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トレーニングボリューム、どれぐらい増やすか?それとも維持すべきか?~ 今回も論文から考えましょう ~
〜3月23日 19:00
さて、最近では筋力トレーニングにおいて「トレーニングボリューム」という概念がトレーニーの間でも一般的になりつつあります。
トレーニングボリュームというのは、分かりやすくいえば
各部位の、1週間あたりの総セット数
のことです。
「1回のトレーニング」ではありません。
基本的に、この数値が大きいほど筋トレの成果は大きくなると言われています。
しかし、だからといってやみくもに増やしてもダメで、どうやら「適量」となるボリュームの範囲があることも、分かってきています。
実験や研究によって(もちろん個人によっても)けっこうなバラつきがあるのですが、おおむね各部位につき、週あたり10~30セットぐらいが有望なようです。
うーん。
正直なところ、「適量」の範囲が広すぎますね。
というか、特にボリュームを意識せずトレーニングをしていても、大抵の人はこの枠内に収まっているんじゃないでしょうか……
むしろ、本当に知りたいのはその10~30セットの範囲の中で、もっとより具体的なセット数です。
10なのか、20なのか、30なのか?
あるいは、さらにその間なのか?
ところが、従来の実験や研究による限り、けっこうまちまちな結果が出ているのが現状です。
今一つ、最適なトレーニングの範囲が絞り切れていません。
いちおう、筋肥大目的の方が筋力向上よりも最適セット数は多めになるのかな、という傾向はありそうですが。
(もっというと、筋肥大には追い込む系のトレーニングの相性が良いようです)
たしかに、そもそもの前提としてトレーニングボリュームの問題は個人差が相当に大きいと思われます。
回復が早い人もいれば、そうでない人もいるわけです。
それ以前に男女差や年齢差、トレーニング経験の差といった要因も大きいでしょう。
なので、ことボリュームに関してはトレーニング科学というものはあまり参考にはならず、結局は自分自身の感覚や経験に頼って判断していくしかないのかな、と思っていました。
そんな中、今回ちょっと興味深い論文を見つけたので紹介しましょう。
論文の内容
とりあげるのは、
トレーニングボリュームの「変化」が、筋肥大や筋力向上にどれぐらい寄与するかを調べた実験
です。
2024年12月、アメリカのタンパ大による研究です。
タンパといえばフロリダですね。
共著者の一人には、業界では有名なブラッド・ショーエンフェルト博士の名も。
この論文の着眼点が面白いのは、トレーニングボリュームの 多い/少ない を
被験者のそれまでのトレーニング状況を基準にして、そこから導いている
という点です。
少なくとも3年以上のトレーニング経験のある男性55人(18.1~36.7歳)を被験者に、今回の実験は行われました。
その彼らに直近3週間のトレーニング状況をたずね、それを「基準」としてトレーニングボリュームを変化させる(させない)ことで、筋肉の成長の具合を確かめたのです。
それぞれ、
変化なし(統制群)グループ
+30%グループ
+60%グループ
の3つに分けて、実験を行いました。
たとえば+30%グループの場合ですと、週あたりのトータルセット数 が 直近3週間での平均セット数 の1.3倍になるように、設定したわけです。
プログラムとしては週に2回で8週間、合計16セッションのトレーニングを実施しています。
行う種目はスクワット、レッグプレス、レッグエクステンションです。
ただし、実験以外の場で被験者が自発的に「補助トレ」などしないように、➀ルーマニアンデッドリフトと➁グルートハムレイズもトレーニングメニューに加えられています。
「大腿の前側ばっかり8週間もやってたら、臀筋とハムがバランス悪くなるわ!」という被験者からの不満(笑)が出ないよう、配慮したのだと思います。
(ただ、それだと上半身についてはどうなのでしょうね……)
また、週のうち
1回目のセッションを「低回数の日」
2回目 を「高回数の日」
として、
低回数の日は「6~8レップ」(80~85%1RMぐらいの負荷と思われます)
高回数の日は「12~15レップ」(65~70%1RMぐらいの負荷)
の負荷を用いています。
いわゆるRPE(主観的疲労尺度)に基づき、被験者の感覚で「残り2レップの余裕しかない」となったら、その時点でセットは打ち切られます。
(ただし、各種目の最終セットは潰れるまで行う)
それから、毎回トレーニング前に175mgのカフェインをサプリメントとして摂り、トレ後には22gのプロテインと2gの炭水化物を飲んでいました。
また細かい点ですが、スクワットの膝の角度は100°と論文にあります。
分度器のようなもので、実際に角度を計測したようです。
バーの位置やフォームにもよりますが、しゃがみの深さはだいたいハーフとパラレルスクワットの中間ぐらいじゃないでしょうか。
加えて、スクワットのボトムポジションにアジャスタブルシートを設置し、1レップごとに「タップ&ゴー」で、つまり毎回しゃがむ度にシートにお尻が触れるようにしたとの事。
これなら、スクワットの深さの問題が客観化されます。
さすが手順が厳密ですね。
そして、実験の前と後で測定する項目は
スクワット1RM
スクワット70%1RMの最大反復回数
大腿前部の除脂肪量(≒筋肉量)
大腿前部の筋肉の厚み
です。
ということで今回の実験は下半身、より具体的には大腿四頭筋の成長に対象を絞って実験を行ったようです。
筋肉量の測定に使用されたのは、Lunar Prodigyという機材です。
Youtubeに機材を紹介した動画がありました。
また実験にあたっては、実験前の被験者ごとのトレーニングボリュームの多寡が結果に影響を与えることのないように、被験者の直近3週間のトレーニングボリュームに応じて、
少ない・中間・多い
の3つに事前にグループ分けした上で、そこから改めて先ほどの3グループに、無作為に割り振っています。
もともとトレーニング量の少なかった人、もしくは逆に多かった人ばかりが特定のグループに偏って割り振られることのないよう、グループ分けの手順を工夫したということです。
たとえば、もともと週10セットの人が+30%だと週13セットですが、30セットの人の場合は39セット!になります。
+3セットと+9セットでは、同じ+30%のボリューム増でもだいぶ結果が変わってくる可能性がありますよね。
そこで事前のグループ分けによって、その影響をなるべく排除しようとしたわけです。
論文によると、どうやら従来のボリュームに関する実験ではこのような観点はほとんど無視されていたようです。
たとえば従来であれば、
筋トレ経験者を集めて、週あたり10セット、20セット、30セットの3グループに振り分け、筋肉の成長度合いを調べる
ようなデザインの実験を行うことが多いです。
(それぞれ低ボリューム、中ボリューム、高ボリュームと分類するわけです)
しかし、彼らは筋トレ経験者なので、実験の開始まで自分で行っていたトレーニングのメニューがあるわけです。
仮に、それまで週10セットのトレーニングしていた人が30セットに増えたらボリュームは一気に3倍ですが、もともと30セットだった人にとっては全く変化がないことになります。
逆に、30セットだった人が10セットになったら、一気に3分の1です。
つまりボリュームの「多い/少ない」以前に、ボリュームの「増/減」という別の要因が介在してしまい、しかもそちらの変化による影響の方が大きいと思われるので、「トレーニングボリュームと筋肥大の関係」を調べる実験としては不適当ですよね。
これが本論文の問題提起というか、切り口です。
さて、それでは結果はどうなったでしょうか。
実験結果
まず、今回の実験について一つ留意して欲しい点があります。
それは、実験からの脱落者が非常に多いことです。
被験者は55人ですが、そのうち実験を完了したのはわずか29人。
実に、半数近くの26人が実験から途中で脱落しています。
ただし、ケガなどで脱落したのはそのうち6人(実験に関するケガが4人)で、また「個人的な理由」(途中で実験をやめてしまうパターン)が2人です。
そして、残り18名の脱落理由はなんと
COVID-19
でした。
期間中に「新型コロナウィルス」に罹患してしまったのです。
この論文、出版されたのは2024年の12月ですが、論文が受理されたのはそれよりも前ですし、実験そのものが行われた時期は更にさかのぼることになります。
おそらく、2021年か2022年ぐらいに実施されていたのではないでしょうか。
(論文には、「パンデミックの期間にデータを集めた」とあります)
その頃ですと、まだまだたくさんの感染者が出ていましたね。
ということで、もしかしたらコロナウィルスのせいで今回のデータに何らかの影響がもたらされた可能性は、残念ながら否定できません。
さて、それでは結果を見てみましょう。
筋肉量(除脂肪量)と筋肉の厚み
筋肉量(除脂肪量)
統制(変化なし)グループ 26.40±2.43 → 27.97±2.78
+30% グループ 25.82±2.92 → 26.29±2.76
+60% グループ 25.65±2.68 → 27.20±2.72
(単位は㎏)
厚み
統制(変化なし)グループ 11.08±1.49 → 12.15±1.59
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2月21日 19:00 〜 3月23日 19:00
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