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短編小説まとめ

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作家、優衣羽の新規短編小説を載せる場です。気ままに更新。
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記事一覧

振り返って救いの手を伸ばさなくても、君は一人で歩いてきただろう

郷愁という言葉がある。異郷に来て故郷を懐かしむ意味を持つ言葉だ。別名ノスタルジア。恐らく…

優衣羽(Yuiha)
4か月前
5

言えなかった過去はラムネ瓶の中で今も泡を立てている

キュポンッ。小気味のいい音と共につっかえていたビー玉が落ちる。シュワシュワパチパチ。鳴る…

優衣羽(Yuiha)
4か月前
11

破ってしまった約束は、花弁散らして空へ舞う

約束だよ 「私がいつか――」 ある日の午後、カウチに寝転びながら本を読んでいた彼女がおも…

優衣羽(Yuiha)
6か月前
4

濡れている方が好きだなんて嘘だよ

濡れた肩の分だけ 「雨だ」 最初に言ったのは誰だろう。騒がしさが静まり、教室にいた人間は…

優衣羽(Yuiha)
8か月前
7

ルーティンワークに欠けた何か

生活は続く PM6:30 仕事終わりにスーパーへ行く。 PM7:00 帰宅。 PM7:30 夕食。無音。 PM8…

優衣羽(Yuiha)
8か月前
10

泡になって消えるなら、共に死んで馬鹿げた永遠を語らせろよ

「泡になって消えちゃうらしいよ」 昔々、と言っても二百年ほど前。ハンス・クリスチャン・ア…

優衣羽(Yuiha)
9か月前
5

Paradise Regained

薪を割る音が冷たい空気を裂くように響いた。 かじかんだ手で切り株から跳んだ薪を拾う。雪は足跡を残した。曇天から温かな陽射しが差し込む事はない。一人、薪を抱え片手は斧を引きずりながら歩を速めた。崖の上に立つ小屋は石造りで外壁。崖の下に広がる海から吹く潮風によって隙間風が吹くようになってしまった。 小屋の前まで着いた時聞こえた大きな波音に扉を開けようとした手が止まる。薪と斧を投げ捨て、小屋の壁を伝い崖の先へ足を進めた。 海は荒れ白い飛沫は何百年も前に描かれた浮世絵のようだっ

Planetes

彷徨う者たちへ 『アテンション、アテンション――プロジェクト・ノアが地球から離れて、本日…

優衣羽(Yuiha)
11か月前
6

小指でした約束を、薬指で誓い合う。

「指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーます!」 「指切った!」 遠い昔の記憶、誰もが口に…

優衣羽(Yuiha)
11か月前
7

さよならは突然来るのではない。忍び寄っていた事に気づけなかっただけだ

「人は必要な時に、必要な人に会うらしいよ」 深夜のファミレス、ラストオーダーを聞きに来た…

10

前世の推しとアイドルは、まともな恋など出来やしない

突然だが、前世の記憶はあるだろうか。 人は皆、輪廻転生を繰り返すと言うが、前の世で生きて…

8

神様なんて

※この物語は2020年に角川文庫より発売された「紅い糸のその先で、」の初期原案、「ウラニアの…

6

ウラニアの慈悲

※この物語は2020年角川文庫より発売された「紅い糸のその先で、」の初期原案です。 ウラニア…

6

幸福はあの日の姿を形作っていた

『お元気ですか?と言っても、数日振りなんだけど。 やっとこっちに着いて、荷解きしてすぐ手紙を書いています。 高い建物ばかりで不思議な感じです。空気の匂いもそっちとは全然違う。 窓の外から見える風景に、今はワクワクが止まらないんだ。 君はどう?休みにはそっちに帰れるといいな』 『久し振り。やる事が沢山あって手紙を書くのが遅れました。 返事ありがとう。最近の僕は慣れない土地で四苦八苦しています。 最近友達が出来たんだ。色々教えてもらってるよ。 前に君が行きたいって言ってたお菓子