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毎日超短話376「読む時間」 #シロクマ文芸部

読む時間がないから、読んでおいて。と、妻に本を渡される。子どものときに、トイレ行きたいから、代わりにトイレに行ってくれる? という親との謎の交渉があったなと私は思い出している。

「感想も教えてね」

ネタバレになって面白いのかと思うが、妻はそれで読んだ気になるようだ。

「そういえばさあ、あれ読んだ? すごい面白かったよ〜」

それを読んだのは私である。読む時間がないからと、読んで感想を伝えた、前回の、あれ。ほとんど私の感想を妻から聞かされる。若いときは、そういう整合性のないものをいちいち正そうとしていたが、それは徒労であり、平和を脅かすものだと私は悟った。なので、「こんど読んでみるよ」と言う。

「絶対、読んでね! 傑作だから!」

実は私は心が踊っている。その本を書いたのは、私だ。ペンネームなので気付かないようだけど。

*

夫が夜中にパソコンで何かを書いていたのは数ヶ月前。夫の居ない間にコソッとそれを読むと、夢中になってしまった。その小説が本屋に並んでいる。知らないペンネームだったけれど、内容が同じだ。夫に読んでおいてと言ってみよう。どんな反応をするかしら。


シロクマ文芸部さんへの投稿です。
ありがとうございました〜


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