救急車のサイレン
暮れに最後の食事を届けることになった同じ年の春。親しくなった老婦人のベティにその週の分を届けていつものようにおしゃべりしていた。
とつぜん近くに救急車のサイレンが鳴り響いた。
道路沿いのベティの部屋ではサイレンは会話のじゃまだ。
「速く通りすぎればいいのに。。。」そう思って、わたしはサイレンの音の消えるのを待っていた。
その時
「だいじょうぶだといいけど。。。」ベティがつぶやいた。
「えっだれのこと?」
ベティは両手を重ね眠っている動作をした。
ああ、救急車の中の人!
一緒に同じサイレンを聞いてるあいだ、わたしの方は「速く通りすぎればいいのに。。。」それだけ。
ベティは生死を争うたたかいをしてるだろう救急車の中の人のことに思いを馳せていた。
ベティ自身、救急車の中でそんな闘いをしたことがあったのだった。
今まで何百回も救急車のサイレンのひびきわたるのを聞いていながら、わたしは中の人のことなど一度も思ったことのないのに気がついた。
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つか子と「あの人」プロローグ
エピローグ:つか子と「あの人」
長編:[完 ]つか子と「あの人」プロローグ・本章・エピローグ:編集中
最近の作品: 『夫90歳・妻77歳:フィリーは朝食の話』
『切花と先住民』 『救急車のサイレン』
『夫の質問:タンスの底』 『外せないお面』
『みじか〜い出会い・三つの思い出』
『スイカと鳩:ひとりの小さな平和活動』 『昭和40年代:学生村のはなし』『クエーカーのふつうしないこと:拍手』
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