。

また鉄平にはもう一人兄がいて、二人の姉がいたことも語られる。戦争で命を奪われた子供たちに、戦争から帰って来れた進平。偉い人が戦争を始めたけれど、死んでいくのはいつだって国民。現代社会もそうだが、結局いつの時代もあり方は変わらない。

和尚(さだまさし)が、戦争は全部大人たちの責任だと言う。一平が学が無いから息子を戦争に送り出すのが良いことだと思っていたと言う。確かにそうだ。学が無ければそれが正しいのか否かも分からない。だからこそ未来を考えられる人は自分の子供に学を与えようとする。これは現代でもそうだろう。

そして現代においても、人は悲しいことや受け入れがたい何かを、誰かのせいにして救いを求めるのだ。


第五話

1958年12月。「全日本炭鉱労働組合」の意向で炭鉱夫たちは期末手当の賃上げを求め、部分ストライキを行おうとしていた。しかし鷹羽工業側は要求を退け鉱山のロックアウトを実施。日雇い払いの鉱員たちは生活に困ってしまう。そして、ロックアウトを選択した炭鉱長・辰雄に不満が募る。

労働組合の仕組みに疑問を持った鉄平は何とか手を回し、鷹羽工業側に着くか、全日本炭鉱労働組合に着くか投票で決めさせる形で落ち着く。だが辰雄に不満を持ち始めた炭鉱夫たちは、賢将にもちょっかいを出してより溝が深まることに。けれど一平(國村隼)の気を利かせた一言が賢将の心を救う。

そして、リナに忍び寄る影。リナは福岡で働いていた時に自分の付き人だったヤクザと金を持って駆け落ち、するはずだった。しかし彼が殺され、自分だけが逃げることに。どうしても幸せになりたかった彼女は新しい場所で新しい人生を生きるべく、名前を捨て端島に来ていたのだった。

しかし、夏八木が撮ったフィルムに映っていたリナの姿から、炭鉱夫の振りをして彼女を殺しに来たヤクザがやって来る。投票日の夜、ついにリナは襲われ異変に気づいた進平が彼女を助ける。その際、襲ってきたヤクザを進平が殺してしまい、海に投げて証拠隠滅。二人の絆は強まった。

2018年、いづみとのDNA鑑定の結果、血が繋がっていないことが分かり、ようやく家族が出来ると思った玲央はショックを受けるが荒木鉄平との血の繋がりはあるかもしれないと考え始めるように。

そして玲央はいづみの旧姓が出水朝子だと知る。彼女の正体は、食堂の朝子だった。


いづみの正体がリナや百合子だと考えられていたが、まさかの朝子であったことが五話で分かり、70年の間に何があったのか、より気になる展開となった。半分のところで正体が分かる、良い構成だと思った。鉄平のノートは朝子に恋をしたことで彼女の記述も増えていくだろう。

1958年、賢将の立場が非常に難しくなるのを感じ、何だか見てて可哀想になってきた。いや元から可哀想ではある。しかしそんな彼に寄り添う存在、百合子がいることで賢将の心は救われているのだろう。何だかんだ、お互いにないものを支えて補っているように思える。

・鉄平と朝子
・賢将と百合子
・進平とリナ
の関係がようやく明確になるのだが、三者三様でありながらやっぱりお互いに似通ったところがある人間を選ぶのだと思った。

鉄平と朝子は等身大の素朴なカップル。生まれや育ちも似通っていて感性が近い。

賢将と百合子は立場の同じカップル。同じ鷹羽工業職員の子供で環境も似ている。親との確執が強いのも同調出来る部分だろう。また、互いの痛みや苦しみを知っているから寄り添うことが出来る関係性でもある。

進平とリナは秘密を共有したカップル。暗い過去を持ち、されど幸せになることを諦めなかった二人。死を知っているからこそ手を取り合った関係だ。

まあ確かに現代社会においても自分と似通った環境で育ち、生きている人間と結婚する方が上手くいくのでそういうことである。結局どれだけ好きでも価値観が違えば小さなひずみが大きくなっていってしまう。

やっぱり根底が同じで、後から付け加わった要素に自分と違うところがあるくらいが丁度いいんだなあと他人事みたいに思っていた。

そして半分過ぎたこの第五話は非常に重要な話が語られ、今後の展開を左右することとなる。シナリオを書く際、五話ごとに転調するというのを先輩から聞き、それを実行していたがここでもなるほどと思った。約十話構成の脚本を作る時は、初めに説明と導入の展開、そして真ん中で転調させるのがベストだと知ったので、実行していこうという目線で見ていた。職業病。


第六話

時は進み1963年。翌年には東京オリンピックが控えている。端島の人口は五千人を超えていた。多くの炭鉱が閉山に追い込まれる中、端島にはいつも通りの正月が訪れている。朝子は忙しなく働いており、鉄平とこっそりカステラを食べ、ひと時の幸せを感じていた。

荒木家では進平とリナが両親の部屋に越してくることを提案して、子供が出来たことを伝えた。しかしリナが戸籍を取りに行けないせいで婚姻届けを出せない。進平の前の妻、栄子の死亡届を出していないことも理由だった。あれ以来、リナを探しに来る人間はおらず平和に過ごしている。
そして二人の息子、誠が生まれることに。

明るい話題も多く、端島は変わらず豊かになっていく兆しが見えている。けれど鉄平は賢将が朝子に抱いていた想いを知り、島で孤立する賢将に見せつけるみたいで申し訳ないと遠慮していた。

そんな中、両親は朝子に結婚するよう勧めてくる。娘が行き遅れることばかりを考えているが、鉄平との関係は誰も知らない。

炭鉱長である辰雄と一平は二人で飲み、心の内を打ち明ける。辰雄の葛藤を知った一平と聞き耳を立てていた鉄平・賢将は様々な想いを抱いて前を向き、賢将は百合子へ伝えようとしていたことを一足先に鉄平へ伝えたことで、鉄平の葛藤も晴れ、朝子とより深く向き合っていく。

朝子にかかっている結婚への圧を知った百合子はストライキを決行。そのストライキの最中、朝子は屋上庭園を作る計画を始める。土いじりを楽しむ彼女は結婚する気はないと言い、そんな彼女を見た鉄平は想いを募らせる。

日本初の屋上庭園が完成し、賢将は百合子にプロポーズする。百合子は被爆者で自分が普通の幸せを手に入れられないと思っていたが、賢将は既に父と話し合意を得たうえで共に生きて欲しいことを伝え、二人は結婚。

結婚式の後片付けを行っていた鉄平と朝子。鉄平は朝子のストライキの理由を知り、自分の想いを伝える。長い目で見て欲しい、と伝える鉄平に朝子はコスモスの種を渡す。いつかお婿さんになる相手とコスモスを植えたい。屋上いっぱいのコスモスを見ようと約束した。

2018年、玲央は自分と鉄平の関係があるのか知るべく鉄平残された10冊のノートを紐解いていく。いづみの話を聞いて、自分にとって本当の愛はない、そんなものは幻だと口にする。

ノートに朝子が渡したコスモスの種が大事に挟まっていたのを見つけた玲央、何となく植えてみると50年前の種は芽を生やした。
それを見たいづみに、当時の写真をいづみに見せながら鉄平がどうなったのかを問う玲央。しかしいづみは彼の行方を知らなかった。


いづみの正体が朝子だと分かり、鉄平が朝子を好きになったことで彼女にスポットが当たるようになる。朝子が端島に屋上庭園を作ったのは、今に至るまでの始まりだった。自身の会社で屋上庭園を作ったのがきっかけで、IKEGAYA株式会社は事業が乗っていくことになったのだ。当時と今を繋ぐ、重要なシーンである。

六話の中で鉄平はとにかく誰が見ても朝子が好きなのがばれていた。まるで中高生のような可愛らしい恋愛模様に画面越しでにまにました人も多いんじゃないだろうか。

朝子が食堂の朝子ではなく自分の好きなことをして懸命に働く姿を見ていた鉄平の視線は優しく、二人はやっぱり似ているのだと改めて思う機会だった。朝子も外勤の仕事を頑張っている鉄平を見て、同じような表情をしていたからである。

また賢将と百合子が結ばれるシーンの台詞も非常に良かった。

「私の人生手強いわよ」

「俺はタフだよ、百合子がいれば」

「何それ、私がいないと駄目じゃない」

頭に残る印象的な台詞だったと思う。結婚してください、好き、愛している。2人のプロポーズにそんな言葉はなく、会話にも真っ直ぐな愛の言葉は現れない。けれど互いが互いを大切に想っていることがこの会話だけで分かることに素晴らしさを感じた。言葉のチョイスが良すぎる。

これまで嫌われてきた辰雄の心情がここで分かるのも、とてもいい作りだと感じた。というより、ここで鉄平と朝子以外の人たちの感情面を曝け出してしっかり語ることで、視聴者が2人の恋愛により注視出来るようになるから語らせたのだと思う。違ったら申し訳ない。

ただ百合子もリナも、恋愛において幸せになったことで後は朝子の番だよと言わせるような展開に、より鉄平と朝子が際立つようになった。鉄平なりの言葉で朝子に想いを伝えるシーンで、返事の代わりと言うようにコスモスの種を渡す。それをノートに貼り付けて、いつか朝子と2人で種を蒔く日を楽しみにし続けていた鉄平。けれどそれは叶わぬまま50年後に玲央の手で芽を出すことになる。

ここに至るまで鉄平という人物が人格者というのがしっかり描かれているので、この先何が起きようとちゃんと理由があったんだと言える理由づけに繋がっていく。これも非常に良いと思った。視聴者側に鉄平は信頼出来る人だから、今の朝子と結ばれていないのは何か理由があったんだよね?と言わせられるのだ。何ていい脚本の作り。

五話でいづみの正体が分かり、彼女が今に至るまでの片鱗を見せるような作りがとても良かった。


第七話

1964年、進平とリナの息子が一歳を迎える。賢将と百合子も結婚一周年を迎え、鉄平と朝子もまた、秘密の交際中。一見幸せに思えるも、炭鉱で爆発事故が起き、全てが変わってしまう。

炭鉱で起きた爆発事故で火傷を負った一平、坑道内に充満したガスが引火したことで起きた事故は消火が難しく端島の人間が一丸となって尽力する。資格を持っている進平は深部区域の消火に当たる。

結果、命に代えることは出来ないと判断した辰雄が深部区域を放棄すると宣言。鉄平の手で海水を汲み上げていたポンプを止めて、深部区域を海水で満たすことに。

そして、消火に当たっていた進平は、一酸化炭素中毒に陥り仲間を助け――。


大きな事故から全てが変わる第七話。最後のシーンで進平が倒れるも、きっと生きて……など期待を見せたように思えるが、それは視聴者の希望的観測であり実際はもう戻らない人になってしまったことが次の話で語られる。

幸福から一転、どん底に変わってしまった端島。最終章に入る前の重要な話であったこともあり、2018年のシーンはかなり少なかった。

炭鉱夫たちは自分たちの居場所を自分たちの手で鎮火させると意気込むが、資格がなければ意味のないこと。結局は鷹羽の指示に従い外で鎮火作業の手伝いをするが、ここで炭鉱長の辰雄に苛立ちを募らせるのは学の無さと言ったところだろうか。

この物語の良く出来ている所は、お金と権力、そして立場における学の違いが明確に描かれていることだと思う。炭鉱夫たちは日雇いの従業員。体力のある男性なら誰でも出来る作業だ。勿論、炭鉱の中は湿度が高く、非常に苦しい状況である。しかし、身一つで大金を稼げる仕事。そんな仕事に就いている人たちに学のある者はほとんどいない。

資格を持っている進平に言われて何も言えなくなるような人たちだ。自分たちも分かっている。けれど人というのは簡単に変われない。身一つで働いてきたのなら尚更だろう。

石炭を掘る。資源には限りがある。いつか端島は終わる。その日はいつになるのか分からないが、深部に行けば行くほど、それは近づいていく。こう思えるのも学があるからなのだろうか。正常バイアスでまさか端島が終わるわけないと思うのだろうか。

それとも、資源に限りがあるとは思わないのか。

何にせよ、良い所と悪い所が顕著に見えた気がした。そして辰雄の言葉が多くの島民を思い下した判断なのだと分かったのがとても良かった。

愛した人が死んでしまう。リナの呪いは進平にも降りかかった。最初からきっと死ぬだろうな、だってイケメンだもんと思っていたがやっぱり死んだ。イケメンで影のあるいい男は何かと死にがちである。

ていうかこれを書きながら斎藤工って何歳なんだろうと思ったら43歳らしい。嘘ぉ、30代だと思ってた……。ちなみに神木隆之介は31歳。嘘ぉ、子役時代から出ていた人だから年齢不詳だったけど、まだ31歳なんだ、まだまだ演じられるじゃん強過ぎ……。

大人になるとテレビで見ていた人たちとあまり年齢差がないことを知って絶望するが、最近絶望しがちである。こんなに素晴らしい演技をしているのに自分は……こんな所で……なんて思う度に、ああちゃんと自分人間だと感じてしまうのは、馬鹿げているが少し安心したりもする。


第八話

七話から4ヶ月後。廃鉱した端島では鉱員たちの多くが島を去り、島全体の希望は消えかかっていた。また進平が亡くなり、一平も長年の無理がたたって肺炎に。病床に伏してしまう。誰もが諦めた空気の中で鉄平は端島を復活させるために励む。そして未開発の石炭の層がある新区域の開発に勤しむのだった。

鉄平と朝子は人目を避けながらも長崎へデートに。二人でちゃんぽんを食べ笑い合ったり、朝子が長崎に来る度に見に来ているギヤマンを知る。ギヤマン、意味はダイヤモンド。ガラスのカットがまるでダイヤモンドのような骨董品に、ダイヤの指輪じゃなくてギヤマンが欲しいと笑う朝子。そんな朝子にいつか買うという鉄平。

また百合子の妊娠で朝子は大いに喜ぶが、被爆者の子供がどうなるか分からない不安を抱き続け、賢将と寄り添う姿が描かれる。

そんなある日、誠が原因不明の病気を発症し、長崎の病院へ通うようになる。鉄平も共に通うようになるが、そこで出生届を出していないことを知られてしまう。

鉄平がリナに着いていくことは朝子も知らされていたが、周りはそう思わない様子。銀座食堂の従業員である虎次郎(前原瑞希)は朝子の両親から彼女との結婚を薦められていたものの、二人が出来ていることを知っていたので尚更鉄平の行動に不信感を募らせる。

けれど鉄平は誠の病院に付き添う中である物を作っていた。

2018年、いづみを認知症に仕立て上げ会社を手に入れようとする鹿乃子の指示に従う弟の和馬(尾美としのり)は、関係者の勤める病院で認知症をでっちあげる。いづみの秘書澤田(酒向芳)はそれを知り、玲央と何とか止めようとするが、いづみはもう疲れたという。

鉄平の消息を辿っていた玲央が当時の資料を見つけ、千景に頼みオークションで資料を落札する。そんな中、玲央の働いていたホストクラブのホストたちが乗り込んでくる。その後アイリが働くクラブに和馬を連れて行き、澤田と共に認知症のでっち上げを止めるべく尽力するが、アイリが自分のせいでミカエルの元に戻ってしまったこと、そして和馬が自分と同じで意思もなく人に流されるだけのクズだと自虐的に語る。

だがそんな和馬が意思を持って認知症の誤診書を破いたことで玲央もまた、自分の意思で動いていくことになる。自分の店が売り掛けの溜まった女性客へ風俗に斡旋している事実を掴み、アイリと共に警察署へ駆け込む。そして自分も逮捕してくれと言ったが、結局逮捕には繋がらず、迎えに来たいづみと帰ることに。

そして端島では新区域から再び石炭が掘れるようになり、全てが順調にいくように思えた。

けれど、最後に。鉄平がリナと駆け落ちしてそれ以来会うこともなかったことが語られる。


ダイヤモンドの伏線がここにも出てきて、なるほどダブルミーニングと納得したこと、そして当時の女性が一人で生きていくことの難しさを語っている話でもあると思えた。

進平を亡くしたリナは過去の背景から誠の出生届を出せなかった。端島だからという理由で片付けられたのは幸いだが(恐らく当時は戸籍の観念が今よりも違っていたため)誠が小学生になるまでに何とかしようとしていたそれらも進平が死んだことで出来なくなる。また荒木家の母ハル(中嶋朋子)も一平が病床に付したことで頼る場所が無くなり、鉄平は実家によくいるようになった。

稼ぎ頭の二人がいなくなり、精神的にも余裕が無くなってしまった故に、朝子に申し訳ないと思いながらも鉄平に頼るしかなかったリナ。過去はいつまでもついて回る。

それでも鉄平は朝子をひたむきに愛し、端島が復活したら必ずと約束した。約束の日を夢見て、夢を見続けて。誰にも知られずに愛を育んできた。それが仇となったのは、この先を見なくてももう理解出来る。

玲央が自分の意思を持って動き出すことが出来たのは、和馬が踏み出したのと鉄平のノートを読み、彼を知っていく中で勇気を貰えたからではないのだろうか。彼は変わった。この八話で明確に。すっきりしたと笑う玲央に神木隆之介の演技力の高さを感じて拍手しかけた。凄い、本当に凄い。


第九話

進平と栄子の子供として誠の出生届を出したリナ。鉄平はそれに付き添いながらも虎次郎に朝子のことを聞かれ、彼女を幸せにすると言う。しかし色んな葛藤から真っ直ぐに朝子へ思いを伝えることを躊躇っていた。大人になったのだと悟る彼だが、賢将たちの言葉もありプロポーズを決める。

朝子と約束した夜、誠の病院に付き添う中で作っていた物”ギヤマン”を渡して幸せになるはずだった。しかしかつて進平が殺したヤクザの関係者が誠を攫い、頼る人のいないリナは鉄平に頼る。荒木家には既に一平もおらず、リナと進平が起こしたことに嘆くハル。しかし嘆いたところで何も始まらない。三人は誠を救うべく奔走する。

ヤクザに傷つけられた誠を助けるため、自分が男を殺したと言ってしまう鉄平。誠を助け出し、渡し舟で待っていたリナと長崎へ逃げることに。その嘘が朝子との約束を破り、永遠に会えなくなってしまう理由となった。

2018年、オークションに出していた資料をキャンセルされ一目でも資料を見たいと懇願した結果、いづみの孫たちと共に持ち主へ会いに行く。その人物は何と、賢将と百合子の息子だった。二人は朝子と連絡が取れる状態にあったが、百合子は20年も前に病で亡くなり、賢将は1年ほど前に亡くなった。けれど被爆者の子供には健康被害が出ていないことを知って安心する玲央。

賢将は端島の記録を残すべく、荒木鉄平のノートを手にしていたのである。賢将の死後遺品整理をしているとノートに、自分に何かあった時は朝子にこれをとメモ書きが遺されていたが、賢将は最期までこれを渡すのが朝子のためになるのか考えていたらしい。そして、ノートは11冊あったことを知る。

最後の1冊を隠したのは澤田だった。彼は自分の両親の過ちを隠したくて11冊目を隠したのだという。澤田の名前は澤田誠、旧姓は荒木誠。進平とリナの子供だったのだ。

リナはずっと朝子に申し訳なさを感じており、誠はそれを憶えていたからこそ秘書を探していたいづみの元へやってきて、せめてもの恩返しをしようとしていたのだった。

最後の1冊を手にしたことで知る真実。そしていづみの家族たちの中も、鉄平のノートを巡る中で少しずつわだかまりが解け、仲睦まじい様子となる。

約束の夜、朝まで鉄平を待っていた朝子。理由も分からず二人が駆け落ちしたことを知り、ずっと傍で優しくしてくれた虎次郎と付き合うように。そして虎次郎は朝子の伴侶となったのだった。


最後の1冊を読んでもう一度長崎に行くいづみと玲央。そして鉄平が端島から出て行った後の話が語られる。ヤクザに狙われ転々としながら、リナと誠、そしてハルが隠れ住むところにやって来る。久々の再会に胸を躍らせるも、鉄平は狙われる身で、またすぐに身を隠すこととなった。

彼はずっと、朝子を想い朝子だけを愛していたが、自分が去った後彼女が虎次郎と結婚し、母親になったことを賢将との再会で知る。渡せなかったギヤマンを手に、端島の記録を残そうとした賢将へ10冊の日記を渡して、朝子への想いを綴った部分は破き、消し、今の彼女に迷惑がかからないよう渡す。賢将は鉄平の事実を、死ぬまで百合子にも朝子にも話さなかった。

鉄平はその日暮らしをしながら端島が閉山した後に炭鉱夫たちの働き先を賢将経由で紹介し、最後まで外勤の仕事をし続けていた。彼はこの仕事を愛していたのだった。

1974年、ついに端島は閉山した。
朝子は家族と共に東京へ、そして新しいことを始めようと大学に行き園芸を学ぶことを決意。
「全部置いてきた」
愛しい人との思い出は、全部あの島に置いてきた。

それから長い年月が経ち、2018年。
ついに端島へ上陸するいづみと玲央。船長の計らいで島を少し歩かせてもらうが、そこで以前、世界遺産になる前に外勤の人が訪れて上の階に物を置いていくと話していたことを教えてもらう。その人物の名は、荒木鉄平。

上の階に置かれたそれがギヤマンだと気づいたいづみは見に行こうと必死になるも止められ、彼女の瞳にギヤマンは映らなかった。

旅館に戻り、賢将たちの息子から貰っていた資料の映像を流す玲央。それは第三話で夏八木が撮ったフィルムだった。そして、鉄平が映る。鉄平は神木隆之介ではなく、別人だった。全然似てないと言う二人に、いづみは玲央と会った日のことを思い出し、鉄平のように声をかけたかったのだと気づく。玲央は鉄平の子孫でも何でもない、ただあの日、あの時、あの瞬間。自分が青春を送っていた頃と同じ年代の彼を、いづみが鉄平のように声をかけて悩みを聞いてあげたかった。それだけの話だったのだ。

翌日、船長から教えてもらい長崎のとある家へ訪れる二人。そこは鉄平が1990年代に買って寄付した家だった。彼はようやく腰を落ち着けられていたらしい。遺産を渡す相手もいないから、家を買って施設として使って欲しい。鉄平は最期まで親の帰りが遅い子供たちや老人のために、話を聞くボランティアをしていた。そんな彼は8年前に亡くなっていた。

鉄平はいつも庭先から見える端島を眺めていた。そして、庭先には大量のコスモス。朝子との思い出の花を植え、先に見える端島を眺め、彼は思い出に耽っていた。最期まで端島を、朝子を愛していたのだ。

朝子の頭の中で全てが繋がり、現実にはあり得なかった空想が流れ始める。あの端島で、賢将と百合子、リナと再会し、進平は鉄平と話す。辰雄と一平が将棋を指して、にぎやかな端島の光景が流れる。

あの日の朝子が問う。

「私の人生、どがんでしたかね?」

「うん、朝子はね気張って生きたわよ」

そしてギヤマンを持った鉄平がやって来る。けれどギヤマンは映らない。プロポーズをした鉄平に、遅いと言って泣く朝子。幸せな、何よりも望んでいた光景。全て叶わなかった幸福。あの夜、鉄平を待ち続けていた朝子がようやく迎えに来てもらった瞬間だった。

2024年。玲央はツアーガイドになっていた。いづみはインスタを始め、楽しく過ごしている。玲央は知らない場所が沢山あって、そこを説明出来るようになれば自分が生きている意味を感じられるのではないか。もしかしたらここにも鉄平が来ていたのかもしれないと、鉄平のノートを通じて玲央は大きく変わった。


見たはずのない景色を夢に見る。
広大な海原。海に浮かぶいくつもの島。
何千万年もの昔に芽生えた命が、海の底で宝石へと変わる。
見えなくてもそこにある。
ダイヤモンドのように。

海に眠るダイヤモンド第九話

最高の締め言葉で終わった「海に眠るダイヤモンド」。
石炭と鉄平が置いたギヤマンのダブルミーニング。いつか彼が置いたギヤマンは海に眠ってしまうのだろう。長い長い時を経て、ダイヤモンドに変わる。

余談だがオパールは500万年の歳月を経て、骨や木の死骸が宝石に変わるらしい。石炭の話を聞いた時、それを思い出した。


最終話で思うのは、記憶の中の鉄平と本物の鉄平が違う人にしたことで玲央との関係性を完全に切ることが出来、思い出だったと言える形になっていたこと。そして鉄平と再会しなかったことだ。鉄平が生きていたらきっと話はややこしくなったし、最後の感動も薄れただろう。あれは亡くなっていて正解だった。

さらに朝子の空想の中でもギヤマンが映っていないのがとても良かった。彼女の目は鉄平が作ったギヤマンを見ることが叶わなかった。だから想像出来ない、永遠に見えない。空想の中でさえ。それがとても悲しくて、どうしようもなく良かった。

また朝子が設定上幼馴染たちより年下であったことで、最初は恋愛対象に入らなかった子がどんどん魅力的になり目が離せなくなった鉄平の構図が出来たのだと思う。そして全員が亡くなる中で彼女一人が生きているのも大きい。朝子の弟竹男は先に亡くなってしまったようだが、2018年時点で彼女の孤独を加速させているのを肌で感じた。


そして主題歌の「ねっこ」。最初はリナ、次に百合子、五話を過ぎたら朝子の歌と勘違いする。”此処で何時迄も待ってる”なんてあの夜の朝子だと思われるが、最後まで見るとこれは鉄平の歌だと思うようになった。

最期まで端島を想い、朝子を愛していた鉄平。朝子には朝子の幸せがあるから会いに行くことはしない。けれど、端島が見えるこの場所で約束したコスモスを植え、何時迄も待ち、今日も想い続ける。

進平とリナの罪を背負った心優しき青年が運命に翻弄され、幸福な人生を送れなくなった。きっと葛藤もあっただろうに、何度も何度も朝子に手紙を出そうとしては諦めて、兄の残したたった一人の子供を、家族を守るために犠牲になった。

コスモスは強い花だ。秋になると一面を染め、圧巻の姿を見せる。
ささやかな花でいい、大袈裟でなくていい、ただあなたにとって価値があればいい。朝子にとって価値のある花であれば、大きくなくたって構わない。あなたが項垂れてもその先に根を張って、そこにあれば感じていた悲しみを忘れさせてくれるような、そんな花。

何時迄も最期までずっと、忘れることなく愛していた。

もし鉄平が朝子に手紙を出して全てを語れば、朝子は鉄平の手を取り共に過酷な運命を背負って死していたのかもしれない。鉄平は何よりも誰よりも朝子を守りたくて何も言わなかった。それを分かっていたからこそ賢将は日記を渡すか迷い続けていた。

大きな愛のお話だ。

終わりに

私はこのドラマを観るまで、失礼ながら野木亜紀子さんが脚本を担当したものを観たことがなかった。けれど観て分かった。この言葉選びは、繊細な情緒は、語り過ぎず余白を残すセンスと技術は、彼女にしか出せない。野木さんにしか書けない感性が見えて、私はずっと、ああーなるほどこうするんだ学びがデカすぎると声を出していた。

知識は身に着ければそれなりのものが出来ると思っている。これは軽んじているのではなく、身に着ければ誰でも最低限のラインは越せるという意味合いだ。

けれど感性。これはその人にしかないものだ。言葉選びも繊細な情緒も分かりやすい展開を有り触れたものに見せないのも、経験値でそれなりに培うことが出来る。積み重ねてきた時間をものに出来ていれば、それなりのものが出来るだろう。でも、感性だけは違う。

これは野木さんにしかない感性だ。積み重ねてきた時間の末に、一番いいタイミングで最高出力の感性を発揮させる言葉を置ける。だから野木脚本の作品が話題になるのかとよく理解出来た。この感性は日本人の心を刺激するのだと思う。特に説教和尚は野木さんの代弁者に近いのかな?と思うくらいには素敵な言葉を口にしていた。

私にとって、心動かされるほどいいと思う作品はいつも、薄水色をしている。
これは私のイカれた感性の話だが、初めて「海に眠るダイヤモンド」の映像を見た瞬間、そう思った。ああ、これは薄水色だ。海の色でも空の色でもロゴの色でも何でもない。この物語全てが薄水色に淡く輝いている。指で突いたら消えてしまいそうな泡に思えるのに、古びたページに書かれた褪せたインクの文字にも思える。そんな色をしていた。

つまり、薄水色が見えた時点で私にとっては素晴らしいものであることが確定していたのだ。それを先延ばしにして、考えた末に今、この瞬間観ただけで。多分涙を流した時点でどこかで観ていたのだろう。そう考えると結構早くに観たね、君。偉いぞ。

良い物語を吸収する。沢山沢山吸収して、自分だけのものを生み出す。それは何色だろうか。私には分からない。私は私の物語が、心惹かれた作品のような色を纏っているとは思えない。また違う色なのだと思う。

今年から本を読んで、作品に触れて、自分を高めようと考えていた。そんな中、歴代ナンバー1と言える日本ドラマを観てしまってびっくりしている。正直震えている。

まあ最後のコスモスのシーンとか、ちょっと不自然だな?と思う瞬間もあったけど。そうじゃない。

圧巻の俳優陣による演技と、最高の演出、最上の脚本、ここまでクオリティーの高いものは中々見られない。恋愛ドラマや刑事ものばかりの中で、いい意味でより過ぎない作品だったからこそより素晴らしさを感じるのではないだろうか。

とりあえず語りたいことはまだあるが、さすがに長いのでまたどこかで語ろうと思う。

言いたいことはひとつ、

人は必要な時に必要な作品と出会う。

私は出会った。素晴らしい作品に出会い、自分の感性がまた色づく音がした。こんなにも素晴らしいものに出会わせてくれたことに感謝しながら、色づいた感性を学んだ技法を言葉を、これから生み出す物語にしっかり反映させていこうと思う。

この指先が打った文字全てが、ダイヤモンドのように輝くことを願って。

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優衣羽(Yuiha)
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