イタリアで修復技術士として働くために
フィレンツェで修復学校を卒業する直前から、せっかく学んだイタリア語を活かしながら修復技術士として働く経験がしたいと思い、イタリアに残ることを決めていました。また卒業の数ヶ月前までインターンシップをさせて貰っていたボローニャの大きな修復工房で『もし学校を卒業してからもイタリアに残るなら、うちに仕事をしにおいで』と声をかけてもらっていたので、卒業後に学校を通して正式にそこで働かせてもらうことになりました。
イタリアにはたくさんの芸術作品があり、その分修復士も必要とされているように思われますが、実際には多くの修復士がやりたがるような美術館に所蔵されているような有名な作品を修復する仕事は経験のある修復士やローマやフィレンツェなどの国際的な修復機関に委託されるのがほとんどで、個人で活動している修復士はまずはcantiere(カンティエーレ)と言われる外での人手が必要な現場仕事から始めるのが殆どです。
そのため、外国人だからという理由だけでなく、そもそも修復士としてどこかに雇ってもらったりすぐに自分のやりたかった仕事を見つけるというのはイタリア人にとっても難しいことなのです。
この現状を踏まえると、私が学校卒業後すぐに働き場所が見つかり、立派な修復工房の中で働かせてもらえたことは本当に奇跡のようなことだったと思います。
私が学校を卒業したのは2021年の12月で、最初の仕事の契約としては2022年1月からの3ヶ月間でした。私は主にキャンバス画や額の修復作業を任せてもらいました。私は他に当てがあるわけでもないのでできるだけ長く働かせてもらいたいと思い、契約が切れる月末に契約を更新してもらえないかとお願いし、1ヶ月だけ伸ばしてもらうことができました。ただ5月からは、その工房内で展示会があり仕事をするスペースがなくなってしまうということもあり、契約が更新されることはありませんでした。
私はすぐに、ボローニャでインターンシップをさせてもらっていた別の小さな工房に一緒に仕事をさせてもらえないかと連絡しました。そこでも快く受け入れてもらうことができましたが、一つ条件がありました。それはPartita Iva (パルティータイヴァ)という、イタリアで個人事業主として働く際に必ず必要になる商業税番号を取得するということでした。イタリアでの修復士としての働き方は大きく二つに分かれていて、大きな修復工房に雇われるか、パルディータイヴァを取得し個人事業主、いわゆるフリーの修復士として活動するかになります。ただ修復士として、すぐにどこかに雇われるというのはかなり稀なケースです。私が今まで見てきた修復士も多くがパルティータイヴァで仕事をしていました。
パルティータイヴァで働くことの私が思うメリットとデメリットは以下です。
メリット
•仕事内容、時期、場所などを自分で選ぶことができる
•長期休暇が取れる
デメリット
•税理士や税金、保険料など出費が多い
•仕事が見つからなければその分収入もゼロ
支払う税金については、取得するパルティータイヴァの種類によっても異なりますが、私の場合は収入の30%を税金で取られるものでした。
とにかくパルティータイヴァは取得するだけでもお金がかかる上に、税理士への支払いや税金など出費が常にあるのでできれば取得せずに雇われるようにするのが理想です。
ただ前述したように、修復士として雇用されるケースは少なく、仕事を続けていくには必ず必要になるから、と説得され、私はそこでパルティータイヴァを取得しフリーの修復技術士として働き始めました。
そのボローニャの小さな工房で働いたのは3ヶ月ほどで、その年の夏私は約3年ぶりに日本へ一時帰国し、一ヶ月間久しぶりの日本食と、家族や友人との時間を楽しみました。
イタリアへ戻ってから拠点をモデナというイタリア北部の小さな町へ移しました。
次回はモデナでの仕事についてです。
今日のイタリア語!
Lavoro (ラヴォーロ)
仕事
私は日本でもアルバイトしか経験がなかったので、社会人デビューはイタリアですることになりました。イタリア人はプライベートの時間、特に家族との時間をみんなとても大切にするので休みの日はしっかりと休むし、自分の仕事が終わればサッと帰ったりして、みんながみんなそんな働き方なので誰かを責めることもなく、その点ではストレスの少ない働き方だと感じました。