スクワットにおける「ニースリーブ」の有効性、そしてサイズの選び方は?~論文から、筋トレ用の「ギア」について考えてみよう~
いわゆるBIG3、バーベルコンパウンド種目のトレーニングを行っている方は、何らかのギアを身に着けてトレーニングをするんじゃないかと思います。
トレーニングベルト、ニースリーブ、リストラップあたりは定番といってよいでしょう。
この3つに関しては、パワーリフティング競技のクラシック部門でも使用が認められています。
それぐらい、エレメンタルなギアだということでしょう。
ただ、最近はベルトを巻かずに筋トレを行う人も増えているようですが。
たしかにマシン主体のトレーニングだと、ベルトで腹圧を高める必要はあまりないかも知れません。
他にも、エルボースリーブ、リストストラップ、もしくはパワーグリップやグローブなども、使う人はいるんじゃないでしょうか。
いま「あれ、いまリストラップが2回出てきた?」と思った方、いませんか。
リストラップとリストストラップ。
名前は似ていますが全くの別物です。
紛らわしいですよね。
リストラップ
は手首に巻き付け、
主にプッシュ系の種目に使用します。
代表的なものだとベンチプレスや、ショルダープレスなどですね。
(相当マニアックですが、デッドリフトに使うやり方もあるにはあります)
プッシュ系種目を行うとき、巻き付けることで手首を保護します。
個人的な印象ですが、だいたいベンチプレスで100㎏ぐらいを扱うようになったら、付けた方が良いように思います。
手首の関節付近は繊細で小さい骨が多いので、ラップを巻いて保護した方がトラブルなく、より長期にわたってトレーニングができるでしょう。
これはもちろん、手首に負荷のかからない、適切なフォームが出来ているというのが前提の話です。
フォームが不適切なのをごまかそうとしてギアを使うのは、本末転倒ですのでご注意を。
むしろ、ケガのリスクを増大させるだけでしょう。
いっぽう、
リストストラップ
は同じく手首に巻いて使うのですが、
こちらはローやプル系に使用します。
種目でいうと、ベントオーバーローイングやラットプルダウン、もしくはデッドリフトが代表格でしょうか。
ちなみにパワーグリップは、このリストストラップをより簡便にしたものです。
リストストラップというのは、ローイングやプルなどの種目で、握力を補助するための道具です。
たとえばベントオーバーローイングでバーベルを引くとき、背中よりも先に握力が限界を迎えてしまう場合があります。
そんな時、ストラップを巻いて握力を補助することで、さらにレップ数を稼ぐことが可能になります。
これはちょっと毀誉褒貶のあるギアで、中には「握力が鍛えられなくなるからストラップは一切使わない」なんて硬派な人もいたり……。
個人的には、「使える道具は必要な場面で適切に使ったらいい」と思います。
たとえば「ルーマニアンデッドでレップ数を稼ごう」と思っているのに、先に握力が尽きてしまうのは非効率的です。
こういう場合は迷わず使ったらいいと思います。
とはいえ、「握力」というのはけっこう重要な問題なので、つねに付けっぱなしというのも賛成できません。
使う場面と使わない場面の選択が重要だと思います。
ヒザの保護?それとも見栄?
さて、それではそろそろ肝心のニースリーブの話題に。
ヒザ関節というのは、二足歩行するヒトにとって、なにかとトラブルを抱えやすい部位です。
健康系の通販番組なんかでも、「ヒザ関節の痛みを緩和するのを、助けるのに役立つ!」とかなんとか聞く場面も。
(薬事法などの関係で、表現が妙にまわりくどくて曖昧というか、ソフトなのが興味深いですね)
過去に何か競技をやっていた人であれば、ヒザの不調を抱えた経験は何かしらあるのではないでしょうか。
特に、ジャンプやダッシュ動作の多い競技ほど、その可能性は高いでしょう。
そんなわけで、ケガ防止の観点から、あるいはケガした古傷を保護する目的で、ニースリーブを穿いてスクワットをしているという人も多いと思います。
「武器」としてのギア
ただ、ギアというのは因果なもので、中には「挙上重量を少しでも増やしたい」から身につける、という人も一定数存在します。
じつは、トレーニングギアには、
関節を保護し、ケガを防ぐ
いっぽうで、
挙上重量を増やす
という、別の使用目的があるのです。
ただしこれは、「種目の動作がやりやすくなる」という変化の、「表の面と裏の面」ともいえます。
たとえば後者に特化しているのが、フルギア部門のパワーリフティングで使用される、
ベンチシャツやニーラップ、スクワットスーツなどです。
こうしたギアはちょっと特別で、例えばベンチシャツを着ると、100㎏程度の「軽い」重量だとバーが胸に付かないそうです。
スクワットスーツとニーラップの組み合わせも、同様だといいます。
デッドリフト試技の際など、しゃがんでバーを掴むのが大変そうな場面も見かけます。
それぐらい反発のきついギアを、セコンドなどに協力してもらい、着るのです。
(完全に自力で着られる人はいないでしょう)
聞いた話によると、「効かせる」のが上手な選手は、ギアを使用することで、記録を50㎏以上!伸ばせるそうです。
たとえばベンチプレス150㎏挙がる人が、ベンチシャツを着ると200㎏以上挙がるということです。
これはすごいですよね。
3種目のトータルだと、合計で150㎏も伸びるのです。
そして、この「フルギア」はさすがに極端だとしても、通常のニースリーブやリストラップでも、挙上重量は増えます。
もちろん、フルギアほどではありませんが。
ただ、使用するとしないとでは、明らかに数㎏変わってきます。
そこで今回紹介したいのは、
ニースリーブがスクワット1RMの記録に及ぼす効果について調べた論文
です。
2021年の研究だそうです。
18~35歳の健康な男性(平均22.1歳±4.1)15人を被験者に実施されました。
実験のテーマは、ニースリーブの効果、およびそのサイズの適否が及ぼす影響についてです。
効果のないスリーブ(統制条件)
効果のあるスリーブ/適正サイズ
効果のあるスリーブ/きついサイズ
の3つの条件で、スクワットの記録を計測しています。
統制条件というのは、「なるべく実験の条件を同じに揃えることで、より良質なデータを得ようとする工夫」です。
この場合、何も穿かないよりは効果のないスリーブを穿くことで、条件を揃えています。
それから計測自体は、スクワット以外にも、垂直飛びやジャンプスクワット、片脚でのレッグエクステンションなどでも行っています。
下の画像をごらんください。
右側、「効果のあるスリーブ」として使用されたのは、パワーリフティング業界ではおなじみのSBDのスリーブですね。
2021年の研究なので、使用したのは現在「2013ニースリーブ」と呼ばれる旧版だと思います。
ロゴの新旧からも判断できます。
面白いのは、このスリーブを適切なサイズで穿いた場合と、それよりも小さいサイズを穿いた場合でも比較している点です。
パワーリフティングの業界ではものすごい小さいサイズのスリーブを穿く「猛者」が一定数いて、なぜならその方がサポートの効果が高くなる、と考えられています。
そのへんの真偽ついても調査したのでしょう。
いっぽう、「効果のないスリーブ」として使用されたのは、メーカー不明ですがナイロン85%、エラスタン(ポリウレタン)15%のスリーブです。
引用した画像の左側で、いかにも効果なさそうですね……
よく分かりませんが、以前の実験で「ほとんど何の効果もない」ことが確かめられたんだとか。
写真をよく見ると、ロゴがある辺りが修正されています。
製造元にはばかったのでしょう。
ニースリーブというか、一般用の「ひざサポーター」みたいなものでしょう。
また加えて面白いのは、今回の実験では、バーベルの重さが被験者に分かりにくいような工夫もされています。
下の画像をごらんください。
バーベル部分に、「覆い」がかぶせられています。
これによって、被験者は自分が今何㎏を挙上しようとしているのか、分からないようになっています。
これも統制条件と同様に、できるだけ「思い込み」が実験結果に影響を及ぼさないように配慮したのでしょう。
「プラセボ」対策ですね。
さあ、それで結果はどうなったでしょうか。
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