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イタリアにおける修復士資格の違い

イタリアで文化財修復に携わる人たちは大きく、Restauratoreレスタウラトーレ(修復士)とTecnico del restauro テクニコデルレスタウロ(修復技術士)の二つに分かれます。

修復士の資格は、イタリアの大学で5年のコースを履修し卒業した段階で与えられます。またコースを選択する際に、紙やキャンバス画、石、金属などの専門分野を選択するため、資格にはどの分野で卒業したかも記録されます。

一方修復技術士は、修復の専門学校で3年のコースを履修し卒業すると与えられます。このコースでも、紙やキャンバス画、フレスコ画など専門分野を選択します。

修復技術士は3年の間に自分の選択した分野の修復技術の基本的なことに加えて、美術史やデッサン、化学なども学ぶため個人的には広く浅くといったイメージです。一方で修復士は5年間自分で選択した分野の修復について学ぶのでより専門性が高く、広く深く学べるイメージです。

私はパラッツォスピネッリの絵画修復の3年コースを選択したので、卒業時には修復技術士としての資格を得ました。

しかし修復士と修復技術士の違いは、卒業後の仕事の選択に一番影響します。実際に私は学校に通っている間や卒業してすぐの頃は、修復士と修復技術士の違いについてほとんど知りませんでした。

以下に、私が実際に修復士ではなくフリーの修復技術士として働いてみて感じた違いを書いてみようと思います。

まずフリーの修復技術士として働くにあたって、時給を決定します。時給は各々が自己申告制で決めている部分なので、私も毎回一緒に働く人が変わる度にお金を払ってくれる修復士と時給何ユーロで働くかを相談しました。もちろん、この時給も修復士に比べて修復技術士は低くなります。どちらも経験年数によって変わりますが、修復士の時給が18〜37ユーロ、修復技術士の時給は8ユーロから24ユーロといったところです。

もう一つの違いとしては出来る仕事が変わってくることです。修復士は、卒業時に取得した分野の仕事なら、個人依頼から市や国が所有する文化財の修復の仕事まで、契約書に修復士としてサインし一人で仕事を受けることができます。
一方修復技術士は、個人依頼の仕事は受けることができますが、市や国が介入する大きな仕事を受けることはできません。しかし、その仕事をできないわけではなく、修復士の資格を持つ人と一緒であれば仕事をすることができます。

このようにして、修復技術士は修復士と比べて制限があり、フリーの修復技術士として働くならば仕事だけでなく、時には一緒に働いてくれる修復士を探す必要があります。

ただ現状としては、特に現場の仕事は修復士一人でできるものではないので、修復技術士の募集は常にあります。

私自身、イタリアに来た時点でいきなり大学に5年通えるようなイタリア語力も無く、そもそも修復士と修復技術士の違いについて理解していなかったため3年のコースに通いましたが、働き始めてから何度か仕事の幅を広げるためにどうにか修復士の資格を取ることはできないかと学校に連絡取ったり情報を集めたことがありました。結果として分かったことは、現在のイタリアの制度には修復技術士があと2年学校に通い修復士の資格をとったり、仕事の経験年数を考慮し試験を受ける事で修復士の資格を得るなんて事はできず、丸5年大学に通い直す他ないという事です。丸5年大学に通うということは、もちろんその分の学費が必要なだけでなく、その期間仕事もできないため、私はそれを諦めました。

だから、もしこれからイタリアで修復を学び、 卒業後も出来るだけ長くイタリアで修復士として仕事をしたいという意思があるならば、5年のコースに通い修復士の資格を取る選択肢があることを知ってもらえたらと思います。

次回はイタリアの生活、アパートやルームメイト、家賃についてです。

今日のイタリア語!

Contratto コントラット(契約書)

Firma フィルマ(サイン)

修復士が協力者として修復技術士を現場において仕事をする時、修復士一人につき二人の修復技術士を置くことができます。また修復士も修復技術士も文化庁のリストに登録しなければならず、市や国などの大きな仕事をする際はちゃんとそのリストに載っているかチェックされます。



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