ウサギ洞窟 後編
ウサギ洞窟の入り口には、土器や人骨のかけらが散らばっていた。
カルロスの指示のもと、昨年大学の考古学科を卒業したばかりの若い助手、アレックスが、内部の様子を見に洞窟の中へと入っていく。しかしすぐに、首をふって引き返してきた。洞窟は下へ下へと垂直に続いていて、これ以上はロープがなければ進めないという。おそらく、誰かがかつてこの洞窟を下まで降りて、中の遺物を入り口まで持ち出してきたのだろう。めぼしいものは、既に持ち去られたあとかもしれない。いずれにせよ、下まで降りるには相応の準備が必要である。やむなく、今回は中まで入らず、遺跡の登録だけ済ませて引き返すことにした。
入り口付近に散らばっていたのは、赤や薄茶色の厚手の土器だった。中には、粘土を貼り付けて波打たせたような装飾を持つものもある。この模様から、今から五百〜千年ほど前のものだろうと当たりをつける。
辿り着くだけで一苦労、登り降りも容易ではないようなこの洞窟に、恒常的に人が住んでいたとは思われない。おそらくこの場所は、主に埋葬のために使われた場所だったのだろう。洞窟を去る前に、そっと手を合わせた。
翌週。我々は気を取り直して、山道を2時間登った先にある別の洞窟遺跡に向かった。途中から雨が降り出し、散々な道行きだった。前回の準備不足を反省して、今回はロープと梯子を用意していたので、なおさら大変な道程である。雨の中、梯子を担いで延々と山道を歩いてくれた調査助手のアレックスとボリスには、頭が上がらない。
幸いなことに今回の洞窟は、入り口も広く、容易に奥まで進んでいけた。ここでもウサギ洞窟のものとよく似た土器が、あちこちに散らばっていた。石でつくった斧も1点見つかった。岩壁の一部が煤けている。かつてこの中で火が焚かれたのだろう。近くに浅い窪みがいくつか作ってあったので、そこで煮炊きが行われたのかもしれない。
調査の帰り、道沿いの食堂で、ちょっと変わった食べ物に出会った。ピクロの肉である。ピクロは、カピバラを一回り小さくしたような大型の齧歯類だ。見かけは可愛らしいが、畑の害獣で、なんでも食べてしまう厄介者らしい。街なかのレストランでは見かけなかったが、村の方では一般的なメニューだという。この肉も、近くの畑で獲れたばかりのものなのだろう。
味は豚肉によく似ていた。脂がのって美味だった。