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アールグレイとアールグレイと蒲焼きさん太郎


午前11時。目が覚める。二度寝する。

午後0時。仕方なく起きる。一度欠伸をし、シーツを全て剥がす。洗濯機にぶち込んで少し多めに柔軟剤を入れる。

午後0時半。ご飯。作り置きのオクラのショウガ漬けにチャーシュー。

午後1時。クッションを全て干す。洗濯機からシーツを取り出し、布団と一緒に干す。

掃除を開始する。各排水にパイプユニッシュを流す。コンロ周り、洗面所、風呂場、床、トイレ、いつもより気合いを入れて掃除をする。真っ白なスニーカーを洗う。

午後2時。風呂場に干しっぱなしだった服を取り込む。畳みながらアイロンをかける服を大量に取り出す。

午後2時半過ぎ。アイロンの準備をしながら前日に作っていたアイスボックスクッキーを焼く。大量なので二回に分ける。

午後3時過ぎ。クッキーを全て焼き上げアイロンを終える。少し冷まして皿の上に盛り、アールグレイアイスティーと一緒にアールグレイクッキーを用意。

午後4時。シーツをひっくり返す。乾燥機にかけていたものは取り込む。外に干していた布団を抱きしめる。いい匂いがする。

ようやくティータイム。パソコンをつけ、やる事を考えながらYouTubeを見る。

この後。好きなタイミングで風呂に入った後クラムチャウダーを作り、食べ終わったら明日の弁当を作る。

ゲームをするか何かを書く。

一日が終わる。


歩いていると自分が何をしたかったのか忘れる時がある。それは人生に対しても同じで。

ただ、こんな平和な日がずっと続けばいいのにと思う。毎日干したてのシーツにほっこりし、やる気のない手作り菓子に喜んで、綺麗になった部屋を見て達成感を感じ、PCに向き合い何かを書き続けるような、そんな日々が。

毎日毎日続いていけばいいのになあと思う。


でも毎日続けるためにはそれなりの金銭が必要で、最低限の生活を続けても。

けれど自分の心を救うには、こんな日があってもいいと思うのだ。毎日毎日頑張るのは大変だし、虚無が足元から襲う日もある。ただ何でだろうか。一人になった今の方が、私は私らしくいられる気がしている。

勿論、話し相手がいなくて喋りが下手くそになったのは事実だけれど。

好きな時間に好きな事をする。それだけの事が私の心を救っている。好きな作品を読んで、好きな音楽を流して、干したてのシーツに飛び込んで、一人のために入浴剤を入れたり、自分しか食べないのに手のかかる料理をして、アールグレイの香りが部屋に充満するのを楽しんでいる。

丁寧でお洒落な暮らしを楽しんでいると思われるだろうが、実情は違う。何故なら、私のテーブルの上にはいつでも食べられるように蒲焼きさん太郎30枚と赤ちゃんせんべいが置かれているからだ。

公共料金の支払いをするために立ち寄ったコンビニでつい目に入ったそれを買ってしまったあたり、子供の頃は忘れられないという事だろう。

ゲームをしながら大量の蒲焼きさん太郎を口に入れていた時、小学生の頃を思い出した。

自転車で少し遠くの公園に立ち寄り友人たちとくだらない遊びをしていた。何をしていたのかは憶えていないが、何故か滑り台から落ちた事と、野球をしていた同級生のボールが近所の厄介おばあさんの家に飛んで入ってしまい、揉め事になって警察を呼んだ事。

後は駄菓子屋さん。


駄菓子屋さんと言っても、今は見なくなった小さな酒屋さんだった。酒を売るだけでは商売にならず、そこでは子供用の駄菓子ばかりが置かれていた。

お小遣いを握り締め、頭を使いながら好きなお菓子を買った。10円だった蒲焼きさん太郎も、他に欲しい物を買うと1、2枚しか買えなかった。見てみろ私、今は30枚を大事にもせず貪り食ってるぞ。

それとさくらんぼやコーラの味がある正方形の小さな餅菓子。カラフルなゼリーにラムネ、3個入りのガムは1つだけ外れだったが、皆自分のお小遣いで買うものは独り占めしたかったのか、買われる機会は少なかった。

コーンポタージュのお菓子はまだ袋の上側まで詰まっていた。

余談だが、先日関西圏に行った時カールを見つけた。父が好きなので大量に買って渡したのだが、カールはしっかり袋の上側までみちみちに入っていた。
彼はそのカールをジップロックに入れ大事に食している。確かに、彼の一番好きなお菓子カールがこちらで売られなくなると言われた日には大量に買いだめしていたものだ。

話を戻そう。

いつの間にか私は、いや、私たちは、駄菓子を食べなくなっていった。炭酸飲料もジュースも、飲むタイミングがどんどん少なくなっていく。

昔好んで飲んでいたジュースは、いつコーヒーに変わった?
私自身はコーヒーを飲まないので紅茶だけれど。

好きだったお菓子をいつから食べなくなった?
いつからマカロンは最高だと言うようになった?
いつから、アールグレイばかり飲むようになった?
いつから、いつから。

考えてもキリがないそれは、確かに存在していた転換期である。高校生くらいまではまだ、炭酸飲料ばかり飲んでいた気がする。でも駄菓子は小学生の頃くらいしか食べていない。

見かける機会が少なくなって、少ないお金でやりくりしなくても良くなったからもっと美味しい物を手に入れるようになった。

ジュースもずっと飲み続けたら胃が疲れるし、カフェインを摂取したがるようになり、さらにはアルコールが炭酸飲料の代わりになった。

公園で走り回る事も、バスケットゴールにシュートを決める事も無くなった。

けれど変わらない事もある。

炭酸飲料は時折飲みたくなるし、駄菓子だって懐かしむために食べたくなる。

公園で走り回る事は無くなったけれど、昔から変わらずに書き続けていた絵と文章はまだこの手に残り続けている。

音楽の趣味は広くなっただけ。

昔より面倒で難解な性格になったけれど、人と話すのは好き。ゲームも好きなままで、色彩は年々目が痛くなるほどの輝きで満ち溢れている。

だから、自分の心を救ったり。少しの達成感を味わうためにやる事は変わっても。

私はいつまでもあの頃のままで。



遠い、海の見える街を望み続けている。




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優衣羽(Yuiha)
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