幸先の悪いスタート
遺跡探しは、順調にスタートしたとは言い難かった。
アマゾンの入り口の街、ティンゴマリアの郊外に拠点を定める。州都のワヌコほどではないが、ほどほどの大きさの街である。このあたりでは、険しい山と森の合わさった独特の自然を生かした観光業が盛んだ。今年はコロナ禍での厳戒態勢が解かれたことで、観光客も戻り、街は活気にあふれていた。
実は昨年、私たちはこの街から車で2時間ほど山側にすすんだところにある村の近くで、発掘調査を行っていた(そこでの発見が、今年の調査を始めるきっかけになった)。村には大きな店もATMもない。買い出しやお金の引き出しのために、ティンゴマリアにはちょくちょく通っていた。街に出るたびに、このあたりでどこか遺跡を知らないかと訪ねてみるものの、誰もが首をひねるばかり。街なかで聞き回っていてもらちが開かないと、この時思い知った。
そこで今年は地元の考古学者のツテで、この街に支部のある、とある政府系の団体を紹介してもらうことになった。地方の経済開発支援を行っている団体で、周辺の村に顔がきくという。彼らの一人をガイドに、一緒に村々を回ることにした。
ところがいざ訪ねてみると、村の人々の反応が芳しくない。私たちが考古学者であることや、調査の目的を話してみても、どこか疑いの目で見られている。どうやら自分たちの土地に入って欲しくなさそうな様子だ。結局、何かあれば知らせてほしい、と連絡先を渡すのみで、はかばかしい成果は得られないまま、街への帰路に着くことになった。
そっけない態度の理由は間もなく知れた。最近この辺りでは、中国資本の会社が鉱山開発のために人を派遣し、許可を得ないままひそかに土地の調査を行なっているというのだ。どうやら我々も、考古学者とは仮の姿、実際は違法採掘の一味なのではないかと疑われたらしい。今回の調査隊には、ペルー人メンバーの他に、私ともう一人日本人がおり、日本語で会話していたのを聞かれていたのも災いした。しかも、これはのちに知ったことだが、私たちが今回頼りにしたこの団体、実はお金をもらってそうした会社を手引きしているウワサがあったのだという。地元の人にとってみれば、怪しさ満点、といったところだったのだろう。
その後、この地域をよく知る先住民の青年と知り合い、調査はようやく軌道に乗り始めた。